先月,地方都市のハローワークから講演に招かれた。演題は「若者が育つ職場づくり」。ハローワークは公共職業安定所という正式名称の通り,職を求める人に仕事を斡旋する国の機関だが,退職者が出ないようにと事業所に対して側面的な支援も行っている。
 地元企業の人事労務担当者の集まりということで,会場の空気がふだんの講演会とはかなり違った。真剣さの度合いが異なるのだ。冒頭に雰囲気をやわらげようと,地元ゆかりの演歌などに話題を振ってみたのだが,誰も笑ってくれない。いきなりつまずいた感じで,以後まじめ一本やりの講演になった。
そして,終了後,参加者からお土産をもらってしまった。地場の有名な吟醸酒である。お気持ちはうれしかったが,ちょっと困った。翌日も別の場所でセミナーがあり,ここから直行する予定だったのだ。ありがたく持ち帰るとしても,電車が気がかりだ。以前に酒瓶が割れて,往生した経験もある。さてどうするか。考えた末に,その晩のうちにいただくことにした。「半分だけ」のつもりだったが,さすがは地元の銘酒だけあって,気がついたときにはほとんど空になっていた。

育てる側の気概が若手の離職を左右する

さて,前フリが長くなったが,本題である。「若者が育つ職場づくり」の秘訣は何か。逆説めくが,結論は上司や先輩などベテラン組の再教育を徹底することだ。多くの職場を見てきて,筆者はそう考える。
 若者の教育には,どこの会社でもそれなりに力を入れている。「社会人基礎力」なるものを教え,「自律的人材」になれとハッパをかけている。問題は,配属後の職場でのOJTにある。厳しい指摘になるが,「自分たちがしっかり教え,育ててやる!」という気概が欠如しているのだ。
 かつて日本的経営が行われていた頃は,終身雇用が前提となっていたため,その気概が職場にみなぎっていた。同じ釜の飯を食べる者同士の連帯感があり,イマイチの若者でもベテランが協力して育ててやろうとする風土があった。しかし“個人成果主義の時代”を経て,その基盤は大きく揺らいだ。
 「いまどきの若者はなっていない」と,いまどきのベテランは嘆くが,それは他責の論理でしかない。「だから自分たちはどう関わるのか」という自責の論理が欠けている。アップル社のスティーブ・ジョブスの言葉を肝に銘じよう。「即戦力など存在しない。だから我々が育てるのだ」。
 若者はミスマッチ転職が多い,などという表層的な分析を鵜呑みにしてはいけない。仮にミスマッチだったとしても,よい上司や先輩に出会えたと思える若者は簡単に離職などしない。職場の最高のモチベーター(動機づけ要因)は,尊敬できる上司であり先輩なのだから。本気で仕事に打ち込んでいる人,本気で部下を育ててくれる人,そんな人がいるかいないかが若者の定着率を決定する最大の要因なのである。

打たれ弱い若者と叱れない上司の関係

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