東日本大震災の被災地にボランティアで行った学生の話を聞くと、非常に大きな経験をしていると感じます。良かれと思ってしたことが現地の人には迷惑だったり、コミュニケーションがうまく取れなかったり、時間が経過するなかで感情が通じ合って理解できたり…。現地を実際に見て、体験して感じることは、先入観を打ち砕き、多くのことを考えさせられるようです。そこには「経験したからこそ分かる」ことがあります。

 ところで、ある新聞記事によると、阪神大震災の時はボランティアの6~7割を大学生が占めたのに対して、今回の震災では6月頃で約2割にとどまっているそうです。地理的な問題(関西は元々学生が多いし、交通の便もすぐ回復)や、放射能問題で大学や周りの人がストップをかけたこともあるでしょうから、単純に比較できないでしょう。現在、ボランティア活動に単位を与える大学もあり、今後多くの学生がボランティアを経験することは意味のあることだと思います。ちなみに、阪神大震災の時は、「就職の面接でボランティアをネタにする学生が非常に多くて閉口する」と言っていた人事担当者がいました。それはそれで良いと私は思うのですが。

 さて、「経験したからこそ分かる」という意味では、就職ではまさにインターンシップがそれに当たります。今回は、インターンシップについて調査データを交えて考えていきたいと思います。

倫理憲章で規制がかかったインターンシップ

経団連が今年3月に改定・発表した「採用選考に関する企業の倫理憲章」では、2013年度新卒採用からインターンシップに厳格な規制を設けることとしました。以下、一部を引用します。
・ インターンシップは、産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するために実施するものである。したがって、その実施に当たっては、採用選考活動(広報活動・選考活動)とは一切関係ないことを明確にして行うこととする
・ 学生の就業体験の提供を通じた産学連携による人材育成を目的とすることに鑑み、当該プログラムは、5日間以上の期間をもって実施され、学生を企業の職場に受け入れるものであること
・ 採用選考活動と明確に区別するため、告知・募集のための説明会は開催せず、また、合同説明会等のイベントにも参加しない
・ インターンシップに際して取得した個人情報をその後の採用選考活動で使用しない
 この倫理憲章の文言が意図することを分かりやすく説明すると、

――インターンシップと称して1日型、半日型など短期のイベントで大量の学生を集めた採用広報活動が早期に横行していたので、学業を圧迫しないために、これらをインターンシップとして認めないことにした。よって12月1日以前にこのようなものは実施してはいけない。やってよいのは、本来の趣旨「産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供」に即した、5日間以上の「実務体験」(職場に入れること)である。そしてこれは採用活動ではないのだから、個人情報を選考に使ってはいけない――ということです。

 一見すると正しい主張なのですが、これが思わぬ状態を生み出しています。

激減する1日型、半日型インターンシップ、増えない5日以上型

最初に言っておきたいのは、上記の「規制」は経団連の倫理憲章上のものであり、共同宣言している約800社だけに適用されるものです。その他の会社は守る必要はありません。新卒採用をしている日本の企業は1万社を軽く超えますし、大手企業がやらないなら、中堅中小企業である自社に目を向けさせる良い機会だから選考に直結するインターンシップをどんどん先にやろう!という考えもあり得ます。ところが、ほとんどそういうことになっていません。
 まず、大手就職情報会社が経団連に同調し、インターンシップの合同説明会を自粛したことが非常に大きかったのです。大手企業が参加しないと学生が集まらないことも大きな理由でしょうが、これによって大手以外の企業もインターンシップを告知する場が少なくなりました。また、いくつかの大手就職情報会社は、就職ナビに掲載するインターンシップ情報でも、経団連のインターンシップの趣旨に沿う掲載基準を設けました(これは各就職情報会社の判断で基準に差があります)。
 こういった状況で、1日型、半日型インターンシップが激減しました。また、5日間以上のインターンシップが増えたかというと、HRプロが実施した企業アンケート調査では、ほとんど増えていません[図表1]。その理由としては、職場に一定期間受け入れることは企業にとって負荷が増えることと、「採用に直結しない」インターンシップに企業メリットが少ないことが挙げられます。
第6回 産学連携で新たなインターンシップの枠組みを(2011年9月)
また、夏季インターンシップの公募を行っている複数の企業に聞くと、応募者数は芳しくないようです。1日型、半日型インターンシップが激減していることを考えると応募者は増えそうなものですが、そうでもないということは、学生の意識が高まっていないということなのでしょう。学生の意識が高まっていないという指摘は、大学の就職部・キャリアセンターの方からも、就職ガイダンスの出席率が落ちているなどということとともによく聞きます。これは、やはり採用広報の解禁日が12月1日に延びたこともあるでしょうが、インターンシップの合同説明会のような、学生と企業の担当者が早期に触れ合う機会が減ったことも関係していると思われます。

インターンシップの受け入れ先企業開拓に苦労する大学

一方で、大学は「インターンシップを拡大したい」と考えているところが多数です[図表2]。学生の希望者も年々増えていますし、学生に刺激を与え、意識を高める良い経験になるからことが分かっているからです。
第6回 産学連携で新たなインターンシップの枠組みを(2011年9月)
ところが、上記のような理由により、企業のインターンシップ受け入れは増えず、受け入れ先開拓に苦労している大学が少なくありません。大学があっせんするインターンシップは学生に単位が付くところが多く、また事前に学生の選考ができないところが多いことから、現在受け入れている企業でも、大学とのお付き合いはあるものの、あまり受け入れを増やしたくないというのが現状です。「『単位が取れるから来ました』という学生もいる。事前選考ができないから、レベルの低い学生を相手にしなければならないこともある」と企業から聞くこともあります。
 こうしたことから、産学連携で人材を育成するという崇高な目的を持ったインターンシップは、日本では広がりを見せていないのです。「学業を圧迫しない」という観点からすると、企業人との接触が少なくて学生の就職意識が高まらず、採用広報まがいのインターンシップ参加も減ることはむしろ歓迎される状況かもしれません。ただ、多くの大学の就職部・キャリアセンターの方々は、学生の意識が高まらないまま12月から始まる(大手企業中心の)短期決戦型の就職戦線に突入することに不安を覚えているのが現状ですし、表面的な理解で選考が進み、ミスマッチが増える危険性も増大するかもしれません。

産学連携で新たなインターンシップの枠組みを

個人的には、採用直結型のインターンシップがもっと増えればよいし、時期の規制等はなくてよいと思っています。現に外資系企業等は、大学3年・修士1年の夏季インターンシップで事前選考して10月には内定を出していますし、特に倫理憲章と関係のない企業は独自の動きをしてよいでしょう。アメリカの中堅中小企業では、インターンシップを通じて採用する企業が非常に多いと聞きます。今後は産学連携のインターンシップを有効な採用手法として考えていくべきです。そのためには、受け入れ企業のメリットを考えたインターンシップの枠組みを産学連携で作り上げていくしかないでしょう。
 規制ではなく自由な発想で、インターンシップを通じて産学連携で学生を育て、双方納得度の高い就職でミスマッチをなくす方向に向かうことを期待しています。

今月の注目データ

今回は、HRプロが6月に行った学生対象のアンケート調査結果から、インターンシップについての回答を抜粋してご紹介します。
 1日型・半日型インターンシップでも評価が高いものはたくさんあります。印象の良いインターンシップは、社員の印象とともに、「気づき」を与えられ、意識を高められるもののようです。逆に印象の悪いインターンシップは、つまらない、「気付き」がない、拘束が長すぎる、社員の態度が悪い等が主な理由です。
● 印象の良いインターンシップの理由(一部抜粋)
・ 1日だけの短いインターンシップであったが,仕事内容など細かなことまで色々教えていただき,有意義な時間を過ごせたから
・ 1日のみのインターンシップでしたが、コンパクトかつインパクトで銀行が社会に貢献する役割のイメージが変わったからです
・ 仕事体感セミナーにおいて、お客様に販売して購入していただくというプロセスまであったため、購入していただくという“喜び”を強く感じた
・ グループワークで模擬の新商品企画を行い、発表内容の良かったグループには自社商品のプレゼントがあった。また、そのインターンシップで自分自身のやりたい業種を決めることができた
・ 周りの学生のレベルが高かったため
・ 社員の方が、優しく接してくれた。分からないことは、丁寧に教えてくれたから
・ プロフェッショナルの仕事を肌で感じることができたから。普段できない仕事な分、学ぶべき点がたくさんあって毎日が発見だった
● 印象の良くないインターンシップの理由(一部抜粋)
・ 社員の対応がイマイチで、学生を完全に見下していた。選考の一部という意図が見え透いていたこと。人事社員が尊敬できる人柄ではなかった
・ アルバイトと同じことしかさせてもらえなかった。レジ打ちなど。その上、交通費も昼食代も出ず、あれではタダ働き
・ グループワーク形式だったが、社員の方が回ってくることもなく、ほとんど放置状態だった
・ 1カ月もの研修期間を、同じ場所で同じ仕事しかさせてもらえず、時間がもったいなかった。これなら研修期間の短い会社を数件回った方がいいと感じたから
・ インターンというよりただの説明会だった。人数も膨大でインターンをいう名前でやる意図が分からなかった
・ 学生は話を聞くシーンが多く、積極的に取り組む機会が少なかったため
・ グループワークも少なく、友人を得られなかったため
・ 淡々と人材育成用のゲームをやらされているだけのような気がして、何も身に付かなかったから
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