そこで、6月28日にオンラインセミナーを実施し、学習院大学 経済学部経営学科 教授/一橋大学 名誉教授の守島基博氏にエンゲージメントについてお話しいただきました。また、守島先生の全面監修でProFutureが開発した無料エンゲージメントサーベイ「エンゲージメントコンパス」を紹介しながら、エンゲージメントサーベイ活用のポイントについて、守島先生とProFuture代表の寺澤が語りました。本記事では、そのセミナーの内容をレポートします。
【基調講演】「人的資本経営の指標としてのエンゲージメントとは」(学習院大学 経済学部経営学科 守島 基博教授)
従業員エンゲージメントは、人的資本経営における重要な指標
本日は、人的資本経営とエンゲージメントの関係についてお話をしていきます。人的資本経営は、「人材版伊藤レポート」が公表された2020年9月頃から盛んに議論をされていますが、私は人的資本経営の本質とは、企業が人材の価値を最大限発揮できるようにマネジメントしているかだと考えます。人的資本をどれだけ保有しているかではなく、どこまで活用しているか、ビジネスにつなげているかが、人的資本経営の本質です。したがって、人材の価値がどこまで発揮できているかを測定する指標が必要です。私は、そうした指標として、中核的なものが、「従業員エンゲージメント」だと考えます。人的資本経営の中で、どれだけ人材が活用されているかを見るひとつのKPIといえるでしょう。従業員エンゲージメントとは、働く人たちが仕事や組織に対してどれだけ没入しているのか、熱意を持って働いているのかなどの指標です。仕事にどれだけ自分を主体的に投入しているのかを表す指標であり、人材価値がどこまで発揮されているのかを測る尺度となります。つまり、人的資本経営が有効に行われていることの指標だといえるでしょう。従業員エンゲージメントは、これからの人的資本経営時代において、きわめて重要な指標なのです。
では、従業員エンゲージメントには、どのような効果があるのでしょうか。米国の調査会社ギャラップによると、従業員エンゲージメントが1標準偏差上がると、生産性は22%、利益率は21%向上します。そして欠勤率は37%、事故率は48%、欠陥品率は41%下がります。また、研究者のAlan M. Saks氏によると、離職意図と組織へのエンゲージメントの相関は-0.44です。エンゲージメントを上げることで、離職率が一定程度減少することがわかっています。つまり従業員エンゲージメントは、働く人の態度を表す指標ですが、企業として重視していきたい様々な数値との相関が確実にみられるのです。
しかし最近、従業員エンゲージメントが低下しているという調査結果を多く目にします。1つは、2017年5月に日本経済新聞に掲載された、ギャラップ社の調査結果です。世界各国の企業を対象に実施した従業員エンゲージメント調査にて、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%でした。これは米国の32%と比較すると大幅に低く、当時話題になりました。もう1つは、2022年5月の日本経済新聞で紹介された、同様の働きがい調査データです。調査方法が違うので、ギャラップ社の調査と直接の比較はできませんが、2016年の調査では、世界平均68%に対して日本は58%、2020年では世界平均66%に対して日本は56%でした。世界平均も少し下がっているのですが、日本は調査を行った23カ国中最下位です。さらに2016、17年あたりに比べて、直近でエンゲージメントが落ちていることも、由々しき問題だと考えています。こうした調査結果を見ると、もしかしたら日本企業は人材をフル活用できていないのかもしれません。
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