ソーシャル・エンゲージメントが高い層ほど「環境/人権配慮行動」なども高い傾向
昨今、SDGsやESG投資など持続可能な社会づくりが求められている。一方で、日本人の社会課題への意識や行動は、国際的に見て極めて低いことが指摘されているという。そこで、パーソル総研らは“ソーシャル・エンゲージメント”(以下、S.E)を、「就業者の社会課題解決への関心の強さや責任感、課題解決への効力感」と独自に定義して、調査を行った。同社らの共同研究によると、S.Eの高低を比較すると、就労形態別では「公務員・団体職員」が、業種別では「教育・学習支援」、職種では「クリエイティブ職」の値が高かったという。さらに、S.Eが高い層は低い層に比べ、「幸福感を持って活躍している人」が約3倍も多いという結果が得られたとのことだ。
この結果を踏まえ同社らは、S.Eが高い層における、「環境配慮行動」や「人権配慮行動」および「仕事での意識」を調査した。すると、「環境配慮行動」(環境に配慮した商品の選択・環境に配慮した異動手段の選択・環境保全活動への参加など)については、「S.E低層」の平均値が1.97ポイントだったのに対し、「S.E高層」の平均値は2.31ポイントだった。また、「人権配慮行動」(フェアトレード商品の選択・被災地や貧困地域への支援)は、「S.E低層」の平均値1.68ポイントに対し、「S.E高層」の平均値は2.02だった。「環境配慮行動」、「人権配慮行動」の項目で、いずれも「S.E高層」の平均値が高かった。
また、「仕事での意識」では、「ダイバーシティへの意識」、「環境への配慮」、「人権への配慮」、「地域への配慮」、「健康への配慮」の5項目の平均値はいずれも「S.Eが低い層」よりも「S.Eが高い層」方が上回っていることがわかった。
S.Eが高い層ほど「学びへの意識」が高く、「学び」への行動も積極的
また、同社らは“S.Eの高低”と「学びへの意識・行動」を調査した。はじめに「学びへの意識」に分類された「何歳になっても学び直しをする必要がある時代だ」との項目は「S.Eが低い層」が57%、「S.Eが高い層」が85%だった。「積極的にスキルや能力を伸ばしていきたい」との項目は、「S.Eが低い層」が37.3%、「S.Eが高い層」が69.8%だった。また、「行動での意識」を見てみると、「学びや学習に前向きに取り組んでいる」の項目では、「S.Eが低い層」は24.6%だったのに対し、「S.Eが高い層」では55.6%と、学びへの積極性は2倍近く差が開いた。
学生時代の積極的な取り組みが「社会貢献意識」に影響
続いて同社は、34歳以下の1,383名を対象に、「行動スタイル」と「学びスタイル」に対するS.Eの高低の関わりを調べた。その結果、「行動スタイル」では「積極的行動」、「ネットワーク行動」、「内省行動」の3項目で、いずれも平均値が0.5ポイント高かった。また、「学びスタイル」においても、「領域を超えたカリキュラム」、「能動的な学び方」、「職業と学びの紐づけ(ラーニング・クラフティング)」の3項目で、いずれも平均値が0.5ポイント上回った。
S.Eの高い若年層は学生時代に積極的に行動し、多様な人と交流する「ネットワーク行動」や「内省」を行っていた人が多いことがわかった。あわせて、学びと職業を紐づける「ラーニング・クラフティング」を意識するといった、能動的な学びに取り組んでいたことも明らかとなった。
S.Eの維持・向上には「視野の広さ」や「仕事上の余裕」が影響か
ここまでの結果から、人事管理においてS.Eを高めることは、従業員の自主的な姿勢や能動的な学びに効果的だといえる。では、S.Eを高めるには、具体的にどのような施策が求められるのだろうか。同社らによると、従業員のソーシャル・エンゲージメントの維持や向上を図ることで、「視野の広さ」と「仕事上の余裕」に好影響を与えることがわかった。また、「視野の広さ」には、「キャリア目標の明確さ」や「多様な人材の活躍支援」など“社会志向型の人材マネジメント”を行うことがプラスの影響を与えていると明らかとなった。
一方で、「移動転勤の多さ」や「新卒偏重の人員構成」などは、ソーシャル・エンゲージメントにマイナスに作用することがわかったという。