株式会社パーソル総合研究所は2022年5月13日、「企業における戦略人事に関する調査」の結果を発表した。上記の調査は、同研究所が実施した『人事部大研究』のうち、従業員規模300名以上の日系企業の経営層・人事部および事業部の管理職、計1,647名から回答を得たもので、調査期間は2021年10月21~24日。調査結果から、日系企業における戦略人事の実態や、人事データの活用と戦略人事の実現度の関連性が示された。
「戦略人事」を実現している日系企業は約3割。経営層や事業部と連携するための人事部の人員が充足している傾向

戦略人事を実現できている日系企業はまだ少数派

パーソル総合研究所は、本調査における“戦略人事”を「経営資源の一つである『ヒト』の価値を最大化するために、経営戦略と連動した人事戦略を策定・実行すること」と定義している。では、日系企業において、戦略人事はどの程度実現できているのだろうか。

日系企業の経営層および管理職層に「自社において戦略人事が実現できていると思うか」と同研究所が尋ねたところ、「そう思う」が5.1%、「どちらかというとそう思う」が24.6%で、回答者のうち“肯定派”は計29.7%だった。他方で「そう思わない」は16.5%、「どちらかというとそう思わない」は25.1%となり、“否定派”は合計41.6%となった。
戦略人事を実現できていると思うか

「経営戦略と人事戦略が結びついているか」が一つのカギ

次に同研究所は、「戦略人事の実現状況」を把握するため、「戦略人事の複数の要素」について、「回答者の認知度」と「所属企業における実現度」を尋ね、両者の相関関係を調べた。ここでは、「戦略人事の主要要素」であるかは回答者の認知度の高さを基準とし、「実現度」は「十分にできている」と「ある程度できている」の合計割合を基準としている。

その結果、「戦略人事の主要な要素かつ実現度の高い領域」に含まれたのは、「人事部員の事業戦略理解」や「人事部トップの経営会議への常時参加」といった“経営戦略に紐づいた人事”に関する項目と、“経営層や事業部との社内連携”に関わる項目だった。

一方で、「戦略人事の主要要素だが実現度が低い領域」に分類されたのは「次世代人材の発掘/育成」や「事業部の人的資源の調整に深く関与する」、「人事ポリシーの明確な打ち出し」、「従業員の前向きなキャリア形成のための施策実行」などの項目だった。また、「データドリブンな意思決定」および「HRテクノロジーを使いこなす」は、重要度と実現度がどちらも低い項目だった。
戦略人事の主要な要素と実現度の相関関係

戦略人事を実現できている企業のほうが、人事部門の人員充足度が高い傾向

次に、同研究所は、日系企業の人事部管理職のみを対象に「現在の人事部員の人員状況」を尋ね、回答結果を「戦略人事の実現度合いの3つの企業群(『戦略人事実現企業』、『どちらでもない企業』、『戦略人事非現実企業』)に分け、さらに人事人員の充足度の相関関係を、「人事戦略・企画担当」と「人材開発・育成担当」、「組織開発担当」の3分野で調べた。

『戦略人事実現企業』における“人員の不足感の割合”は、「人事戦略・企画担当」が53.6%、「人材開発・育成担当」が46.6%、「組織開発担当」が33.3%という結果だった。一方で、『戦略人事非実現企業』における同割合は、「人事戦略・企画」が67.3%、「人材開発・育成」が63.9%、「組織開発担当」が53.9%だった。両者を比較すると、戦略人事を実現できている企業のほうが、3部門とも人員充足度が高い傾向にあるようだ。
戦略人事の実現度と人事部門の人員状況

“HRBP”を設置している企業は1割程度にとどまる

次に同研究所は、日系企業人事部管理職を対象に、戦略人事の実現に向けて重要な役割を担う「HRBP(HRビジネスパートナー)の設置率」を尋ねた。その結果、設置率は11.3%で、HRBPではない「事業部人事」の設置率は27.5%だった。
HRBPの設置率

人事データの一元管理が進む企業ほど、戦略人事の実現度も高い傾向

最後に、同社は「人事データの一元管理と戦略人事の実現度」の関連性を調べている。6つの戦略人事のカテゴリーにおける実現度を、人事データの一元化の進展度別(低群<中群<高群)に比較した。すると、人事データを一元管理できている企業ほど、戦略人事の主要カテゴリーが実現できている傾向があることがわかった。特に「次世代人材の発掘・育成」や「事業部の人的資源の調整・配分」、「従業員への支援」、「人事ポリシーの明確化」のカテゴリーでは、低群と高群の間に顕著な差が見られた。
人事データの一元管理の実施度と戦略人事の実現度
本調査では、日系企業において「戦略人事を実現できている企業」は約3割、「実現できていない企業」は約4割と、非実現企業の方が多いという結果となった。また、「戦略人事の実現が進む企業群」は、経営戦略と紐づいた人事戦略や、データの一元管理に取り組むことができている傾向が明らかとなった。今回の結果を参考に、自社の“戦略人事の実現度”を改めて確認してみてもいいかもしれない。

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