HR総研が2019年5月に実施した「人事の課題とキャリアに関するアンケート調査」において、今後3~5年の採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ面での課題について尋ねたところ、「次世代リーダーの育成」がトップとなっている。これは2018年度の調査でも同様であり、企業経営の大きな課題といえるだろう。
この激変時代を乗り切るために、適切な企業トップの舵取りが重要であり、それを担う次世代トップマネジメントの育成が大きな課題となっている。
【後編】激変時代に求められるトップマネジメントの要件と育成方法とは
拡大するトップマネジメントの責務、日本の次世代リーダー育成は遅れている
加速するグローバル化、先端技術の進歩、少子高齢化による人手不足、ワークスタイルの多様化、SDGs(持続可能な開発目標)という世界的ムーブメントの発生……。近年、ビジネスを取り巻く環境は刻一刻と、かつ劇的に変化し続けている。次に何が起こるのか、もはや誰にも読めない。未来を予見することは困難な時代だ。令和時代においては、事業の継続も難しい。経済産業省の[平成30年企業活動基本調査確報-平成29年度実績-]によると、日本の企業数は前年度比で1.9%の減少。情報通信業では3%減(特にインターネット附随サービス業は9%も減)、電子部品製造も4%減など、好調と思われている産業においても先行きは不透明である。
今後も、時流の読み違い、先端技術への知識不足、課題解決力および対応スピードの欠如などは継続的な企業経営において致命傷になりかねない。トップマネジメントの役割と責務は、かつてないほど大きくなっている。
次期トップマネジメント候補は社内育成が潮流
窮地を脱するべく外部から優秀な経営者を迎え入れる企業や、その要請に応えて複数の企業を渡り歩く“経営のプロ”も存在する。プロ経営者の先駆けともいわれる樋口泰行氏(日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、マイクロソフト、パナソニック)や原田泳幸氏(アップル、マクドナルド、ベネッセ、ゴンチャジャパンなど)、ハロルド・ジョージ・メイ氏(サンスター、日本コカ・コーラ、タカラトミー、新日本プロレスなど)らが代表例だ。だが現実的には、こうした“経営のプロ”にタイミングよく巡り合えるケースなど稀であり、本来は、自社の事業内容に精通した社内の優秀人材を、戦略的かつ効率的にトップマネジメントへと育てていくことが第一義であるだろう。
外部人材をCEOなどとして招き入れることが一般的なアメリカでも、その風向きは変わり始めている。
2019年10月、米ラスベガスで第22回目となる『HR Technology Conference & Expo』が開催された。HRテックに関するこの世界最大級のイベントでは、「従業員が何をどんな風に体験していくか=エンプロイー・エクスペリエンス」が重要なテーマとなっていた。自社内で体験できることに価値があれば、モチベーション、エンゲージメント、パフォーマンスは上がる、というわけだ。HR界の世界的権威であるJosh Bersin氏も、その“価値ある体験”を増やすには「内部登用と育成が重要」と自身の講演で強調している。
事実アメリカでは、工場勤務からゼネラル・モーターズ社ひと筋で働き、同社初の女性CEOにまで登り詰めたメアリー・バーラ氏や、転職組ではあるが米マイクロソフト内で20年以上もキャリアを積み上げてきた同社CEOのサティア・ナデラ氏ら、自社内で職位を上げ、やがて経営を担うことになった人物が脚光を浴びている。
日本のトップマネジメントの育成に遅れ
一方日本では、将来のトップマネジメント候補を社内で育てる計画的な取り組み、いわゆる「サクセッション・プラン」が欧米に比べて遅れていることが指摘されている。2018年、経済産業省のCGS(コーポレート・ガバナンス・システム)研究会が発表した[CGSガイドラインのフォローアップについて]を見てみよう。このリポート(東証1部・2部上場企業に対するアンケート結果)によると、取締役会での議論が不足しているものとして「社長・CEOの後継者計画・監督」をあげた企業は51%にのぼる。サクセッション・プランが存在しない企業48%に対し、明文化しているのはわずか11%。なぜサクセッション・プランを作成しないのか、という問いに対する最多回答は「後継者については社長・CEO等経営陣の意向が尊重されるため」だ。
同リポートでは「社長・CEOの後継者の指名については、現在の社長・CEOの専権事項という意識が根強い」と危機感を募らせ、経済産業省も[企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン]の中で「多くのグローバル企業は、経営リーダー人材の育成に早くから取り組んでおり、一般的な日本企業よりも先を進んでいる」と、計画性・妥当性のない日本企業の後継者選びに警鐘を鳴らしているのである。
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