ヒューマンロジック研究所は、人間の個性を計量化し、思考行動パターンや人間関係を明らかにする独自のメソッドにより、チームの最適化、生産性の向上の支援を行っている組織コンサルティングファームです。人を生かし切れず、期待する成果が出せない組織の問題点は何か、また、同社のソリューションの特色と目指すものについて、代表取締役・古野俊幸氏にお話を伺いました。
一一組織と人に関する日本企業の課題は何だとお考えですか。
人を生かし切れていないということが最大の課題です。組織とは人そのものであり、誰をどのポジションに抜擢するか、誰と誰を組ませるかが非常に重要ですが、昇進昇格が「あの人も3年たったから異動しよう」といったバランス人事や、上長の意向が強く働く形で行われており、組織が成果を出すために行われていない場合がまだ多いです。最近も、ある大手メーカーの変革プロジェクトをお手伝いしましたが、うってつけの変革人材がいるのに、「この人は事業部長が絶対入れるなと言っている」と登用されない。そういう人こそプロジェクトに必要なのですが、残念な現実です。また、日本企業は90年代半ばからコンピテンシーを重視して個人にフォーカスし、成果主義に走りました。能力を発揮する場が最適であるときに成果を見ることは正しいですが、向かないところに配置しながら、成果が出ないからだめだというのが日本企業の成果主義でした。それに、成果主義は個人としてではなく、チームとして見るべきです。2000年代半ばあたりから、ようやくチームの重要性が多くの方々にご理解いただけるようになりましたが、重要性を感じつつも、チームをどう作ればいいのかわからない企業がまだ多いのではないでしょうか。
一一そうした課題への対応策として、御社ではFFS理論に基づくソリューションを提供されています。
FFS理論はもともとチーム編成理論で、一人ひとりの思考行動を5つの因子と0~20の数値で計量化します。たとえば、私の名刺には「A14 B10 C15 D17 E4」という数字が記載されていますが、これを見るだけで、この人が何を強みとし、どういうことがストレスになるか、どういうことに動機付けられるかなどがわかります。FFS理論の大きな特長は、ある人とある人の関係がわかることです。チームのAさんとBさんはコミュニケーションが取りやすいか、あるいはうまくいかない状況が日常的に発生しているか、どうすればよくなるのか。そうしたことが3人、4人と増えても把握できます。ただし、似た者同士のチームは、心地よい反面、誰も反論しないし、かき回す人もいないから、ぬるま湯現象が起きます。また、似ているが反発し合うチームもある。数字でいうとD(外へ飛び出そうとする力)の数値の高い人が集まると、瞬発力があるからアイデアを出すブレストなどには最高ですが、チームとしては成立しにくい。一方、E(維持・固定しようとする力)の数値の高い人が集まると、居心地のいいチームは作れますが、新しいものは生まれない。EとDのバランスをどう取るかが重要で、ベストバランスはチームの課題やミッションによって変わります。
こういうことは、過去にいろいろなプロジェクトを経験している方は、「このチームではだめだな、こういう人を入れた方がいい」などと、なんとなくご存じです。しかし、経験則なのでノウハウを人に伝えることができない。FFS理論を活用すると、データを取ることで、少し勉強すれば若手でも課題やミッションに見合ったチーム編成を行えます。また、最終的にメンバーの入れ替えに至る場合もありますが、現状のままでも、一人ひとりの個性や関係性がわかり、マネージャーがそれに合わせた対応を行うことで、チームが変わり、パフォーマンスが上がります。
一一実際に導入した企業では、どのような変化が起きていますか。
クライアント企業のあるチームで、優秀なベテラン技術者だが、マネージャーが「扱いにくい」と苦手意識を持ち、周囲からも孤立気味に淡々と仕事をしている人がいました。ところが、分析すると、実はその人は世話好きで、他人に喜んで教えるタイプだとわかりました。マネージャーは「意外だ」と驚かれましたが、チームの若手を見てもらうよう話をすると、実際に面倒見よくやってくれる。本人も「自分がチームに貢献できている、頼られている」と感じることでポジティブになり、上司や周囲との関係がよくなって、チームが円滑に回り出しました。上司が部下に苦手意識を持つのは、異質だからです。それは相手に伝わるから、部下の方も苦手な上司だと感じる。しかし、違いを知り、相手に対するかかわり方を変えることで、相手も心を開き、協力者になる。するとチームが活性化してくるんです。また、新しいものを生み出すことをミッションとするチームで、マネージャーが「チームのムードはいいのに、なぜ結果が出ないのか」と悩まれていたケースがありました。分析した結果、E(維持・固定しようとする力)の数値の高い人が多く、非常に同質化していました。まず、似ているとはいっても少しずつ違うので、その違う人たちに意識的にかき回す役をしてもらうと、3カ月後には以前より会議でアイデアが出るようになりました。しかし、完全な変革には至らず、マネージャーが「変革が得意な人を入れてほしい」と希望されて、その企業でもよく知られた個性の強い一匹狼的存在の社員を入れました。普通なら上司と衝突しがちなタイプですが、こういう状況だからマネージャーも「あの人なら新しいものを出してくれそうだ」と歓迎するし、この人にしてみれば、これまでは他人の意見に反論すると煙たがられていたのに、今度はリスペクトされるのだからうれしい。結果、半年後にそのチームはアウトプットを出しました。
一一日本企業が人を生かし切り、変革を進めていくために必要なことは何でしょうか。
特に大手企業の人材は保守的に同化している傾向が強いですが、それでも、なかには異質な存在、変革人材が必ずいます。いかに見つけて場を与えるかです。ただ、組織論で言うと、変革は1人では絶対にできません。変革人材にはアウトロー的な部分があるから、その人を裸の王様にせず、うまくチームを仕立てていくフォロワーが必要です。大手企業には優秀なフォロワーはいますが、変革人材にはスポットライトが当たっていません。だから引っ張り出し、フォロワーをつける。そうすると、輝く人たちがたくさんいます。必要なことは、発掘と組み合わせなんです。それで変革はできます。日本企業の人事の仕組みが、もっと人を生かせる仕組みに変わっていくようご支援していくことは、私どもの使命だと考えています。FFS理論は大手企業に多くの導入実績がありますが、今後、中小企業も含めて、さらに多くの企業の方々に広く活用され、これからの日本企業のイノベーティブな経営を支える理論のひとつとなっていくよう、力を尽くしたいと思っています。
ヒューマンロジック研究所 代表取締役 古野 俊幸
関西大学経済学部卒。新聞社、出版会社を経て、FFS理論を活用した最適組織支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを1994年に設立し、 以後、組織・人材活性コンサルティング業務に従事、現在に至る。 これまで400社以上の組織・人材の活性化支援を実施。約6万のチーム編成に携わってきたチームビルディングの第一人者。- 1