歴史的な人物のエピソードから,上司と部下のやりとりとして参考になるものをご紹介する。
きみは商品を抱いて寝たことがあるか?抱いて寝ると、ものを言うてくれるで。
~松下幸之助氏から谷井昭雄氏へ~
谷井氏が技術者として松下電器産業(現・パナソニック)に入社したとき,創業者の幸之助氏はすでに社長を退き,京都の別邸でPHP活動に従事していた。それでも商品開発に打ち込む谷井氏に,折を見ては親しく声をかけてくれた。
きみは商品を抱いて寝たことがあるか?抱いて寝ると、ものを言うてくれるで。
~松下幸之助氏から谷井昭雄氏へ~
谷井氏が技術者として松下電器産業(現・パナソニック)に入社したとき,創業者の幸之助氏はすでに社長を退き,京都の別邸でPHP活動に従事していた。それでも商品開発に打ち込む谷井氏に,折を見ては親しく声をかけてくれた。
「商品を抱いて寝る」とは,単なる比喩ではないことに後年,谷井氏は気づいたという。開発中の商品と,寝食を共にするほど深く付き合っていると,商品のほうから改善点を教えてくれるようになる。発見するのは人のほうだが,それを商品が教えてくれたとしか感じられない密接な関係が生まれる。そうなって初めて「良い商品」が完成する。この教えを忠実に守り,谷井氏は録音機事業部,ビデオ事業部などを牽引。のちに4 代目の社長として同社の発展に貢献した。
「商品を抱いて寝る」という表現は,今,多くの会社の教育研修などで使われている。開発部門に限らず,営業でも間接部門でも,自社の商品を愛することが社員のモチベーションの原動力となるからだ。
どういうかたちであれ,商品を通じて社会に貢献することが企業の使命であることに,今昔の差はない。であれば,理屈をこねる前に,「商品を抱いて寝てみよ」と教えることには大きな意味がある。
楽しい気分になりたければ,楽しい気分になれるよう演出してみればよい。笑ってみるのだ。同じように,商品を好きになりたければ,好きになれるよう演出してみればよい。それが抱いて寝るという発想だ。本当に「ものを言うてくれるで」となるかどうかは,実際にやってみた人にしか分からないのである。
「商品を抱いて寝る」という表現は,今,多くの会社の教育研修などで使われている。開発部門に限らず,営業でも間接部門でも,自社の商品を愛することが社員のモチベーションの原動力となるからだ。
どういうかたちであれ,商品を通じて社会に貢献することが企業の使命であることに,今昔の差はない。であれば,理屈をこねる前に,「商品を抱いて寝てみよ」と教えることには大きな意味がある。
楽しい気分になりたければ,楽しい気分になれるよう演出してみればよい。笑ってみるのだ。同じように,商品を好きになりたければ,好きになれるよう演出してみればよい。それが抱いて寝るという発想だ。本当に「ものを言うてくれるで」となるかどうかは,実際にやってみた人にしか分からないのである。
それだけか、君の報告は。何か俺に隠してないか。 ~後藤田正晴氏から佐々淳行氏へ~
中曽根内閣で官房長官,宮沢内閣で副総理を歴任した後藤田正晴氏は,頭が切れる人という意味で「カミソリ」と称された。よど号ハイジャック事件,あさま山荘事件,大韓航空機撃墜事件など,多くの大事件に際して危機管理の指揮にあたった。この人の部下として30年以上仕えた体験を,佐々淳行氏はさまざまな場で語ってきた。たいへん語りのうまい人で,話を聞くにつけ, 2 人の関係が「よき上司・よき部下」の見本のように感じられたものだ。筆者が耳にしたエピソードの中で,最も印象深かったのは,後藤田氏を「デブリーフィングの達人であった」と述べていることだ。普通のブリーフィングとは,部下が上司に短時間で要領よく報告をすることだが,デブリーフィングとは,部下が報告しにくいことを上司の側が巧みに引き出すこと。組織においては,良い報告はあがっても,悪い報告は隠蔽されやすい。特に減点主義の風土がある官僚機構では,その傾向が顕著だ。
佐々氏をはじめ部下が報告をすると,後藤田氏はこう言うのが口癖だった。
「それだけか,君の報告は。ほかに何かないか」。ときには,もっとはっきりと,「何か俺に隠してないか」とも。正面からそう問われると,「じつは」と答えざるをえなくなる。
悪い報告をせよ,とは多くの上司が口にする言葉だが,その大切さを懇切ていねいに伝えている上司は少ない。かつて官房長官のころ,後藤田氏は初代安全保障室長の佐々氏に,次のような訓示を与えた。
①省益ヲ忘レ,国益ヲ想エ。
②悪イ,本当ノ事実ヲ報告セヨ。
③勇気ヲ以テ意見具申ヲセヨ。
④自分ノ仕事デナイトイウ勿レ。
⑤決定ガ下ッタラ従イ,命令ハ実行セヨ。
すばらしい内容である。ここまで方針を明らかに示してこそ,はじめて上司と部下の率直なコミュニケーションが生まれる。「悪イ,本当ノ事実ヲ報告セヨ。勇気ヲ以テ意見具申ヲセヨ」。官民を問わず,チーム・マネジメントの指針として活用できるのではないか。
自分を凌駕する部下を育てなさい。 ~豊田英二氏から若松義人氏へ~
トヨタ自動車が日本を代表するエクセレント・カンパニーであることは誰もが知っている。カンバン,カイゼンなどトヨタ発の用語が海外でもそのまま通じるほど,世界的に大きな影響力を発揮している会社だ。しかしトヨタのすごさは,物づくりと合理化の技術だけではない。人づくりに対する姿勢にも明確なトヨタイズムが見てとれる。それを端的に表すのが,掲げた豊田英二氏の言葉だ。
「人を大切にしなさい。部下をしっかり育てなさい」とは,どこの経営者でも言う。しかし「自分を凌駕する部下を育てなさい」とまでは,なかなか言わない。職場の管理職にとっても,優秀な部下はほしいが,自分を凌駕するほどの部下となると,思いは複雑だろう。「自分を凌駕する部下=自分に取って替わるライバル」と考えるからだ。特に個人的な成果主義が重視される会社にあっては,なおさらのことである。
が,豊田英二氏はきっぱりと明言した。自分を凌しのぐ部下を育てるのが上司の役割であると。すでに伝説の域に達したトヨタの大経営者が発した言葉である。そのDNAは現在にも脈々と受け継がれている。
「クルマづくりの前に人づくり」―物づくりよりも人づくりが優先すると説いたのは,豊田英二氏の4 代後に社長となった張富士夫氏である。
トヨタは今世紀の初頭に「トヨタウェイ2001」を発表した。付随して10箇条の行動基準が設けられたが,その中に次のような文言がある。
「第7 条 部下があなたに挑戦して,あなたの作った業務プロセスを改善するような風土を作ってください」
自分を凌駕する部下を育てよ。まさに人材育成の最高の金言ではないか。若松義人氏は,豊田英二氏が副社長に就任した年にトヨタ入社。『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』『トヨタの上司は現場で何を伝えているのか』など著書が多く,トヨタイズムの伝道者として精力的に活動している。
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