人事のここがおかしい!第2回 「次世代リーダー育成」

近年、日本企業の人事から「次世代リーダーが育たない」という焦りの声が聞こえてきます。このような事態がなぜ起きているのか、根本原因を教えてください。

「人事が人材育成に責任を持っていない」「採用から後継者育成に至るまで一貫して見ていない」など、次世代リーダー育成がうまくいかない原因はいくつもありますが、私は、根源的な問題は3つあると思っています。 その一つ目は「リーダーの定義」が曖昧ということです。 二つ目が「育成出来ると考えていること」です。そして最後が「次世代リーダー候補かどうか見極める人材データを持っていない」ことです。 次世代リーダーは定義でも詳しく話をしますが、経営層のこと。将来の経営人材は、現場で鍛えるしかありません。そのため「発掘が大事です。しかし、無謀なことも出来ないので、現業に出す前に模擬試験をする」ことが大切なのですが、発掘のための基準と、そもそも発掘に有効な人材データがないことなのです。

では、なぜ「次世代リーダーの定義」が曖昧なのでしょうか。

例えば、我々が「次世代リーダー発掘」というセミナーをすると、参加される企業の多くは、「次世代リーダー=部長候補」です。一方で、エレクトロニクス系大手のS社は「次世代リーダー」は、経営層を示しているので、ワークショップに参加するのは本部長、部長です。企業により定義が違うのですが、多くは前者です。 さて、部長はオペレーションのトップであり、課題解決力を求められますが、一方、経営層に求められるのは未来やビジョンを創造する力であり、未知なる世界への推進力です。 また、経営層は、業績や行動結果によって解任されることもありますが、部長は執行役であっても社員ですから、よほどのことがない限り解雇されません。つまり、背負う責任の重さも「退路がない」という状況も比べ物にならないほど差があるのです。全くの別物と考えるべきです。

「次世代リーダー」と聞いて経営トップが経営層候補をイメージしていたとしても、肝心の人事が経営層と部長を混同してしまっているケースもあります。 また、経営層について、部長がキャリアアップしてなるものだと考えている人事がいますが、これも誤解です。現実的には、ヒラ社員から課長、部長と昇進して、次に執行役の本部長などになり、その中から経営層候補を選抜する企業がほとんどです。しかし、責任の重さや状況が全く違うため、〝非連続〟なキャリアなのです。にも関わらず、課題解決を任せていたはずの部長層の中から、経営層の候補を探そうとするから、「育っていない」と嘆いているのです。

「リーダーの定義」の問題は、なあなあで物事を進めて機能不全に陥るという、日本企業が抱えている体質的問題とも関わりがありそうです。では、二番目、三番目の原因から考えられる示唆として、人事は何をするべきなのでしょうか。

まず、人事は「経営層の育成」ではなく、発掘のスタンスに方向転換するべきです。発掘した人材は厳しい現場に投入し、鍛えることです。しかし、それではリスクがありますので、模擬試験として6カ月程度のアクションラーニングで見極めることです。この期間は、知識獲得ではなく限界体験に追い込むことで、「ぶれない価値基準はあるか?」「意欲はどうか?」「組織を変えなければならないという情熱はあるか?」「異質な仲間を活かしきれるか?」「仲間から認められるか?」等々、経営者としての潜在力を引き出すのです。そのためには、MBA的なアプローチで課題解決をテーマにするのは無理があります。修羅場に追い込み、傷口に塩をすり込むぐらいのファシリテーションが必要です。自分一人の限界を知ることで、身を持って仲間との協働の大切さを体験し、自発的に殻を破って飛び出していくように導きます。

多くの企業が実施する「次世代リーダー育成」では、事業部の本部長や部長の推薦です。人事部推薦もたまにはありますが…。ただこのやり方で集まるのは現在の事業にとって優秀な人材であり、愛い奴であり、組織をぶち壊したり、未知なる世界に挑戦することに適しているとはいえません。

では、発掘するには、具体的にどうすればいいのでしょうか。

組織変革や未来創造に適しているのは、いわば有事の人です。有事の人は、平時には邪魔者扱いされて日陰の身に甘んじていたりしますので、発掘は容易ではありません。そこで我々はFFS理論による診断結果を用いて、上司評価であれば候補にならない人材を発掘します。まずは年代で横串を刺します。30代前半の社員を抽出し、FFS診断のストレス値が異常に高い、もしくは異常に低い人をピックアップします。ストレスが異常値を示しているということは、いま力を発揮できずにくすぶっている状態だと推測できるのですが、それなのに退社を選ばないということは、会社や商品、サービスなどに対して一方ならぬ愛着を持っているというように、特別な理由があると考えられます。批判的だったり、斜に構えたりしている原因を取り除くきっかけを与えることで、大きな結果を出せるポテンシャルがあるのです。過去、我々がピックアップした人材候補を見て、顔をしかめたり、「外して欲しい」という人事もいました。

以前の日本企業は今ほどガバナンスがうるさくなく、いい意味で〝野放し〟でしたから、疎んじられるような人もそれなりに楽しんでいました。だから、それまで日陰を歩いてきた特異な人材が、ある日、突如として頭角を現すことがありました。今の日本企業にそういう余裕はありません。また、最近の人事が統制的にならざるを得ない状況もあり仕方ないといえます。だからこそ、〝逆転の発想〟を持ってもらいたいですね。

ただ、何もツールがないままでそれをやっても失敗するのは目に見えています。こうした危険を回避するためには、データを取り、活用するのが最善です。リスクを恐れて反対する勢力はいます。特に、自分の部下を推薦したい上司は。その方々を説得していくためにも、データが必要だと考えてください。その意味で、本当に使える人材データベースの構築が今後の最優先課題になるでしょう。

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