株式会社パーソル総合研究所と、株式会社ベネッセ教育総合研究所は、立教大学・中原淳教授と共同で、「就業者の社会貢献意識(ソーシャル・エンゲージメント)」に関して行った調査の結果を発表した。調査期間は2023年1月27日~30日で、有期雇用を含む18~69歳の就労者6,000名より回答を得ている。これにより、ソーシャル・エンゲージメントの仕事や学びへの影響度などが明らかとなった。
中原教授、パーソルらによる「ソーシャル・エンゲージメント」に関する共同研究。人権や環境への意識は「学び」と大きく相関か

ソーシャル・エンゲージメントが高い層ほど「環境/人権配慮行動」なども高い傾向

昨今、SDGsやESG投資など持続可能な社会づくりが求められている。一方で、日本人の社会課題への意識や行動は、国際的に見て極めて低いことが指摘されているという。そこで、パーソル総研らは“ソーシャル・エンゲージメント”(以下、S.E)を、「就業者の社会課題解決への関心の強さや責任感、課題解決への効力感」と独自に定義して、調査を行った。

同社らの共同研究によると、S.Eの高低を比較すると、就労形態別では「公務員・団体職員」が、業種別では「教育・学習支援」、職種では「クリエイティブ職」の値が高かったという。さらに、S.Eが高い層は低い層に比べ、「幸福感を持って活躍している人」が約3倍も多いという結果が得られたとのことだ。

この結果を踏まえ同社らは、S.Eが高い層における、「環境配慮行動」や「人権配慮行動」および「仕事での意識」を調査した。すると、「環境配慮行動」(環境に配慮した商品の選択・環境に配慮した異動手段の選択・環境保全活動への参加など)については、「S.E低層」の平均値が1.97ポイントだったのに対し、「S.E高層」の平均値は2.31ポイントだった。また、「人権配慮行動」(フェアトレード商品の選択・被災地や貧困地域への支援)は、「S.E低層」の平均値1.68ポイントに対し、「S.E高層」の平均値は2.02だった。「環境配慮行動」、「人権配慮行動」の項目で、いずれも「S.E高層」の平均値が高かった。

また、「仕事での意識」では、「ダイバーシティへの意識」、「環境への配慮」、「人権への配慮」、「地域への配慮」、「健康への配慮」の5項目の平均値はいずれも「S.Eが低い層」よりも「S.Eが高い層」方が上回っていることがわかった。
環境配慮・人権配慮行動、仕事での意識(S.Eの低層/高層別)

S.Eが高い層ほど「学びへの意識」が高く、「学び」への行動も積極的

また、同社らは“S.Eの高低”と「学びへの意識・行動」を調査した。はじめに「学びへの意識」に分類された「何歳になっても学び直しをする必要がある時代だ」との項目は「S.Eが低い層」が57%、「S.Eが高い層」が85%だった。「積極的にスキルや能力を伸ばしていきたい」との項目は、「S.Eが低い層」が37.3%、「S.Eが高い層」が69.8%だった。

また、「行動での意識」を見てみると、「学びや学習に前向きに取り組んでいる」の項目では、「S.Eが低い層」は24.6%だったのに対し、「S.Eが高い層」では55.6%と、学びへの積極性は2倍近く差が開いた。
学びへの意識・行動(S.Eの低層/高層別)

学生時代の積極的な取り組みが「社会貢献意識」に影響

続いて同社は、34歳以下の1,383名を対象に、「行動スタイル」と「学びスタイル」に対するS.Eの高低の関わりを調べた。その結果、「行動スタイル」では「積極的行動」、「ネットワーク行動」、「内省行動」の3項目で、いずれも平均値が0.5ポイント高かった。

また、「学びスタイル」においても、「領域を超えたカリキュラム」、「能動的な学び方」、「職業と学びの紐づけ(ラーニング・クラフティング)」の3項目で、いずれも平均値が0.5ポイント上回った。

S.Eの高い若年層は学生時代に積極的に行動し、多様な人と交流する「ネットワーク行動」や「内省」を行っていた人が多いことがわかった。あわせて、学びと職業を紐づける「ラーニング・クラフティング」を意識するといった、能動的な学びに取り組んでいたことも明らかとなった。
行動スタイル・学びスタイルの平均値(S.Eの低層/高層別)

S.Eの維持・向上には「視野の広さ」や「仕事上の余裕」が影響か

ここまでの結果から、人事管理においてS.Eを高めることは、従業員の自主的な姿勢や能動的な学びに効果的だといえる。では、S.Eを高めるには、具体的にどのような施策が求められるのだろうか。

同社らによると、従業員のソーシャル・エンゲージメントの維持や向上を図ることで、「視野の広さ」と「仕事上の余裕」に好影響を与えることがわかった。また、「視野の広さ」には、「キャリア目標の明確さ」や「多様な人材の活躍支援」など“社会志向型の人材マネジメント”を行うことがプラスの影響を与えていると明らかとなった。

一方で、「移動転勤の多さ」や「新卒偏重の人員構成」などは、ソーシャル・エンゲージメントにマイナスに作用することがわかったという。
S.Eの維持や向上にプラスの影響がある項目
本調査結果では、ソーシャル・エンゲージメントの高さは、「学ぶ意識」と大きく関係があることが示唆されている。また、若手の社会貢献意識が高い人ほど、学生時代に多様な人とのコミュニケーションを取り、将来の仕事へつなげる学びを能動的に行っている傾向があることもわかった。従業員が仕事をする上で新たな楽しみややりがいを見出す、「ジョブ・クラフティング」を高めるための人材育成や人材マネジメントのあり方について、本調査結果をもとに考えてみてはいかがだろうか。

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