論理的な思考力を養うには,どうすればよいか。よく研修などで取り上げられるテーマだ。今回は,アプローチのひとつとして「3 点思考」をご紹介する。
多くのことは3 つの概念で説明できる
 かつて黒澤明と並び称された映画監督・小津安二郎は,次のような言葉を残した。「どうでもいいことは流行に従う。大事なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」
どうでもいいこと,大事なこと,芸術のことと, 3 段階に分けて論じている。レベルに応じて準拠するものが異なっていて,分かりやすい。こうした基準を決めておくと,自分は何にこだわり,何にこだわらないのかが明確になり,ある意味で生きやすくなる。

 このように,思考の方式や枠組みを3 つのステップでまとめてみると,自分の考えを整理するのにとても役立つ。私はこれを「3 点思考」と呼んで,研修などでも推奨している。

 なぜ3 段階でまとめたり,説明したりすると分かりやすいのか。これも3 つで説明してみよう。

①世界のさまざまな現象や事柄は3 つの要素から成り立っていることが多い。
② 2 つでは並列的な関係でしかないが, 3 つになると構造を形成する。
③そのため「3 」で説明されると理解しやすく,自然な説得力を持つ。

 3つの要素から成り立っている現象や事柄をランダムに挙げてみると……宇宙(時間・空間・物質),時間(過去・現在・未来),空間(縦・横・高さ), 3 原色(赤・青・黄),色の属性(色相・明度・彩度),音楽(リズム・メロディー・ハーモニー),心の働き(知・情・意),国権(司法・立法・行政),物流(生産・流通・消費),戦略の基本3C(カンパニー=自社・コンペティター=競合他社・コンシューマー=消費者),マーケティングの3P(プロダクツ=製品・プライス=価格・プロモーション=販売促進)。

 3Cや3Pになると,いや4Cや4Pもあるぞと言われそうだが,ここでは,ものごとの仕組みや成り立ちを説明するうえで「3 」は有効な概念であるとご理解いただきたい。自分の考えをまとめるとき,あるいは人にものごとを説明するとき, 3 点思考を心がけてみると論旨が明快になり,説得や交渉の場面などでも力を発揮する。

三段論法と弁証法を 思考法のヒントに

「3 」に即して考えるというアイデアそのものは非常に古く,その代表格はソクラテスの三段論法や,ヘーゲルの弁証法である。ともに哲学者として歴史に名をとどめている人物だ。

 三段論法のほうは,ご存じの人も多いだろう。「AはBであり,BはCである,ゆえにAはCである」と述べる論法である。“人はすべて死ぬ,ソクラテスは人である,だからソクラテスは必ず死ぬ”というように。大前提と小前提から,第3 の命題(結論)を得る論理で,分かりやすいロジックだ。

 弁証法のほうは,もう少し複雑で,動きがある。「ものごとは正(テーゼ)→反(アンチテーゼ)→合(ジンテーゼ)という原理によって構造的に進展する」というもの。─歴史の流れで考えると,人類は長く生物資源エネルギーに依存して栄え(正),やがてそれに対するアンチテーゼとして,環境問題がクローズアップされるようになり(反),現代は人類の繁栄と地球環境の整備を,ともに実現する新たな時代を迎えている(合)─繁栄か環境かという二律背反ではなく, 2 つとも視野に入れた「合」を満たすのが弁証法の考え方といえる。弁証法というと,哲学の用語なので難しそうだが,英語ではダイアレクティク。つまりダイアローグ(対話)の方法といった意味だ。平易に論理的に語る方法だと解釈すれば,これを利用しない手はない。ものごとを「3 」で考えるトレーニングをするのである。

①ものごとを3 つの視点で考える
 YESかNOかの二項対立で終わらせないために必要な発想だ。「人類の繁栄VS.地球の環境」という単純な二律背反ではなく,「共存的繁栄」という第3 の選択を考えるように。採算性の悪くなった事業を,続けるべきか止めるべきか判断するときに,「第3 の選択は何だろうか」と考えるくせがついていれば,それだけ新しい発想が浮かびやすくなる。

②何でも3 つの要素で説明する
 人前で自分の意見を述べる機会が多い人は,このやり方を利用している人が少なくない。ゼネラル・エレクトリック(GE)の元会長ジャック・ウエルチ氏は,管理職の条件として「エッジ,エネルギー,エンパワーメント」の3Eを挙げた。管理職の条件はほかにもたくさん挙げられるだろうが,理解しやすく記憶にも残るものとしては3 つがちょうどよい。

③構成や変化を3 段階でとらえる
 ソクラテスは「真,善,美」を唱え,『菜根譚』の著者・洪自誠は人が成功する要因として「運,鈍,根」を挙げている。

“ 3 つ”を意識して 頭を活性化させる

先人にならって,私もいろいろなキャッチフレーズを考案してみた。例えば新人向けの研修用に図表のようなものがある。

 あれもこれもと並べたてるより, 3 つに絞って語呂のよいものにすると,受け入れられやすくなる。こうした練習を続けるうちに,構成や変化を3 段階でとらえるコツも身についてくる。3 謝や3 快は並列的な要素だが,さらにものごとの変化を段階的にとらえたり構造的に説明したりすると,頭の働きが活性化してくる。

 効果的なトレーニング法は,人に何か説明したり,分析したりする際に,「要点は3 つあります」と,初めに心の中で宣言してしまうことだ。そう心に決めて「第一は~」と語りだすことにより, 3点思考の枠組みに自分を押しやるのである。思考の整理にはうってつけのトレーニングなので,ぜひ挑戦していただきたい。
第23回 「要点は3つあります」─思考力の高め方─

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