前回は2カ月スタートが遅れた採用・就職戦線において極度の集中化が起こっている現状と、その背景、原因分析について述べました。大学側の学業圧迫の批判に対応して経団連が決定した採用活動のスタート遅れですが、就職情報会社が同調したことにより極度の集中化が起こってしまったというのが大まかな内容でした。また、その結果、極めて「薄い意識の(=志望度の低い)母集団」が生まれていること、「真の母集団」を形成するためには密度の濃いコミュニケーションをとっていかなければならないことを述べました。

回復傾向にある企業の採用意欲

現在私の会社では、昨年末に実施したアンケート調査の結果を分析しているところですが、その一部を紹介するとともに、特に今回は流行の「ソーシャルメディアを活用したリクルーティング」についてアンケート調査からレポートをしたいと思います。

企業の採用意欲は12年度(12年4月入社)で底を打った感がありますが、今回の調査では明らかな回復傾向が読み取れます。全体では「昨年並み」が58%と最も高く、次いで「増やす」が18%と、「減らす」7%の倍以上になっています。
第10回 ソーシャルメディアの採用活動と学生の活用(2012年2月)
ただし、事務系・技術系採用別にみると、技術系では「増やす」16%が「減らす」4%を大きく上回っているのに対して、事務系は「増やす」8%、「減らす」7%と拮抗しています(なお、全体と事務系・技術系採用別の「増やす」「減らす」の平均値が合わないのは、事務系・技術系採用別での採用数内訳が未定の企業が多いためです)。
 学生のプレエントリー数の状況について、昨年同時期との比較を聞いたところ、「減っている」が42%、「昨年並み」が38%、「増えている」が20%という回答でした。プレエントリースタートの12月1日から1か月足らずで昨年の3カ月分と同数か増えている企業が約6割あるということですから、やはり集中化が起こっていたとみるべきだと思います。

3月までに選考を開始する企業が約半数

今後選考を開始する時期を尋ねたところ、全体では48%、約半数の企業が3月までに選考を開始すると回答しています。もちろん、社数は限られるものの採用数が非常に多い超大手企業は、その多くが経団連傘下なので、面接等の選考は4月1日からに集中するでしょう。このため、学生全般の3月末までの動きとしては、会社説明会、社員面談、エントリーシート提出等が中心的な活動となるでしょう。ただし、同時期に選考を行う企業が約半分あるので、学生はさらに集中した就職活動を余儀なくされると言えます。
 また、現時点での採用の「手ごたえ」を聞いたところ、「質・量ともに良い学生が採用できそう」は5%に過ぎず、「質・量ともに苦戦しそう」が24%、質か量かで苦戦するとしている企業は29%と、苦戦を予想する企業が多くなっています。そのような中で、「ターゲット大学を設定している」企業は全体の48%と、昨年の39%からさらに9ポイント上回りました。質を求めて大学をターゲティングする動きは今年もさらに強まりそうです。

ソーシャルメディアの採用への活用

さて、今年度から一気に流行の兆しがあるソーシャルリクルーティング(Facebook等のソーシャルメディアを活用した採用活動)ですが、データを見てみるとどのようになっているでしょうか。
 採用活動のためにFacebookを「立ち上げた」企業は7%、「予定」「検討中」も合わせると約32%となります。他方62%は「立ち上げるつもりはない」としています。企業規模別にみると、大手企業ほどFacebookを採用に活用する意向が強いようです(「立ち上げた」「予定」「検討中」合計が40%)。
第10回 ソーシャルメディアの採用活動と学生の活用(2012年2月)
Facebook採用サイトを立ち上げた企業に活用法を聞いた回答をいくつか紹介します。
・ 就職ナビの使用をやめたため、母集団形成の手段の一つとして説明会などの情報発信をしていく。また、Facebookの特徴を生かした、Facebook上での質問会なども開催(専門商社、300名以下)
・ リクナビ、HPとは異なるアクティブな情報をタイムリーに提供することと、自社社員(人事部門含む)とのソーシャルな交流を図ることを目的とする(情報処理・ソフトウェア、301~1000名)
・ 採用HPや入社案内パンフレットなどオフィシャルなところでは見えない、社内の日常を伝える。通常説明会やFacebook限定説明会などの情報発信(医療機器、1001名以上)
 これらはコンテンツとして特徴のある方で、実は多くの企業は「基本的な求人内容、採用担当者紹介、イベント情報、就活アドバイス」など、採用ホームページと大差のない情報をアップしています。まだ手探り状態のところが多いようです。
 採用活動におけるソーシャルメディアの可能性について聞いたところ、「就職ナビにとって代わる可能性がある」が7%、「就職ナビにとって代わることはないが、採用ツールとして役立ちそう」が23%と、約3割が肯定的な見方です。「今はまだ実験段階」が33%、「ソーシャルメディアの活用は一時的なもの」「採用活動にはなじまない」「活用するつもりはない」とネガティブな意見の合計は23%となっています。
肯定的な意見と否定的な意見をいくつか紹介します。
・ 方向性の確保、学生と採用担当者の本音が聞ける等々、今後も採用ツールとして拡大するのではないでしょうか(建設・設備・プラント、300名以下)
・ 多大なコストをつぎ込んできた就職ナビ全盛の時代は終了を迎える。Facebookを媒介とした情報提供と情報享受を学生、企業双方が受けることとなる。単なる情報のやり取り、提供だけでなく、SNSを活用した人と人との直接的な交流による情報共有が浸透する(情報処理・ソフトウェア、301~1000名)
・ 学生の間で、情報の共有がすさまじく速い(その他メーカー、1001名以上)
・ 学生と企業をゆるやかにつなぎ続ける有用なツールだと思う(専門商社、1001名以上)
・ 今は流行として、ある程度は活用されると思うが、結局システムが問題なく運用できる就職ナビが中心として生き残っていくと思う(運輸・倉庫・輸送、300名以下)
・ みんな煽られていると思う。学生にとって、企業の広告や就活関連のことばかりがニュースフィードに流れるなんてfacebookの意味がない(鉄鋼・金属製品・非鉄金属、300名以下)
・ 情報漏洩等が心配ですね(医薬品、300名以下)
・ 中小企業にとっては、有効な採用ツールだと思いますが、大企業にはなじまない気がします(人材サービス、1001名以上)
・ facebookのような実名制、twitterのような匿名制、それぞれの影響力がとても強いので、気軽に始められない。また、採用担当の人数も少ないので、就職サイトとの使い分けや更新が面倒(専門商社、301~1000名)
・ 公私の境がわからなり、使う人によっては「もろ刃の剣」になると思う。公私混同が起こり得るリスクが高いと思う(電子、1001名以上)

学生はソーシャルメディアの活用をどう考えているか

一方、学生の使用状況も少し見てみましょう。
 就職活動で使用しているソーシャルメディアは1位がFacebookの37.1%、Twitter33.2%、mixi8.2%と続きます。「就職活動でソーシャルメディアは使わない」は44%となっています。
 使われ方としては、「企業の採用ページからの情報収集」が62%と最も高く、「友人との情報交換」60.3%、「他の就活生からの情報収集」37.8%と続きます。何社の企業ページを見たかを聞いたところ、53%が「見たことがない」と答え、「1~3社」28%、「4~6社」10.4%、7社以上見た人は10%以下と、まだまだ多くはありません。
 また、「就職活動でFacebookを利用したいと思いますか」という質問に対しては、「思う」35%に対して、「思わない」が62%と高くなっています。
 こちらも肯定的な意見と否定的な意見をいくつか紹介します。
・ 直接メッセージを送ることもできるから(文系、女子)
・ 企業の生の声を聞ける気がするから(文系、男子)
・ 等身大の自分を見てもらえる。学生生活の自分の様子を見てもらえる(理系、女子)
・ 企業の採用の人の話や、同じ会社の志望者の話が聞けそうだから(理系、男子)
・ OB・OG訪問などを行う際に利用できると思うので(文系、女子)
・ 友達に「いいね」が見えてしまうから。むやみに友達に自分の希望する企業を知られたくない(文系、女子)
・ なんで私生活までさらさなきゃいけないのか(文系、男子)
・ 必要な情報はメールや企業サイトにあると思うから(理系、女子)
・ 自分が志望するような大企業の場合、リクナビ等で十分対応できるため、使う必要がないから(理系、男子)
・ 企業は自分の足で行き、自分の目で確認し、自分の耳で聞いたことを信じて決めたいので、採用ホームページ以外は使わない予定です(理系、男子)
 否定的な学生にとっては、Facebookの情報と採用ホームページに出される情報とで何が違うのかが分かりにくいようです。また、個人情報露出に対する危惧もあります。さらに、あまりにネット情報が氾濫しているので、これ以上必要ないという感覚もあります。
一方、肯定的な学生にとっては、採用ホームページとは違う生の声やコミュニケーションが伝わるという期待があるようです。また、会社の採用ページではなく、卒業大学からたどって個別にOB・OG訪問をする方法として活用する学生も少なくないようです。
 企業側でも学生側でも、このほかにも実に多くの意見があり、ソーシャルメディアの「幅の広さ」「影響範囲の大きさ」がいろんな解釈~これまでにない可能性もあるが、リスクも高い~を生む要因でもあると思います。現段階で結論を出すのは早すぎるでしょう。
今後の企業、学生の様々な使い方がどうなっていくのか、そして良い採用、就職に結び付くか。その結果によって、次年度以降のソーシャルリクルーティングの在り方が大きく変わっていくことでしょう。
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