ご存じのとおり、東日本大震災の影響により、大手企業を中心に新卒採用の選考時期を4月から5月、6月へとずらすところが続出しました。これまでの横並び的な選考時期の集中が崩れ、今は学生も企業も混乱している状況の真っ最中ですが、悪いことばかりでもなく、新卒採用の在り方を見直す大きな機会になることでしょう。今後この連載でもその状況をレポートしていきたいと思います。
このコーナーでは毎月、最新のデータをベースとしながら、採用の実務に役立つ情報を紹介していきたいと思います。皆さんからのご感想、ご意見をいただければ執筆の励みになりますので、よろしくお願いいたします。
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新卒採用の実務チェック ――日本の新卒採用環境に関する基本的認識
日本の新卒採用を取り巻く環境は激変しています。連載の第1回では、採用担当者実務者が押さえておくべき最低限のポイントを確認しておきましょう。まずは対象となる大学生の質的な変化があります。ゆとり教育や大学全入時代による学生の基礎学力の低下が大きな問題となっています。また、幼いころから携帯電話やゲームに慣れ親しんだ世代的な特徴として、身近な仲間とだけ関係を持つ傾向があり、異なる世代とのコミュニケーションが苦手と言われます。さらに、停滞期の経済状況をずっと見てきたこともあり、大手安定志向が非常に強く、"内向き志向"の学生が多いと見られています。
もちろん悪いことばかりではありません。ITリテラシーが高いことはこれからのビジネスに大いに役立ちますし、情報感度も高いと言えます。中には、豊富な情報量を駆使した行動力で突出した学生も少なからずいます。また、今の日本では、内向き志向は学生に限ったことではありません。世代間のギャップをことさら強調するのではなく、各々の特性をうまく活用し、融合して戦力化していきたいものです。
次に、採用する側の企業の置かれている状況変化があります。このことについては読者の皆さんも認識されていることでしょうから、ここで詳細には述べませんが、右肩上がりではない成熟した経済状況の中でいかに生き残るか競争戦略が重要となり、採用すべき人材に対しても厳しい目が注がれるようになっています。その一方で、先にみたように学生のレベル低下が問題となっており、企業はより一層厳選採用の傾向が強くなって、一部の学生に内定が集中しています。また、事業のグローバル化に伴い、留学生や外国人に対する採用意欲が増しています。ただ、日本の人事制度など受け入れ側の体制が整っておらず、一気に進んでいるとは言えません。また、日本人採用が侵食されることを危惧(きぐ)する世論も見られます。
そして、採用活動・就職活動自体の方法も大きく変化してきました。インターネットの普及によって大量の応募が可能となり、一部の人気企業に応募が極度に集中するようになりました。人気企業側としては大量の母集団をスクリーニングする必要があり、能力・適性テストやエントリーシートの利用が一気に広まり学生の負荷が増大しました。その結果、企業側は必然的に「落とす採用」が中心となります。一方の学生は、一部の就職エリートを除いて、負荷が高まっているのにもかかわらず「落ちる」経験が何十社も続き、心が折れてしまうのです。
また、ネット就職活動の中で、リアルな人的接触による活動が希薄になる傾向があり、ミスマッチの一因となっているようです。それもあって多くの企業がイベント、説明会、社員懇談会などリアルな接触の機会を増やすのですが、それがかえって学生の多くの時間を奪うという悪循環にもなっています。
採用市場をめぐる最近の動き、話題
以上が大まかな現在の日本の新卒採用状況です。ただ、このような背景はさておき、結果的に卒業後就職できない学生が増加している現状を見て、日本の新卒一括採用全体を問題視する識者や関係者の発言が相次ぎました。日本の新卒採用の習慣は世界から見て非常識で、新卒・中途関係なく選考対象とすべきだとか、学業を圧迫する採用活動はけしからん、選考時期を遅らせよ、もしくは卒業してから就職活動すべきだとか、様々な意見が出ています。これらは真剣な思いから出ており参考にすべきものもありますが、多くは背景を認識せず、現象面だけとらえた新卒採用否定論になっているようです。もちろん、現在の日本の新卒採用には、上記の背景で見たように問題点が多くあり、抜本的に見直し改善する必要があります。ただ、現実的に企業にとって、人材の大きな供給源は新卒採用であり、不況下でも世界的に見て非常に高い就職率を維持しているこのシステムを簡単に見捨ててはいけないと思います。
このような状況の中で、日本経団連は2013年度の新卒採用から、採用広報時期を学部3年生、修士1年の10月から12月に遅らせることを決めました。また、インターンシップの定義を明確にして、1DAYインターンシップのような採用広報まがいの活動を規制しようとしています。また、新卒後3年間は新卒扱いとするよう政府方針が出され、従うとする企業が増えています。これらがどのような実効性を持つのか、今後の動向を注視していく必要があるでしょう。
今月の注目データ
[図表]は、新卒採用において、ターゲットとなる大学を設定しているか、また、その大学数は何校かを企業に聞いたデータです。約4割の企業がターゲット大学を設定し、その8割が20校以下です。厳選採用はかなり絞り込まれた大学が対象であることが分かります。自分の学校がターゲットになっていない大手企業を学生が受け続けても、ほとんど合格できないのが現状です。私は学生に相談を受けた時には、自分の学校がターゲットになっている企業(採用実績が多い企業)を就職活動対象の過半数にするべきだと言っています。
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