新型コロナ禍で見逃しがちな世界の状況
貨幣経済への信用が急降下を解き明かす具体的な動きを見てみよう。去る2020年4月9日に、アメリカの中央銀行たるFRB(連邦準備理事会/The Federal Reserve Board)が2.3兆ドルもの緊急経済供給プログラムを発表した。円に換算して「250兆円」という日本とはけた違いの額だが、特筆すべきはその中身である。「ジャンク債」や「ハイイールド債」といわれるデフォルト確率の高い民間企業発行の債券まで政府保証で買い取ることとし、コロナショックで虫の息となってしまった企業も、公的に支援することにしたのである。これはどう考えても「非伝統的金融政策」という体裁のよい言葉で取り繕うには無理がある。極めつけのモラルハザードを醸成してしまったといえよう。日本も他人事ではない。日銀は「異次元の金融緩和」と称して、国債はもとより株式、ETF(上場投資信託)など莫大な資金を投入し、市場メカニズムを歪めきっている。先の金融政策決定会合では、国債を上限なく買い取ることを決定してしまった。「バラマキ」の財源をファイナンスするためなのであろう。
経済取引は「信用」で成り立ち、それは自由な市場メカニズムで決定されるものである。しかし、このように、信用で成り立つ経済が世界的に崩壊一歩手前に立ち至っている。本稿冒頭のように、金の価格が急騰しているのはこの表れだと理解しなければならない。新型コロナ終息の時期にかかわらず、今後数年間、いや、場合によってはさらに長期間にわたって、かつて経験したことのない状況に追い込まれる可能性が高まった。
アフターコロナではトレンドとマインドが激変する
人間は性として正常性バイアスを持っている。「コロナ禍が終息すれば、また元の状態に戻り、客足も帰ってくる」と思いがちだ。しかし、そのように単純なものではない。世界の経済環境、金融環境、財政環境はドラスティックに変わらざるを得ない。そして、消費者のマインドも大きく変わっているはずである。前段については一企業や一個人では力及ばざる事象であるから如何ともし難いが、後段については、新型コロナ禍でリセットされた消費者マインドを今のうちから分析し、備えておくことは可能である。筆者は、アフターコロナの世界は、「個人の自由」よりも「健康であること」や「環境にやさしいこと」が社会からの必然的要請として顕在化してくると考えている。換言すれば、これが社会規範に昇華すると見てよい、ということだ。これまで「個人の自由」とされてきたことが新型コロナによってスポイルされ、大きな制約を受け続けることになりそうである。
このような環境における消費者マインドは、かなり限定されたものになる。いかなる消費場面でも、「健康」、「環境」といったキーワードが連想され、それにあたらない代物は見向きもされない現実が待ち受けているだろう。この状況で休業せざるを得ない、今こそ布石を打つことが企業経営上は肝心である。のんべんだらりと正常性バイアスにとらわれている企業は淘汰されていくだろう。