例年ですと、この時期には大手企業の面接選考~内々定出しのピークが過ぎ、就職活動を終了する学生も多く現れていたものですが、今年はかなり状況が異なります。経団連加盟の大手企業の多くは、まだ面接選考を開始することなく、各種のセミナー・懇談会による学生との接触を続けています。
今回は、4月22日に発表されたリクルートワークス研究所の「第32回 ワークス大卒求人倍率調査」(以下、大卒求人倍率調査)、弊社が4月中旬に実施した採用担当者向け「2016年新卒採用動向調査」、2016年3月卒業予定の就活生向け「就職意識調査」の結果を基に見ていきます。
さらに高まる求人意欲
リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、全国の民間企業の求人総数は、前年の68.3万人から71.9万人へと3.6万人増加(対前年増減率は+5.3%)し、学生の民間企業就職希望者数は、前年42.3万人とほぼ同じ水準の41.7万人であった(対前年増減率は-1.5%)とのこと。その結果、大卒求人倍率は前年の1.61倍から1.73倍へと0.12ポイントの上昇となっています[図表1]。2015年新卒採用における充足率を業種別に見ると、建設業88.8%、製造業99.3%、流通業95.5%、金融業87.3%、サービス・情報業85.4%(業種計93.8%)と全業種で充足できておらず、2015年卒の採用実績人数に対する2016年卒の求人数の増加率を見ると、全体では+12.6%となっています。
中小企業の求人倍率は低下となったが…
次に従業員規模別にも見てみましょう[図表2]。求人数は、「5000人以上」では前年の4万5800人から4万8700人へと2900人増(+6.3%)、「1000~4999人」では11万5500人から12万3300人へと7800人増(+6.8%)、「300~999人」では14万2000人から14万5100人へと3100人増(+2.2%)、「300人未満」では37万9200人から40万2200人へと2万3000人増(+6.1%)と、すべての規模において満遍なく増加しています。一方、「300人未満」だけは就業希望者が8万3900人から11万2100人へと2万200人も増加したことから、求人倍率は求人数が伸びているにもかかわらず、前年4.52倍→3.59倍へと大きく下降しています。これは中小企業側からしてみれば採用環境が好転していることを意味していますが、いささか疑問が残ります。多くの大手企業の採用スケジュールが従来とは大きく変更となることで、不安を抱える学生は多いものの、それが「中小企業志向」に変わるとは考えられません。現に弊社が昨年11月に実施した学生意識調査では、「絶対大手企業に行きたい」「できれば大手企業に行きたい」とする「大手企業志向」の学生の割合は、文系で前年59%→65%、理系でも68%→70%へと増加しており、中小企業の採用環境が好転しているとは考えづらい状況です。景気が好転し大企業の求人意欲が高まると、学生の「大手企業志向」が強くなるのはこれまでの習わしであり、今回もそれは変わらないと思われます。
約半数の学生がすでに1次面接を経験
ここからは、弊社が調査企画をし、楽天「みんなの就職活動日記」会員の就活生を対象にした「就職意識調査」の結果を紹介しましょう。まずは、4月中旬時点で学生はどこまで実際の就職活動を進めているかです。文系・理系別に見てみましょう[図表3~4]。文系学生の状況を見てみると、「学力/適性検査の受検」をした学生が68%、「1次面接」をした学生が55%と半数を超え、「最終面接」まで行った会社がある学生が13%、すでに「内々定を受けた」学生が9%、さらには「内定先を決めて就職活動を終了した」学生が2%となっています。大学グループ別では、「早慶クラス」「上位私大クラス」の学生は活動量が全般的に多く、「1次面接」はいずれも60%、「最終面接」はそれぞれ24%、17%となるなど、他の大学グループを引き離しています。
推薦制度による選考が行われているケースはまだ少ないでしょうが、文系よりも少ない面接回数で内々定が出ていることが想像できます。大学グループ別では、「上位私大クラス」の学生の活動量が突出して多くなっており、「1次面接」58%、「最終面接」「内々定」はいずれも31%となっています。
前年とほとんど変わらぬプレエントリー傾向
次に、これまでプレエントリーした企業の従業員規模を前年4月調査のデータと比較してみます[図表5]。1社でもプレエントリーした従業員規模を複数選択で回答してもらったものですが、「101~300名」規模へのプレエントリーは文系・理系ともに2~3ポイント伸びているものの、「1001~5000名」規模、「5000名以上」規模でもそれぞれ1~3ポイント伸びており、早期から中小企業を志向する学生が増えたとは言い切れない結果となっています。大企業でも前年よりも減少した企業が36%あるものの、「前年より3割以上少ない」とする企業で比べてみると、「1001名以上」11%、「301~1000名」24%、「300名以下」30%と規模が小さくなるにつれ多くなっています。「前年より多い」とする中小企業もあるものの、全体傾向からすればプレエントリーの段階ですでに苦戦を強いられている中小企業が多いと言えます。
就職ナビの王者がついに交代
最後に、学生の就職ナビの利用状況について見てみたいと思います。今年はエポックメイキングな年になりそうです。まずは、「活用している就職ナビ」から見ていきましょう[図表7]。こちらは就活において活用している就職ナビを複数選択で回答してもらい、過半数以上の学生から選択されたナビだけを抽出しています。「登録している=活用している」とはなりませんので、ご注意ください。これによると、「リクナビ」と「マイナビ」はこれまでどおり就職ナビの「2強」を形成していますが、注目すべきはそのポイントです。これまでの調査ではすべて「リクナビ」が「マイナビ」を上回るポイントを獲得してきましたが、今回の調査で初めて「マイナビ」が「リクナビ」を上回りました。しかも文系、理系同時にです。
かつては、大企業の情報掲載割合やプレエントリーの受付割合が圧倒的に「マイナビ」よりも多かったことで、「リクナビ」を活用する学生の多さにつながっていました。ところが、今年の2サイトの掲載企業の内訳を見てみると、従業員規模1000人以上の企業数では、「リクナビ」の2368社に対して「マイナビ」も2388社とほとんど変わらない状況になっています。
学生の活用度の点では、さらに突っ込んだ質問もしています。「活用している就職ナビの中で最も活用している就職ナビ」を一つだけ選択してもらうというものです。こちらについては、昨年との比較も用意しました[図表8]。昨年は、文系で49%、理系では57%の学生が「リクナビ」を最も活用すると回答していたのに対して、今年はそれぞれ31%、42%に減少し、代わって「マイナビ」が文系では昨年の31%から48%へ、理系でも24%から47%へと大躍進し、いずれもトップとなっています。「リクナビ」は昨年ネットで話題になった、「プレエントリーの煽り」の影響もあるかもしれません。
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