そんな状況下で会社を守るためには、どのような方策があるだろうか。実は、入社前、採用の時点では、企業側に広い裁量が認められているのである。この採用時点で応募者を選別するノウハウを身につければ、後々、問題社員のことで頭を悩ます可能性を大幅に下げることができるのではないだろうか。今回は、採用段階で「ハズレくじ」を引かないために企業ができること、について考えていきたい。もちろん、『面接担当官がトレーニングを受けて、応募者を見る目を養う』ことの大切さは否定の余地がないが、今回はあえて『最低限の予算と最小限の時間』でできる手法をご紹介してみたい。もちろんこの方策が万全ではないし、もっと有効な手立てがあるというのも認識した上でのことである。
もっと有効な方策も、きっと存在するであろう。各社とも様々な工夫を凝らして、応募者の『本当の姿』を見抜く方法を模索している。古い話で恐縮だが、筆者が学生時代の就活(昭和末期)のために面接で訪問した会社での事例を紹介する。ある医薬品メーカーの面接に臨むため、船橋の営業所を訪問したことがある。時間は午後4時。指定された時間の少し前に会社に行くと、採用担当部長が名古屋からこちらに向かっているのだが、遅れているという。ここで待っていてほしいと会議室に通され、そこに置かれていたテレビを観ながら待つことになった。そこで放送されていたのは忘れもしない水戸黄門の再放送。テレビを観るともなく、営業所長と世間話をしながら時間を過ごす。結局、名古屋から来るはずの部長さんは到着までまだ時間が掛かるとかで、この日の面接は行われず、お詫びをされつつ帰路についた。その数日後、その会社から採用内定通知が郵送されてきた。内定通知を受け取った筆者は「ろくに面接もしないで内定だなんていい加減な会社だ。誰が入社するか」と内定を辞退してしまったのだが、今になって思えば、「名古屋から部長が上京」はウソで、この会社は初めから予定していた応募者の素の姿を見るための素晴らしい方法を採っていたのかも知れない。「面接」では応募者も身構えて、練習してきた自分の良い面だけをアピールしてくるから、そうした緊張感から放たれたところで、応募者の素の部分を見極めるために、確かに有効な手法であろう。もちろん「名古屋から上京」するためのコストも掛からない。
もう一つ、特に既卒者の採用にあたり手軽に導入できる手法として、『面接質問メモ』の事前配布→提出という手法もご紹介したい。面接の待ち時間の10~15分程度を利用して、質問票を配布し、面接開始前までに記入してもらうのである。質問票には、「氏名」「生年月日」「住所」等、定番の項目から始まって、「いつから勤務可能か」「健康状態」等を記入してもらう。既往症の有無や、もし既往症アリだったときの具体的な疾病名は面接では意外と尋ねづらいものだし、前職の退職理由に加えてそれを前の職場に確認して良いか否か等の項目等を付すのも良いだろう。「現在の状況記入欄」に『退職にあたって有休消化中』とあれば、これから入社する当社を退職する際にも同様の辞め方をすることも予測がつく。不思議なのは、履歴書にも記載されている「職歴」を記入させると、予め提出されていた履歴書の記載とは異なる「職歴」が記載されてくることもある。こうして記入された『面接質問メモ』をもとに、面接を実施するのも一つの手法であろう。
今回は、「問題社員候補者」を入口で排除する方策(採用時に使えそうな手法)について2つほどご紹介させていただいた。この手法をそのまま導入するというよりは、これらを参考に、皆様それぞれの会社の実状に合わせた有効な施策を検討するための下資料としてご検討いただけたら幸いである。
社労士オフィスAGAIN 特定社会保険労務士/産業カウンセラー 関本 誠