
戦略人事を実現できている日系企業はまだ少数派
パーソル総合研究所は、本調査における“戦略人事”を「経営資源の一つである『ヒト』の価値を最大化するために、経営戦略と連動した人事戦略を策定・実行すること」と定義している。では、日系企業において、戦略人事はどの程度実現できているのだろうか。日系企業の経営層および管理職層に「自社において戦略人事が実現できていると思うか」と同研究所が尋ねたところ、「そう思う」が5.1%、「どちらかというとそう思う」が24.6%で、回答者のうち“肯定派”は計29.7%だった。他方で「そう思わない」は16.5%、「どちらかというとそう思わない」は25.1%となり、“否定派”は合計41.6%となった。

「経営戦略と人事戦略が結びついているか」が一つのカギ
次に同研究所は、「戦略人事の実現状況」を把握するため、「戦略人事の複数の要素」について、「回答者の認知度」と「所属企業における実現度」を尋ね、両者の相関関係を調べた。ここでは、「戦略人事の主要要素」であるかは回答者の認知度の高さを基準とし、「実現度」は「十分にできている」と「ある程度できている」の合計割合を基準としている。その結果、「戦略人事の主要な要素かつ実現度の高い領域」に含まれたのは、「人事部員の事業戦略理解」や「人事部トップの経営会議への常時参加」といった“経営戦略に紐づいた人事”に関する項目と、“経営層や事業部との社内連携”に関わる項目だった。
一方で、「戦略人事の主要要素だが実現度が低い領域」に分類されたのは「次世代人材の発掘/育成」や「事業部の人的資源の調整に深く関与する」、「人事ポリシーの明確な打ち出し」、「従業員の前向きなキャリア形成のための施策実行」などの項目だった。また、「データドリブンな意思決定」および「HRテクノロジーを使いこなす」は、重要度と実現度がどちらも低い項目だった。

戦略人事を実現できている企業のほうが、人事部門の人員充足度が高い傾向
次に、同研究所は、日系企業の人事部管理職のみを対象に「現在の人事部員の人員状況」を尋ね、回答結果を「戦略人事の実現度合いの3つの企業群(『戦略人事実現企業』、『どちらでもない企業』、『戦略人事非現実企業』)に分け、さらに人事人員の充足度の相関関係を、「人事戦略・企画担当」と「人材開発・育成担当」、「組織開発担当」の3分野で調べた。『戦略人事実現企業』における“人員の不足感の割合”は、「人事戦略・企画担当」が53.6%、「人材開発・育成担当」が46.6%、「組織開発担当」が33.3%という結果だった。一方で、『戦略人事非実現企業』における同割合は、「人事戦略・企画」が67.3%、「人材開発・育成」が63.9%、「組織開発担当」が53.9%だった。両者を比較すると、戦略人事を実現できている企業のほうが、3部門とも人員充足度が高い傾向にあるようだ。

“HRBP”を設置している企業は1割程度にとどまる
次に同研究所は、日系企業人事部管理職を対象に、戦略人事の実現に向けて重要な役割を担う「HRBP(HRビジネスパートナー)の設置率」を尋ねた。その結果、設置率は11.3%で、HRBPではない「事業部人事」の設置率は27.5%だった。
人事データの一元管理が進む企業ほど、戦略人事の実現度も高い傾向
最後に、同社は「人事データの一元管理と戦略人事の実現度」の関連性を調べている。6つの戦略人事のカテゴリーにおける実現度を、人事データの一元化の進展度別(低群<中群<高群)に比較した。すると、人事データを一元管理できている企業ほど、戦略人事の主要カテゴリーが実現できている傾向があることがわかった。特に「次世代人材の発掘・育成」や「事業部の人的資源の調整・配分」、「従業員への支援」、「人事ポリシーの明確化」のカテゴリーでは、低群と高群の間に顕著な差が見られた。