今、日本企業の人事に求められているのは、競争優位の源泉として永続的に人材を確保し、育てていくことです。おそらく、どの企業の人事担当者も頭ではこのことを分かっていますが、積極的に施策を打ち出し、現場に介入して課題を解決していこうとは、誰も考えていません。その背景にあるのが、社内における人事部門のポジションの低さであり、これが第一の問題です。人事担当役員は他部門の役員の陰に追いやられていますし、人事担当役員がいない企業もあります。中小企業には人事部を置かず、総務部の中に人事機能があるというケースも見かけます。このような環境のもとで、人事はダイナミックな施策に打って出ることができず、あらゆる問題の解決が困難になっています。
また、採用は採用、教育は教育というように、人事の業務が分断してしまっているのもまずいですね。採用から後継者育成に至るまで、人事は一貫して人材を見なければいけないのに、現実はどうでしょうか。採用した人材を現場に送り出すと、その後は誰がどこにいき、どう育っているのか、人事には見当もつきません。いい人材を確保して育てていくことについて責任の所在が曖昧で、検証もなされていない現状では、競争優位の源泉として、核になる人材を育てることはできないでしょう。
人事担当者が採用で重視するのは、「何人採れたか」「歩留まりはどうだ」「上位校は採れたか」といったことで、採用と育成の相関には関心がありません。10〜20年後に活躍する人を採ることが本来の目的なのに、これは本当におかしいことです。また、会社の風土に合わせて似ている人たちを採用してしまう「同質化現象」も、いずれ会社を疲弊させる大きな問題です。
その解決策ですが、今すぐ採用と育成の相関をとって採用に活かすことは無理ですから、仮説に基づく採用計画を立てることをお勧めします。現在の基準で優秀とされている人材が、10〜20年後に必要かどうかはわかりませんから、採用時に、いかに人材の多様性を担保するかを重視します。例えば、人材特性に基づくポートフォリオを組み、対照的な人材を半数ずつ採用するだけで、同質化現象に対処することができます。
次に、母集団の設計も工夫します。多くの採用担当者は、多様性を出すためには母集団を広げればいいと考えています。しかし、それでは似ている人が多く集まるだけで、多様性は担保できません。学生はコロニー化しているので、エントリーの間口(ルート)を増やして、3つ4つ設けることが必要です。こうすることによって特性が異なる学生の母集団形成を目指しますが、その中に「変な奴」を数パーセント程度入れることがカギになります。母集団形成がうまくいけば、あとは欲しい人材をピンポイントで選考するだけです。従来の選考がオーディション型だとすれば、これからはハンティング型、あるいは一本釣り型です。
誰が面接官を務めるか、その設計もやはり重要ですが、面接官の力量に頼るという発想はNGです。確かに面接官の力量はないよりもあるほうがいいのですが、どんなに力量のある面接官でも、自分に似ている人を甘くするというデータが出ています。つまり、人材ポートフォリオを組み、間口を増やして面接を実施しても、結果は面接官次第になってしまいます。これでは課題の解決に結びつきません。
そうならないためにどうするかといえば、面接官のポートフォリオを組みます。例えば、10パターンの人材を採用するために、10パターンの面接官を揃えるわけです。面接官の心理バイアスを逆手にとり、その人が気にいる人をどんどん入れていくだけで多様性を担保できるというわけです。「そんなに面接官を揃えられない」という声もあると思いますが、そこは現場の人たちの力を借りるしかありません。現場の人たちにとっては、いずれ自分の部門に配属されるであろう後輩の採用を行うわけですから、ちゃんとお願いすれば協力してくれるはずです。もっとも、組織横断的に活動するためには、人事はやはり強くなければいけませんね。