私はNHKや新聞社の取材などで何度も強調したのは、この日程は経団連が指針として出しただけのものであり、他の企業は全く従う必要がないこと、あたかもこの指針を日本企業全体の規則のように言うことは間違いであること、だから守る・守らないという言葉がナンセンスであること、学生はこれらの言葉に惑わされずに、選考を開始している企業の情報を収集して早く活動すればよいことを話しましたが、一切出ませんでした。紋切り型のコメントのほうがマスメディアでは使いやすいのでしょう。
経団連の指針は、すべての日本企業が守るべき規則ではない
よくマスメディアは、学生が混乱している、不安を感じていると言いますが、この状況を生み出しているのは、あたかも経団連の指針をすべての日本企業が守るべき規則のように説明する当のマスメディアであることを、なぜ認識しないのでしょうか。ある大学関係者から、2月に内定をもらった学生が「この企業はブラック企業ではないか。なぜならルールを守らないから」とその人に相談をしてきたと聞きました。
ある大学のキャリアセンターの掲示板には、その学校を訪問している企業アンケートから、「選考開始日を守りたいが、守れないと思う」という企業が9割だとする結果を発表していました。
友人が内定をもらったと聞いた学生は、「焦っている。自分も早く内定を得ないといけないと思うが、(選考ルール前の)いつまでに取ればいいのか分からなくて不安」とテレビで話していました。
予想をしていましたが、本当に混乱しています。マスメディアの罪は重いと思います。
HR総研の「2016年新卒採用動向調査」では、言うまでもなく企業の多くが8月1日以前に選考を開始します(後述)。経団連の指針も、かつての倫理憲章より縛りが大幅に緩んでいます。この勢いでいくと、超大手企業以外の企業はどんどん選考を進め、超大手企業の選考ピークは6~7月となり、8月1日は「踏み絵の日」(この日に選考会場に来れば内々定を出す)になるでしょう。
昨年からの長期に及ぶインターンシップから始まり、8月にならないと落ち着かない就職活動は、短期化どころか長期化であり、政府が学業圧迫回避のために採用時期の繰り下げを要請したことと真逆の結果になっています。このことも私は早くから指摘していましたが、残念ながらその通りになりそうです。
大学、学生、親にアドバイスを求められることがよくありますが、私が言うことは「自分の大学をターゲットにしている企業中心に活動し、選考しているなら早く受けて、納得がいったらすぐにでも就職活動をやめて何ら問題がない」ということです。ずるずると長く就職活動を続ける学生を見ていると、本当に胸が痛みます。
さて、前回までに続き、「2016年新卒採用動向調査」の結果を基に、各企業の動きを見ていきたいと思います。今回は、セミナーや面接、内定等の採用スケジュールについてです。
自社セミナー・説明会は解禁と同時にほぼ開催ピークに
2016年新卒採用にて、自社セミナーを開催する予定の月を聞いたところ(複数回答)、全体での最多回答は「2015年4月」の57%、次に「2015年3月」「2015年5月」がともに53%となりました[図表1]。3月1日の採用広報解禁とともに、いきなり自社セミナーの開催がほぼピークに並ぶこととなります。
なお、1月のこの項で報告したように、インターンシップのピークは2月となっており、インターンシップとセミナーの開催合計数は、2月と3月ではほぼ等しくなっています。2月のインターンシップには、名称こそインターンシップと銘打ちながらも、実質的にはセミナーに近いものも多かったようですね。
メーカー・非メーカーで異なるセミナー開催時期
面接(選考)開始時期はどうなりそうでしょうか。メーカーと非メーカーに分けて、傾向を見てみたいと思います。まず、メーカーについてです。大手企業では、最多回答こそ「8月」(31%)ではあるものの、「4月」と回答する企業も22%あり、2015年7月以前に開始すると回答している企業は合計すると6割近く(59%)になっています[図表2]。中堅企業では、面接開始を「4月」(37%)とする企業が最多で、「8月」以降との回答率はわずか9%にとどまっています。これに対して中小企業では、「8月」以降とする企業が26%と、4社に1社の割合になっています。

