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学生への訴求力で明暗を分ける
「働き方改革」と「働き方改善」の違いとは

千葉商科大学 国際教養学部 専任講師/いしかわUIターン応援団長
HR総研 客員研究員/ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員
常見陽平氏

「採用氷河期」に突入し、多くの企業が、求める人材を採用することに苦慮し始めています。そうした中、昨今の若者が就職活動で重視するのが、就業条件や働き方です。実際働き方改革に関しては、企業各社もさまざまな取り組みを進めていますが、果たしてどれだけのものが求職者に対してきちんと訴求できているのでしょうか? そこで今回は、千葉商科大学国際教養学部・専任講師の常見陽平氏をお招きし、働き方改革の現状や課題、求職者への訴求、さらに広報活動などについてお話しいただきました。

日本に戦略はあるのか?

本日私が皆さんにお伝えしたいのは、大きく分けて3点あります。1つ目は、働き方改革を考える上で、改革と改善、戦略と戦術の違いを今一度、確認したいということ。2つ目は、 メディア受けを過度に意識した採用活動に警鐘を鳴らしたいということ。そして3つ目は、求職者はバカではないということです。

 

約20年間、私は、そこに「戦略」はあるのか? 日本に、日本企業に、日本人に戦略はあるのか?——という問いかけをしてきました。私は1997年に社会に出たのですが、大学の前半は専攻が労働社会学とメディア論、後半は競争戦略論や組織論でした。競争戦略論ではマイケル・ポーターの一連の著書を読みました。彼の論文“What is Strategey?”の中で非常に印象に残った言葉があります。それは「効率は戦略ではない」という言葉です。そして彼は徹底的に日本を批判しました。「日本企業は効率を源泉にしていた。だがそれは違うのではないか。独自のポジションを取ること、ユニークネスを発揮すること、これが戦略である」と。これはまさしく働き方改革にもつながる考え方だと思います。

 

そしてもう一つ戦略と組織に関して、私の座右の書でもある『失敗の本質』(野中郁次郎他 中央公論新社)という本があります。この本には、「日本軍は、なぜ米軍に負けたのか?」をテーマに、日本には戦略がなかったのではないか、ということが書かれています。この本が優れているのは、戦争の是非は置いておいて、いざ戦争が始まったからには最小限の被害で勝たないといけないが、戦略がなかったが故に、あるいは情報の伝達ができていなかったが故に、たくさんの日本人が南の島で亡くなったということを訴えている点です。さらに、いかに日本に戦略がないかということは、今年官邸が発表した「未来投資戦略2017」を見ても明らかです。ここには、「健康寿命の延伸」、「移動革命の実現」、「FinTech」など、いろいろな項目が書かれているのですが、いずれも戦略ではなく、戦術のことが書かれてあります。

生産性を上げるためには

「人材」「働く」を考える上では、いくつかの前提があります。例えば、「人材とは経営資源である」、「人材マネジメントは会社の経営目標達成のために行われる」、「人材は成長する」、「人はお金のためだけに働くわけではない」など。そしてこれらのことは、働き方改革を考える上でも重要です。そもそも戦略がないが故に日本の労働環境は厳しくなっています。例えば、日本人はダラダラ仕事をしていると。生産性が低いと。この議論自体がおかしいのです。生産性とはアウトプットとインプットの関係であり、儲かる事業をしていないと生産性など上がるはずがありません。もっと言えば、儲かる事業を少ない人数と時間で行えば生産性は上がります。さらに労働経済学的に見ると、生産性を上げるためには、2つのポイントがあります。1つ目は、繰り返しますが儲かることをすること。2つ目は、設備投資をすること。つまりITの導入などで効率を上げるということです。労働者が勤勉かどうか、無駄がないかどうか「だけ」に答を求めるのは間違いなのです。

採用氷河期を乗り越えるには就業条件が鍵に

近年の日本は採用氷河期に突入し、新卒・中途含めて、この先も人手不足が続くことが予測されています。そんな中、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「2017年度新入社員意識調査アンケート結果」によると、一定時間は仕事から離れてオフを過ごしたい「自分ファースト」志向が高まっていることが明らかになりました。例えば新入社員は企業に、「給料が増える」ことよりも「残業がない・休日が増える」ことを求めています。さらに「私生活に干渉されない」ことの重要度が高まっており、終業後や休日などは仕事から離れた自分の時間を充実させたいと考えているそうです。全体の8割以上が就職活動の際にブラック企業かどうかを「気にした」、もしくは「少しは気にした」と回答。一方で、自分の時間は確保したい新入社員ですが、やる気がないわけではなく、「目標を与えられ、達成に向けて頑張りたい」という人は8割を超え、できる範囲で努力したいと考えている人たちは少なくありません。また、就職情報会社各社の調査でも就業条件を気にする求職者が増えていることが明らかになっています。

今の若者はブラック企業世代

上記のデータはある意味、当たり前の結果だと思います。労働市場が機能していれば、誰しもより良い労働条件の会社で働きたいと思うでしょう。特に売り手市場の場合は労働条件を求める傾向になってきます。そしてもう一つは、働き方改革のムーブメントが若者にも届いている部分があるのではないでしょうか。また最近は多くの企業が、女性の採用に力を入れていて、今までは女性の総合職を採らなかったような会社が積極的にアプローチするようになってきました。さらにさきほどの求職者はバカではない論に関わるところで大きなポイントがあります。それは今の若者は、ブラック企業世代およびブラックバイト世代だということ。2011年11月に、日経新聞の1面に初めてブラック企業という言葉が載りました。以降、ブラック企業関係の本がベストセラーになったり、参議院選において各党がマニフェストにブラック企業対策を盛り込んだり、ブラック企業という言葉が流行語大賞にノミネートされるなどして、各大学もブラック企業対策を推進するようになり、その後、今の学生たちは入学したのです。さらに言えば、彼らはリアルにブラックバイトに苦しんだ世代でもあります。そういう意味でも、労働条件を改善しない限り、良い人材はますます採用できない時代になっていくでしょう。

働き方改革における問題点とは

働き方改革における検討事項としては、当初、以下のようなものが挙げられていました。 非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金)、賃金の引き上げ、長時間労働の是正、転職・再就職支援および職業訓練、テレワークや副業・兼業など柔軟な働き方、女性・若者が活躍しやすい環境、高齢者の就業促進、病気の治療、子育てや介護と仕事の両立、外国人材の受け入れの問題…など。しかしいずれも目新しいものではありません。さらにこうした働き方改革にはいくつもの疑問点がわいてきます。例えば、成長戦略と働き方改革の連動は十分か? 労使双方にメリットがあるか? 多様な利害関係者の意見が反映されているか? 逆に労働強化にならないか? 検討するためのデータ、ファクトは適切か? 今後の労働社会の全体像を明らかにしていないのでは? そもそも日本の雇用システムの根本的な問題を理解しているか?——などです。

一方で、以前起きた電通自死事件から、働き方改革において学ぶべき論点もあります。
労務管理や健康管理のますますの強化が必要である、管理職のマネジメントを強化しなくてはならない、顧客や取引先からの過剰な依頼をいかに防ぐか、会社の中で新しい部署、仕事が増え、旧来のルールが通用しなくなっている、日本型の「なんでもやる」「とことん成長を求められる」正社員モデルの問題、多様な人材をいかにマネジメントするか、会社の中に居場所はあったのか…など。これらは当たり前のように言われていますが、実際に実行するのは簡単なことではありません。

広報活動の意味

この数年議論になっているのが、採用活動をいかにメディアに載せるかということです。メディアに掲載されることで、組織の活性化効果、財務効果、マーケティング効果、リクルーティング効果という4つの効果が見込まれます。採用活動はメディアに取り上げられやすいものです。また、採用活動以外のメディア露出もリクルーティング効果につながることをぜひ意識してください。一方でメディアに取り上げられることはリスクも伴います。

またメディアに出たくなくても、不祥事や、業績の悪化などにより出てしまうこともあるため、常に対策は意識するべきでしょう。そうした中、見せかけの働き方改革はメディアからどんどん叩かれます。以下に紹介するのは、メディアが企業の取り組みを評価する際の視点です。

  1. 仕事の絶対量や、クオリティ、任せ方にメスを入れているのか?
  2. 何のためにやっているのか?
  3. 何をもって「成功した」と言っているのか?
  4. 成功要因は何か?
  5. 副作用を意識しているか?
  6. PR目的、営業目的ではないか?
  7. 現場から支持されているか?

広報活動をする際には、常にこれらを意識して進めることが不可欠だと思います。

日本の労働時間の特徴

日本の労働時間に関しては働きすぎだと言われますが、一人当たりの平均年間総実労働時間の国際比較を見てみると、80年代と比べてだいぶ減ってきています。しかしこの数字は、短時間で働く非正規雇用の方が増えたことによるもので、実は正社員の方の労働時間は横ばいなのが実情です。これだけITが発達してきているのにも関わらず、横ばいなのは、やはり問題でしょう。また、有給休暇がとりにくいのも日本の企業の特徴です。厚生労働省が出している『過労死等防止対策白書』を見てみると、残業が発生する理由として最も多かったのは「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」で、続いて「業務量が多いため」、「仕事の繁閑の差が大きいため」となっています。

求職者受けする働き方改革とは?

メディア受けするのではなく、求職者受けする働き方改革とは一体何でしょうか。まず重要なのは、施策の背景、目的、実効性をアピールすることです。そして実績をファクト、データをもとに語るべし。現場の声も伝えるべし。逆に、成果が怪しい施策はアピールをしないほうが得策でしょう。また、実績はツールにまとめて社内外に共有したほうがいいです。そしてこれは一番のポイントですが、昔から続いていた施策が一番強いということ。例えば先日私は富士ゼロックスさんに取材でお邪魔したのですが、女性活躍推進や働き方改革は実は20年も前から行っているとのことでした。「やっていて当たり前」とさらりと言えるのが大人の対応であり、逆に「弊社は女性に優しい会社に変わります」などと宣言するような会社は、実を伴っていないと、求職者からは怪しいと思われてしまいます。そして最後は、特に学生に対してアピールすべきことですが、制度だけではなく、風土や自由度を大切にしているということです。

本日のまとめとしてお伝えしたいのは、皆さん採用活動を頑張ってくださいということです。2018年度の採用活動が終わった方もそうでない方も、おつかれさまでした。そして2019年度に向けては、いろいろとルールが変わり、新しいツールも登場して、やりがいがますます増えることでしょう。この売り手市場のときに、他社と違うことをやって、ぜひ採用を成功させてください。本日はご静聴いただき誠にありがとうございました。

講演者プロフィール

常見 陽平 氏千葉商科大学 国際教養学部 専任講師/いしかわUIターン応援団長/HR総研 客員研究員/ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員s

一橋大学商学部卒、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、人材コンサルティング会社、フリーランス活動を経て現職。 雇用・労働、キャリアをテーマに執筆・講演活動に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)、『「就活」と日本社会』(NHK出版)、『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)など。

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