景気が良くても悪くても3 年で3 割の新人が辞める
とはいえ、当然ながら人数はぎりぎりに絞り込むだろう。プラス思考をするならば、こうした時期の採用は上質の人材をそろえやすい。肝心なのは、せっかく採用した人材を早期に辞めさせることなく、きちんと育て上げることだ。いわゆる「3 年3 割」といわれる大卒新人の離職率は過去10年以上にわたって続いており、景気の良し悪しにほとんど左右されない。今後も同じ水準で推移していくと見てよい。一方には「早く辞めてくれて大いにけっこう」というレベルの若者たちもいるが、他方には「早く辞められては大いに困る」というレベルの若者たちもいる。後者の流出をどう防ぐかが人事部門の喫緊の課題といってよい。
仮に従業員1,000人規模のメーカーで考えるなら、 1 年で辞められることは約600万円の損失に当たる。給与と福利厚生で350万、採用コスト100万、OJTのロス分が100万、研修関連で50万という内訳だ。それが3 年目になると、1,700万円に達する。追加の給与分が2年で800万、退職に伴う中途採用者補充の費用が200万、追加のOJTロス分(労力と時間の損失)が100万などである。
「だから教育には非常に力を入れている」と人事関係者は声をそろえるだろう。問題は、現場との温度差である。現場とは、新人が研修の後に配属されるそれぞれの部署のことだ。
昨年の春、筆者は入社2 年目の社員を対象に次のようなアンケートを実施した。
A. 上司との関係はうまくいっていますか。
B. うまくいっていない場合、どんなところに不満を感じていますか。
サンプル数は5 社で約200人。この5 社の1 年目離職率は平均3%と低い。それでもAでは、40%近くの若者が「うまくいっていない」「あまりうまくいっていない」と答えた。そして、Bについては別表のような結果となった。
先輩・上司は「おせっかい」になれ
上司との関係が、どの程度のレベルで「うまくいっていない」「あまりうまくいっていない」のかは、この調査では分からない。興味深いのは、不満を感じていると答えた具体的な中身である。
1 位と2 位に挙げられている「指示・命令の内容」や「仕事の手順・方法」は、上司が部下に伝える最も基本的な事柄だ。相手が新人であれば、どんな上司でも、できるだけ分かりやすく伝えるよう配慮しているに違いない。それでもこの数字なのである。
現代の職場の状況は、一口で言えば「タコツボ症候群」である。一人ひとりがパーテーションの内側に潜み、人と関わろうとしない風潮が広がっている。それは若い世代だけに限らない。上司や先輩などベテラン組を含めて、おおむね該当する風潮なのだ。行き過ぎた成果主義の後遺症だとか、もはや社会一般の通弊なのだとか、いろいろ分析はできるだろうが、肝心なのは「どう対処するか」である。
そう思って、筆者がこれまで足を踏み入れた多くの企業を思い起こすと、ひとつ明らかに指摘できることがある。元気な職場、活性化している職場では、人と人との関わりが概して濃密なのだ。
トップが新人に毎月手紙を送っている、元気がない者がいると聞くとすぐに先輩が飛んでくる、オフサイト・ミーティングが盛ん、職場内に小さな表彰制度がある、などなど。そういう職場では、面倒見がよいのは当然として、おせっかいなくらいに人が人に関わろうとする傾向が見られる。「承認」や「リスペクト」と言うより、単純に「おせっかい」としたほうが、分かりやすいかもしれない。
「おせっかい」と言われるのを厭わず部下に関わろうとする上司、自分の部下ではなくとも声をかけ、助言を惜しまぬ先輩。そういう風土を作ることが「不機嫌な職場」ならぬ「ご機嫌な職場」を実現する始めの一歩となるのではないか。だとすれば、より重要になるのは新人の教育よりも上司や先輩たちの教育といえそうだ。
前にも引用したことのある城山三郎氏の言葉で締めくくりたい。「新入社員を迎えるたびに、しゃんとしなければならないのは、古参社員の方である。新人の初心を前に、粛然と姿勢を正すべきである。新入社員教育は、新入社員の入社ごとに、古参社員が受けるべきである」(『猛烈社員を排す』文春文庫)
(2010.12.27掲載)
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