ただ、メディアを通じて大学名を目にすることは多くても、実際に卒業生に出会うことは少ないのではないでしょうか。それもそのはず、1953年に建学されて以来60数年の歴史を持つICUの卒業生総数は2万8,000人。2018年度の卒業生は、学部589人、大学院57人と極めて少ないのです。
少人数ながら、高い評価を得ているICU。今回は東京都三鷹市にある広大なキャンパスを訪ね、教育方針、学生の特徴、キャリア指導について、就職相談グループ長の白石俊哉氏にお話を伺いました。
ゲスト
白石俊哉 氏
国際基督教大学
1965年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部(人間科学専攻)卒業。1989年国際基督教大学に入職。人事部、学生サービス部(学生グループ)、広報部などを経て、2012年より就職相談グループにて勤務。学生の進路選択・キャリア形成支援、企業とのネットワークづくりなどに従事する。国家資格キャリアコンサルタント。日本キャリア開発協会認定CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー。日本学生相談学会正会員。
学生サービス部
就職相談グループ長
学部は教養学部のみ
ICUは戦後間もない1953年、キリスト教の精神に基づいて「国際的社会人としての教養をもって、神と人とに奉仕する有為の人材を養成し、恒久平和の確立に資する」ことを掲げて誕生しました。開学以来リベラルアーツ教育を実践し、他大学には見られない柔軟なカリキュラムが特徴です。例えば、多く大学では法学部、経済学部、工学部などが独立して存在していますが、本学に設置されているのは教養学部1学部のみです。そしてその下に31のメジャー(専修分野)が置かれています。
また、入学時に専攻を決める必要はありません。1-2年次は文理の枠を超えて幅広い学問分野から興味を持った科目を履修し、2年次の終わりまでに最も関心が高いメジャーを選択するのです。メジャーの選択にも3つのパターンがあり、SINGLE MAJOR(メジャーが1つ)、DOUBLE MAJOR(メジャーが2つ)、MAJOR+MINOR(2つのメジャーの比率を変えて履修)から選ぶことが出来ます。
世の中では「何がやりたいのかわからない」と悩む学生が多いと聞きますが、ICUの学生に多いのは、「あれもやりたい、これもやりたい」という学生です。実際に、入学後に様々な分野を学んでから、メジャーを選択できる制度があっているのかもしれません。
柔軟なカリキュラムの組み立てを実現する3学期制
学期は、4~6月(春)、9~11月(秋)、12~3月(冬)の3学期に分けられ、各学期内で1つの科目が完結するようになっています。そのため、学生は年3回、4年間では12回、履修科目を選択する機会があり、学ぶ過程で変化する興味・関心に合わせて自身のカリキュラムを組み立てることが可能です。他大学では通年や半期で週1回90分の授業を行うところが多いかと思いますが、ICUの授業は週3回70分が基本で、1つの科目を週210分学ぶことになります。月・水・金と1日1コマ、週3回行なわれるものや、演習や実験などを行う科目は、同じ日に3コマ続けて行われるものもあります。
また、さまざまな学生を受け入れるため、入学は4月と9月、卒業は3月と6月のそれぞれ年2回ずつあるのも特徴の一つです。
日英バイリンガル教育と卓越した語学プログラム
ICUといえば「帰国生」「語学力」などの言葉を連想される方が多いと思います。確かにキャンパス内にいるかぎり英語が通じないということはなく、専任教員3人の1人、学生の10人に1人は外国籍です。そのために日英バイリンガル教育を重視しており、授業の30%超が英語で開講されています。主に日本語を母語とする学生が履修する、英語で学ぶ力を養うためにELA(リベラルアーツ英語プログラム)、日本語を母語としない学生や、日本語は母語でも高校までを海外の学校などで学んできた学生のために、日本語で学ぶ力の養成のためにJLP(日本語教育プログラム)を開講しています。
ICU図書館の学生一人当たりの平均年間貸し出し数が41.0冊(全国平均の約5倍)で全国トップなのは、この授業形態が大きく関係しています。関連文献を数多く読み込まなければ、授業でまともに発言できないのです。
このような教育を受けて、学生たちは幅広い視野を持ち、複雑な事象を解決する発想力を持つ人材へと育っていきます。
就職先と就職支援イベント
卒業生の進路は、就職者が70%、進学者が20%、その他の資格取得準備や海外大学院の選考結果待ちなどが10%です。就職希望者数に対する就職者数(就職率)は約95%です。就職先は他業種に渡りますが、専門・技術サービス業、情報通信業、製造業が多く、その他に総合商社、金融、教育、マスコミなどがあります。特に近年目立つのはコンサルティング会社、とくに外資系コンサルティングファームです。就職相談グループは主に就職を希望する学生向けのイベントを開催しています。テーマによっては学生の参加率は非常に高く、4月に開催した「インターンからはじめる就職活動」は400人が参加しました。ICUの学生数は1学年600名弱なのでかなりの参加率でした。また、全員が対象のイベントだけでなく、6月卒業生向けの就職ガイダンスなど対象範囲を絞ったイベントも多々開催しています。
就職支援のセミナーやガイダンスを授業時間に実施しないこともICUの特色です。開催時間は3つのタイプがあり、1つは昼休みです。ただし60分しかなく、学生はランチを食べながら参加します。2つ目は夜です。授業は7時までなので、7時10分から8時40分までの90分行います。3つ目は土曜日の午後です。時間を要する内容のセミナーを1時から4時までの3時間で開催しています。
学内合同企業研究会「ICU Placement Week」への参加機関は110社
就職支援イベントで最も規模が大きいのが「ICU Placement Week」です。秋学期と冬学期の間の授業がない秋休み(11月末)に行われる、いわゆる学内合同企業研究会です。期間5日間、官公庁・団体を含む110機関をお招きして実施します。公募しておらずICUからお声がけをし、参加していただいています。110機関は固定しておらず、毎年10数社程度の入れ替えを行っています。入れ替えの際には業界のバランスを考慮して決めています。企業規模にかかわらず、中小・ベンチャー企業にも幅広くお声がけしています。
信頼関係を築くために、企業とは積極的に情報交換したい
本学学生の採用をお考えの企業はぜひご連絡ください。日程調整が可能な限りは、お話を伺い、本学のご説明もさせていただきたいと考えています。ただ、単なる名刺交換に終わらせないために、いくつかの情報は事前にご準備ください。例えば、選考スケジュール、インターンシップの有無、そしてICUに親和性を感じるポイントなどをご教示ください。最後に学生の就職支援を行う立場から、企業へのお願いがあります。採用選考において学生を悩ませる行為はご遠慮いただきたいのです。例えば、オワハラ、サイレントお祈り、後付け推薦などです。内定を出した学生に対して就職活動を終わるよう求めるのに、内定を出さなかった学生に対しては一言の連絡もせずに放置する。内定後に大学からの推薦状を要求し、その後の就職活動を制限する。私たちのもとには、対応に苦慮する学生たちの声がよく届きます。こうした行為が続けば、大学と企業の信頼関係に支障を来すことでしょう。私たちは信頼できる企業に学生を送りだしたいと願っております。採用担当の皆様には、初めての進路選択に臨む学生の不安に配慮しつつ、ご対応いただければと思います。
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