最近、企業の人事部長や採用担当者から、目の前に迫りつつある2017年度新卒採用活動が非常に不安だというお話をよく聞きます。就職ナビでは3月からプレエントリー受付が開始されますが、3月からすぐに選考に移行する企業が少なくありません。それどころか、日本経済新聞の1月4日付け朝刊によれば、DeNAは昨年12月1日から17年卒の採用活動を始め、すでに内定を出し始めており、内定のピークは例年より1カ月ほど早い1~2月になるとのこと。
また、経団連の指針による選考解禁が6月に前倒しとなったため、学生が大手企業と接触して検討する期間が3カ月に短縮となります。実際には4~5月にエントリーシートの締め切りや、リクルーター活動などが入るため、企業と学生の双方が見極める時間が極めて短くなり、ミスマッチの可能性が拡大すると見られています。
今回は、前回と同じくHR総研が15年11月下旬に実施した「新スケジュールに関するアンケート調査」の結果を基に、企業は面接選考時期、内定開始時期をどう考えているのか、そして今年新しく始めようとしていることなどを見ていきたいと思います。
4月までに6割以上が面接選考を開始
図は面接選考開始時期です。全体の集計結果を見ると、経団連の面接解禁日である「6月」スタートを予定する企業はわずか16%の企業にとどまります[図表1]。そもそも「採用選考に関する指針」は、あくまでも経団連の会員企業約1300社へ向けての取り決めであり、その他の企業を縛るものでもありませんので、致し方のない数字であるといえるでしょう。8月から6月に面接選考解禁日が変更される論議の中で、大学側はすべての企業が「指針」を守ることを求めていましたが、どだい無理な注文でしかありません。面接開始時期で最も多い回答は「4月」の31%ですが、「3月」とする企業も23%と2番目に多くなっています。就職ナビからのプレエントリー者や、合同企業セミナー・学内企業セミナーでの接触者をすぐに個別企業セミナーに呼び込み、面接へと進めるケースもあるでしょうが、「2月」までに実施したインターンシップへの参加学生だけを対象に面接選考を開始するケースも少なくないでしょう。
解禁前にインターンシップを実施する目的の一つは、優秀学生の割合が多いとされる早期活動者と密度の濃いコミュニケーション機会を持つことです。接点を持った優秀層については、3月からのプレエントリー者とは別進行で早めに囲み込みを図りたいというものです。
17卒も選考時期は中堅・中小企業が先行
選考開始時期を企業規模別に見てみましょう[図表2]。大手企業では「6月」スタートを予定する企業が36%と3分の1以上に上ります。前年の採用活動を振り返ってみたとき、リクルーター活動や「面談」活動を考えれば「6月」は実態に即した時期であり、前年の選考解禁日である「8月」と比較すれば順守しやすくはなったといえます。ただし、あくまでも「8月」解禁に対しての「6月」だったわけで、解禁日が「6月」となればその意味合いは変わってきます。現時点で「6月」と回答している企業も、周りの動き次第では前倒しになることも十分考えられます。一方、中堅・中小企業はどうでしょうか。「6月」と回答した企業はそれぞれ11%、12%にとどまるものの、大手企業の選考開始から1カ月以上遅く選考を開始しようとする企業もそれぞれ4%、6%あるようです。16年卒採用では、大手企業に先行して内定を出したものの、後から大手企業に内定者をひっくり返されてしまったことを考えると、大手企業の選考が落ち着いてから本格的な選考を開始したほうがよいとの判断なのでしょう。16年卒採用では大手企業の内定出しが8月以降になったのに対して、17年卒採用は6月には大手企業の採用が決着するでしょうから、それからでも時間があると考えたのでしょう。確かにこの2カ月の違いは大きいといえるでしょう。
ただし、「6月」「7月以降」とする中堅・中小企業はいずれも2割もなく、その他の企業はそれ以前に選考を開始するということです。月別に見てみると、中堅・中小企業ともに「4月」が最多で、それぞれ38%、29%に上り、次いで「3月」が30%、18%となっています。中堅企業に至っては、「3月」「4月」で実に7割近い企業が選考を開始するとしています。また、「4月」を「前半/後半」に分けてみると、大手企業と違って「前半」のほうが多くなっています。この傾向は中小企業も同様です。
「2月以前」に選考を開始する企業も大手企業よりも中堅・中小企業のほうが多くなっており、「4月」までに選考を開始する企業の合計は、中堅企業で77%、中小企業でも58%にもなります。つまり、17年卒採用においても、大手企業よりも中堅・中小企業の選考時期が早くなるという「選考時期の逆転現象」は続きそうだということです。
内定出しは「5月」が26%でトップ
次に、内定出しの開始時期について見てみましょう。まずは全体のデータ傾向です[図表3]。内定出しのタイミングは、月別では「5月」が合計26%でトップ、次いで「4月」が24%で続き、「6月」22%、「7月以降」12%となっています。「6月以降」とする企業は34%と、全体の3分の1にとどまります。選考開始時期のデータと比較してみると、選考開始から1カ月経過したところが、内定出しのタイミングとなっているようですね。大手企業の64%が内定出しタイミングは“6月以降”としていることを考えれば、選考開始時期だけでなく、内定出しのタイミングにおいても中堅・中小企業のほうが大手企業よりも早くなります。昨年同様、後からの大手企業の内定出しにより、中堅・中小企業での内定辞退者は多くなりそうです。中堅・中小企業においては、学生の志向の見極め(大手志向が強いのか、違う価値観を持ち合わせているのか等)や、自社の魅力の十分な浸透を図ることが求められそうです。
拡大する「ダイレクトリクルーティング」
2017年卒採用に向けて新しく始めようとしていることをフリーコメントで回答してもらったので、抜粋して紹介しましょう。・仕事体験セミナー(インターンシップの一種)(5001名以上、医療・福祉関連)
・インターンシップの導入(301~500名、その他サービス)
・インターンシッププログラムの充実と実施(301~500名、人材サービス)
・スケジュール等については、2015年以前のまま2016年も活動しましたので、今後も変更しないと思います。インターンシップの受け入れはますます強化しようと考えています(501~1000名、建設・設備・プラント)
・インターンシップの強化、卒業生のいるゼミ・担当教授との関係強化(301~500名、建築・土木・設計)
・1Dayインターンシップ(301~500名、情報処理・ソフトウェア)
・インターンシップの実施と、採用業務への若手社員人員導入(301~500名、ビジネスコンサルタント・シンクタンク)
・インターンシップ(冬季、1Day)(101~300名、情報処理・ソフトウェア)
・会社見学ではない、本当の意味でのインターン・就業体験を実施予定(101名~300名、電機)
・ダイレクトリクルーティング手法の導入(501~1000名、教育/301~500名、化学/101~300名、建設・設備・プラント/5~100名、その他サービス)
・SNSやダイレクトリクルーティングなどの新しい手法を取り入れたい(101名~300名、輸送機器・自動車)
・大学との関係構築を今まで以上に進めること(1001~5000名、精密機器)
・大学への挨拶まわり、大学就職課・教授との関係強化(101~300名、化学)
・新しくはないが、学校に出向いての採用活動の比率を上げていく(101~300名、情報処理・ソフトウェア)
・ナビサイトを通さない採用活動(101~300名、商社)
・リクルーターの活用による学校別の説明会、工場見学により注力していきたい(1001~5000名、機械)
・広報開始から選考開始の短縮化により、採用活動そのものが短期決戦になるため、土日の選考もせざるを得ない可能性がある(1001~5000名、食品)
・2月以前の学生との接点構築(1001~5000名、情報処理・ソフトウェア)
・母集団確保のため、会社説明会を選考上のMUST条件とすることをやめようか検討中(301~500名、その他サービス)
・ナビエントリー者へすべて直接電話連絡する(501~1000名、フードサービス)
・既卒者も対象に含めたリクルーティング広報活動の推進(301~500名、化学)
・webセミナー、web面接(5001名以上、輸送機器・自動車)
・webセミナー、地方採用(501~1000名、保険)
・地域拡大(101~300名、その他サービス)
・体育会系学生への接触を増やす(101~300名、商社)
最も目立ったのは、「インターンシップ」。新しく始める企業もあれば、これまでも実施していたが、内容や回数を強化するという企業もあります。「冬季」という言葉を使用している企業があるように、今年は昨年以上に「1月・2月」にインターンシップを実施する企業が多くなる見込みです。「8月・9月」のサマーインターンシップの時期に2016卒採用の活動を継続していたために、サマーインターンシップの実施をあきらめてウインターインターンシップに切り替えた企業もあると思われますが、3月解禁前に接触しておかないことには出遅れてしまうと考え、今年から実施する企業も少なくありません。サマーインターンシップと比べると、「1Day」タイプのインターンシップが多いのが特徴です。もともと「2月」は15年卒採用まで個別セミナー開催のピーク時期でもあり、従来のセミナー内容を少しだけ変形して、名称をセミナーからインターンシップに変えただけのものもあります。
そのほかに目立つワードが「ダイレクトリクルーティング」です。「ダイレクトリクルーティング」とは、就職ナビや合同セミナー、新卒紹介等に依存するのではなく、採用担当者(企業)が能動的に採用活動を展開する手法です。社員や内定者による紹介制度や、SEO(検索エンジンでの露出を増やす最適化対策)を施して自社ホームページからの応募を増やすことやSNSの活用なども含まれますが、最近増えてきているのが「逆求人型サイト」の活用です。
これは、学生からのプレエントリーを待つのではなく、学生が登録しているエントリーシート内容を検索して、自社に合いそうな学生に対して、企業側から個別にオファーを出すというものです。従来のメールDMとの違いは、大学や学部などのコード化された条件にマッチした学生へ一斉に同一文面のメールを送るのではなく、エントリーシートの内容を吟味して、それぞれの学生に即したメッセージを一人ずつ個別に送ることで、マッチング精度を高めている点にあります。大量の返信が期待できるわけではありませんが、もともと採用ターゲットになり得る学生にだけオファーを出していますので、反応者のミスマッチは少なくなります。オファーを出す手間はかかるものの、返信者(エントリー者)の選考通過率は一般の就職ナビの数字とは比べ物にならないといわれています。17年卒採用は16年卒採用以上に企業側の求人意欲は高く、採用難易度はさらに高まることが必至です。新しい採用手法として研究してみる手は大いにありそうです。
引き続き根強い「大学対策」
また、就職ナビに頼り切った母集団形成では、この売り手市場において求める人材を獲得することは極めて困難です。そこで重要なのは、大学との連携です。HR総研が別に実施したアンケート調査でも、「大学対策」(学内企業セミナー、キャリアセンターとの関係強化等)を最も重要な採用施策として挙げる企業数が1位でした。ただ、実際に何をしていいかということについては戸惑っている企業が少なくないようです。「大学対策」として多いのは、採用ターゲット大学を設定して、学内企業セミナーやキャリアセンターとの個別相談による母集団形成を狙うものです。こちらもやみくもにプレエントリー数を追うのではなく、あくまでもターゲット大学での母集団形成、ひいては選考通過率の高そうな母集団形成を狙っているということです。
単にプレエントリー総数の増減で一喜一憂していた時代は過ぎ、プレエントリー者の内容(大学・専攻・志向・コンピテンシーなど)や選考通過率の高さ、選考効率重視の時代へと変わりつつあるようです。より多くの応募者から選抜すればそれだけ優秀な学生が採用できるという考え方ではなく、もともとセグメントされた応募者と密度の濃いコミュニケーション活動を通じて、よりミスマッチの少ない採用活動を展開していこうというものです。「入りたい」という学生から採用するのではなく、企業が「採りたい」学生から採用する、いわば「攻めの採用」へと変化してきています。先に見ました「ダイレクトリクルーティング」は、その最たる手法といえるでしょう。
賛否両論あるものの、共通しているのは「学生目線の欠如」
最後に、就職問題懇談会や文科省、経団連のこれまでの動きに対する意見もフリーコメントで寄せられていますので、こちらも紹介しておきます。・どうか学生や企業の声をもっと聞き入れてください! と言いたいです(1001~5000名、その他サービス)
・年度のスケジュールをいじくっても、学生と企業が混乱するばかり。大学の中で、より早い段階から就職を意識させるような取り組み(インターンシップの単位認定化など)を積極的に進めていくべき。大企業中心の就職活動から学生が早く抜け出せるような誘導が必要(5001名以上、医療・福祉関連)
・あまりにも、学校サイド(学生サイド)の意向を無視した政策だったと思います(1001~5000名、機械)
・一つの「枠」から出られず、狭い範囲の中で何とか折り合えるポイントを探しているにすぎない。抜本的に見直すため、ゼロベースでの議論を期待する(5001名以上、輸送機器・自動車)
・憲章や指針では、守らない企業が出てきた場合、同じことの繰り返しになる。ある程度強制力のある決まりにしないと変わらないと思う(1001~5000名、食品)
・毎年変更にするのではなく、8月選考開始で3年程度は続けてほしかった(1001~5000名、化学)
・ころころ変えすぎで、まったく学生を見ていない大人だと思う。採用の現場に本当に来たことがあるのかはなはだ疑問(1001~5000名、情報処理・ソフトウェア)
・2018年度新卒採用の方針を早めに確定させ、リリースしてほしい(301~500名、その他サービス)
・8月選考解禁の変更は迅速であったと評価できる(501~1000名、フードサービス)
・採用スケジュールについては、過去に何度も失敗しているにもかかわらず、同じことを繰り返しているので、今回の反省を踏まえ、とにかく学生にとって負担とならないような仕組みを考えてほしいです(501~1000名、建設・設備・プラント)
・経団連の発想(活動開始時期の統一)そのものが、自分たちの会社の力、ひいては「国の力(経済力だけでなく)」を弱めていることに、早く気づくべき(301~500名、化学)
・大学側も、学生の授業への影響云々といわれるが、授業そのものに魅力がないのだからしかたがない。逆に、早期に就職を決め、残りの期間を学業に打ち込んだほうがよい(301~500名、百貨店・ストア・専門店)
・政治家が就活に口をはさむべきではない(501~1000名、保険)
・日程云々より、採用選考の中身についての意思統一を図っていただきたい。例えば、統一した企業情報の開示ツールなどがあればと感じる(10名以下、教育)
・学生の就職活動、企業の採用活動の固定化した文化を打破しようという姿勢がない(11名~50名、鉄鋼・金属製品・非鉄金属)
・そもそも大学が単なる就職予備校化していることが問題なのであって、留学がどうだ、学業がどうだ、というのはさして意味をなさない。経団連も政府からの要請とはいえ、意味がないことは分かっていたので、無能と言わざるを得ない(101~300名、輸送機器・自動車)
・一昨年までのルールの本当の問題点は何なのかをしっかりと見極めるべき(101~300名、建設・設備・プラント)
・早期の見直しは評価できるが、3月広報解禁を動かせなかったことは評価できない(51~100名、商社)
8月から変更したことを評価する意見、変えるべきではなかったとする意見、大学自体が変わるべきとする意見、現在の新卒採用の在り方自体に疑問を投げかける意見など、さまざまな意見が寄せられましたが、多くの意見に共通するのは、企業(大人)の論理に振り回されている「学生目線の欠如」といえるでしょう。学生の立場になって考えたとき、果たして就職スケジュール、あるいは就職活動の在り方はどうあるべきなのでしょうか。
さて、皆さんはどんな意見を持たれていますでしょうか?
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