●他者からは「業務支援」「内省支援」「精神的支援」を得ることができる。
●この3つの中で特に重要なものは「内省支援」である。いくら良質の経験をしても、上手くいった要因や失敗した要因を振り返らなければ、経験を自分の力に変えることはできない。
●しかし、若手であるほど、自分で立ち止まって振り返ることが難しい。誰かが無理やりにでも立ち止まり、一緒に振り返ってあげなければならない。
前編では、こうしたことを説明しました。そして、こうした調査結果を踏まえて指摘したことは、軸足の置き方についてです。北村に対する和田マネジャーの育成方法の軸足を、業務支援から内省支援に転じるべきだと述べました。
しかし、業務支援に比べると、内省支援ははるかに難しいものです。どうすれば上手くできるのでしょうか。調査結果をもとに、後編では効果的な内省支援方法を考えます。
前編はこちらから
ケース(後編)
和田は北村への接し方を変えた。教えることは続けながらも、一緒に振り返る時間をできるだけ多くするようにした。自分で気づく力、自分で考える力を身につけてもらうためである。失敗に対してはまずかったところを伝えるのではなく、なぜ失敗したのかを一緒に考えるようにした。詰問にならないように十分気をつけた。失敗だけ取り上げると滅入ってしまうかもしれないので、上手くいった事例も取り上げて、何が良かったのかも話し合うようにした。
しかし、北村はなかなか気づいてくれない。和田は、「なんで分からないんだ」と声を荒げそうになることも度々あった。
北村もかなり参っているようである。和田が何を考えているのかは、北村には分からないようだった。弱音を吐きたいこともあろうが、上司の和田や大先輩の元木に愚痴を言うこともできないし、年下の岡田に知られるのも恥ずかしい。北村の表情から、そう感じられることがしばしばあった。
ところで、和田の業務は北村の育成だけではない。岡田の育成もある。それだけではなく、自分自身もプレイングマネジャーとしていくつかの製品の生産管理を担当している。営業に同行して顧客企業に行くことも多い。さらには、安全衛生委員会のリーダー業務にもかなりの時間を費やしている。会社からは、コンプライアンスの遵守、セクハラやパワハラ防止の徹底という名の下に、様々な提出物を求められる。すべてがマネジャーの和田の肩にのしかかってくる。北村も参っているが、和田の方が先につぶれてしまうかもしれない。
和田のやり方には、どんな問題があるのか。どのような育成スタンスに変えればよいのだろうか。
職場における360度の関係性の大切さ
「業務支援」「内省支援」「精神的支援」は、それぞれ誰がもたらしてくれるのでしょうか。その分析結果を整理したものが図4です。それでは、精神的支援は誰から得られるかというと、同期や同僚でした。共同研究者の松尾先生に聞いた話を紹介します。松尾先生はめずらしい調査をしています。過酷な職場の人へのインタビュー調査をしているのです。具体的には看護師さんです。夜勤もある上に、急患などで時間も不規則になり、また人の死に目に立ち会うこともある。そのような職場で働いている看護師さんに、「こんなに大変なのに、なんで仕事を続けているのですか」と聞いて回ったところ、最も多かった答えが、「同僚も頑張っているから」だったそうです。同僚の存在自体が、心の支えになっていたのです。
話を戻します。図4の中でまだ触れていない他者が、部下・後輩です。上司や先輩、同期・同僚に比べると、3つの支援の程度はあまり高くありませんでした。しかし、1つだけ引けをとらないものがありました。内省支援です。その理由を知るためにインタビュー調査をしたところ、以下の3つの答えが多くあがりました。
「組織に染まっていない部下・後輩の率直な意見がとても参考になった。」
「部下・後輩を指導して始めて、自分の能力があることやないことに気づいた。」
「部下・後輩を指導して初めて、上司の気持ちが理解できた。」
このように、若手・中堅社員は職場内の360度の関係性の中で成長していきます。昔であれば、放っておいても職場の中で成長できたのでしょう。なぜならば、360度の関係性がセットされていたからです。しかし、今は違います。採用削減のあおりで部下がいなかったり、フラット化によってメンバーが同列になったりと。つまり、誰かが介入しなければ、職場の中で成長しにくくなっているのが現状なのです。