そんなことを考えていた折、先日、映画『シン・ゴジラ」を観ていたら、内容的にちょうど今の日本の新卒採用とメンバーシップ型雇用のメリットとデメリットが、そのまま反映されているように感じ、思わずのめり込んでしまいました。まだ観ていない方にとっては、多少のネタバレになってしまうのですが、ご紹介させていただきます。
最初にゴジラが出現した際、前例のない状況だということで、日本政府は大混乱に陥ります。そこでは、既成概念に当てはめて強引にものを見ようとしたり、忖度しない主人公の物言いに上司が諭したりなど、さまざまな人間模様が繰り広げられます。また、ゴジラに対し武器攻撃を仕掛けるという決断を総理大臣が躊躇したことによって、さらに甚大な被害を出すことになってしまうなど、未確認巨大生物の出現という大きな危機に直面し、右往左往する日本政府の姿が皮肉たっぷりに描かれています。
この姿はまさに今の、激しい外的環境変化の対応しきれない日本企業と重なるように感じました。21世紀に入り、劇的な環境変化の中で、日本はどうしても既存の思考や行動パターンに囚われてしまい、GAFAをはじめとするグローバルIT企業に立ち遅れてしまう。決められたことをきちんと組織的に動かすことについては有効に機能するのですが、想定外の状況に対応する力が極めて弱く、スピード感を持った対応ができずにいるのです。
ちなみに、いったん海中に姿を消したゴジラに対する防御対策は、一度対応したことのある事例ということで、極めて整然と機能的に整備され、再びゴジラが再上陸した際には、万全の対策で迎え撃つ体制が構築できています。(しかし残念ながらゴジラの進化が想定を超えていたため、攻撃が通用せずに終わってしまうのですが。)
後半、ゴジラの首都圏侵攻によって避難途中の政府首脳の乗るヘリが撃墜されてしまい、その結果、年功序列と派閥の均衡で大臣になった人物が総理大臣となります。おまけに、それを支えるスタッフも、上がいなくなってしまったが故の抜擢人事。図らずも急に政府の中枢を担うことになった若手が、ゴジラと対峙することになります。
若手たちは、関東圏を巻き添えにした熱核攻撃を推進しようとする国連をはじめとする欧米諸国とのネゴシエーションを綱渡りでこなしつつ、ゴジラが活動を停止している少しの間を利用して冷却作戦を決行。そしてそれを見事に成功させたところで、エンディングを迎えます。
映画終盤で、「この国は何度ダメージを受けてもその都度蘇ることができる。僕がいなくなってもその次に国家を担える人材がそろっているのがこの国の強みだ」といった主人公のセリフがあります。
これはまさしくメンバーシップ型雇用の強みを示しているのではないでしょうか?欠員が出ても組織内の人員移動でそれを補うことができるだけでなく、常にそうした次の世代を担う人材が育つような風土と文化を組織に持ち得ていることが、まさしく日本型雇用の強みと言えるのではないでしょうか?
こうして整理してみると、今の日本型雇用を全面的に否定する必要はないのではと思います。全面的に否定してしまっては、日本企業独自の良さが失われてしまいます。中小企業では特に、新卒一括採用も含めて維持すべき部分が多いと思うのですが、いかがでしょうか?
一方で、グローバルな人材獲得競争の中にあっては、確かに賃金水準も含め、競争力がなくなっているのは事実です。ですから、グローバルエリート職のような募集枠を広げていくのが得策なのかもしれません。それでも環境変化に対する組織としての対応力を上げるにはどうするか、という課題は積み残されるのですが、これは新卒一括採用をどうするかというより、経営層の人材の流動化などで論ずべき問題のように思います。
入社後の育成も含め、まだまだ課題は多いかもしれませんが、私見としては、現状の仕組みを否定するのではなく、アドオンするような制度設計のほうが良いように感じております。
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