後編では、林野氏による講演内容をお届けする。
後編では、林野氏による講演内容をお届けする。
基調講演2:イノベーションは誰でも起こせるチャンスがある
基調講演2に登壇したのは、株式会社クレディセゾン代表取締役社長の林野宏氏。同社は、サインレス決済、ポイント制度の導入、そしてポイントの有効期限撤廃など、業界に先駆けた斬新な取り組みで知られている。林野氏は、21世紀に求められる企業経営と、イノベーションを生み出すビジネスパーソンの条件について紹介した。林野氏曰く、企業の本質は競争であり、現代においては、イノベーションを起こし続けることこそ企業の継続発展性の原点である、とのこと。続けて、日本語では「技術革新」と一括りにされがちな、イノベーションの本質について、次のように解説した。
「技術革新」は発明だが、「イノベーション」は発見である。イノベーションの条件は、需要側の価値に劇的な変化が起きることだ。例えば、iPodやiPhoneは、従来はレコードやCDなどで流通していた音楽というコンテンツをネット上でデータ配信した。このことは、これまでの進歩の延長線上にはない非連続の変化を起こしたと言え、発見により需要側の価値を変化させたイノベーションの好事例と言える。こうした技術革新とイノベーションの違いを踏まえた上で、林野氏は、誰でも起こせるチャンスがあるのが、イノベーションである、と述べた。
「技術革新は『できるか、できないか』だが、イノベーションは『思いつくか、思いつかないか』、言い換えれば『潜在需要を顕在化する』ことだ。難しいからできないのではなく、『なぜ今までこれがなかったのか』というものに気づき、実行することが決め手となる。つまり、いつでも、誰にでもチャンスがある」(林野氏)
現代社会では、消費者が自ら製品について調べ、比較することで、価値を判断している。また、少子高齢化や可処分所得の減少を背景として、消費の価値観も変化した。企業が生き残るには、イノベーションの源泉となる「クリエイティビティ」が重要だという。
では、クリエイティビティを育むにはどうすればいいのだろうか。林野氏は、クリエイティビティが生まれやすいのは、制約のある環境でハンディキャップを克服する強い情熱だという。そしてそれは、決して生まれつきの才能などではなく、人生の中で獲得・発展させていくものだと強調し、特に企業の人事担当者は、このことを認識しておくべきだと、会場の参加者に呼びかけた。
まず、ビジネスを「知識や情報を、経験によって知恵に変え、行動に移すことによって、富に置き換える作業」と定義し、さらに、この過程で求められる能力を示す新たな指標として「BQ(Business Quotient、ビジネス感度)」という概念を紹介した。ビジネスパーソンのBQは、IQ(知性)×EQ(理性・人間性)×SQ(感性)で決まるという。
また、組織と個人の理想的な関係性について、組織とは個人が活躍する舞台であり、組織に忠誠を尽くしたり、組織を守るために自分を犠牲にしたりする考え方は疑問視すべきとだとした。
さらに、人間の能力について「目標に向かって努力する情熱の持続力」と定義。革新型リーダーに共通する特徴について、彼らの能力の高さは生まれつきの才能ではなく、努力の賜物であると分析し、人事担当者は学校名や偏差値で評価する手法を見直すべきである、とアドバイスした。
講演の締めくくりに、林野氏は成功の秘訣について「夢中になれることを見つけ、それを仕事にする」、あるいは「与えられた仕事に夢中になる」のいずれかだと述べ、“夢中になる”ことの大切さを説いた。
「かつての日本企業での働き方は、与えられた仕事に夢中になるしかなかった。しかし今後は、人材がもっと流動的になり、転職が当たり前になるだろう。企業は、2020年以降の社会の激変を生き延びることができるビジネスパーソンを育てるよう努め、他社でも十分活躍できる人材にすることが、結果的に、自社が衰退しない最大の要素になるのではないか」(林野氏)
登壇した両名は、「イノベーション」という言葉の本質を紐解き、それが生み出される仕組みを分かりやすく解説した。言うまでもなく、会社は「人」でできており、社内でイノベーションを起こす土壌を整えるためには「人事戦略」が欠かせない。日本企業が東京五輪後に待ち受ける経済の変化の中でも生き残り続けるためには、人事戦略を見直すことがひとつの鍵となるようだ。
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