ProFuture代表の寺澤です。
8月30日、経団連は2018年卒の新卒採用のスケジュール(指針)について、今年と同じ「3月1日 採用広報解禁(説明会解禁)、6月1日 採用面接解禁」とする方針を固めました。正式決定は今月12日に行われる予定とのこと。サマーインターンシップも真っ盛りの時期になってようやくといったところですが、ここまで発表が遅れれば、もはや日程変更はないだろうという読みを関係者はしていましたので、特に混乱はなかったかと思います。
8月30日、経団連は2018年卒の新卒採用のスケジュール(指針)について、今年と同じ「3月1日 採用広報解禁(説明会解禁)、6月1日 採用面接解禁」とする方針を固めました。正式決定は今月12日に行われる予定とのこと。サマーインターンシップも真っ盛りの時期になってようやくといったところですが、ここまで発表が遅れれば、もはや日程変更はないだろうという読みを関係者はしていましたので、特に混乱はなかったかと思います。
留学生の帰国時期とのずれや、大手企業の選考時期と教育実習の時期が重なるなど、今年のスケジュールに課題がなかったわけではありませんが、2年連続してスケジュールを変更したことで、学生、企業、大学に混乱を来したことを考えると、今年の再度の見直しは諦めたというところでしょう。もともと解禁日の6月以降に18卒以降のスケジュールを検討するとしていましたので、最初から出来レースだったといえなくもなさそうですが。
採用広報解禁前倒し論も
今年、採用担当者や就職情報会社ら関係者の間でささやかれていたのが、「3月1日 採用広報解禁」の前倒し論です。具体的には、「3月1日」を「2月15日」にしたらどうかというものです。「15日」とは月半ばの中途半端な日程ではありますが、それには訳があります。もともと「3月1日 採用広報解禁」を決める過程でも「2月15日 採用広報解禁」案は出ていたようです。「2月1日」としなかったのは、国公立大学の後期試験日程を考慮してのものです。私立大学では1月末に後期試験が終了する例がほとんどですが、国公立大学では2月10日過ぎまでを後期試験日程としている大学のほうが圧倒的に多くなっているためです。当時は、結果的に「2月15日」よりもきりのいい「3月1日」が採択されたわけですが、ここへきて春休みをより有効活用できるよう、国公立大学の後期試験の終了を待って、就活解禁にしたらどうかという考え方が強まったようです。
採用選考解禁が前年の「8月1日」から「6月1日」へ2カ月前倒しとなったことで、採用広報期間(会社説明会やセミナーに参加する期間)が短期化され、学生の業界・企業研究不足や、説明会参加企業数の減少が指摘されています。かといって「6月1日」を遅らせることには抵抗が強くなっています。7月には前期試験があり、さらに「8月1日 採用選考解禁」が就職活動の長期化を招いたとの批判が強い中、少しでも後倒しすることは2カ月間の前倒しに逆行することになるからです。残された道は、採用広報解禁日のほうを前倒ししようという考えです。
ただ、2018年卒採用だけに限っていえば、「2月15日 採用広報解禁」への変更は現実的ではありませんでした。就職情報会社の2018年卒向け就職ナビの正式オープン日や、合同企業説明会の会場予約はすべて「3月1日 採用広報解禁」を前提に進められていますし、各企業の個別説明会・セミナーの会場予約や、大学内での企業説明会のスケジュール調整も同様だからです。そういう意味では、2019年卒向けのスケジュール案として、再び日の目を見る可能性はありそうです。
「12月 採用広報解禁、4月 採用選考解禁」復活論も
2019年卒採用に向けての見直しは、「2月15日 採用広報解禁、6月1日 採用面接解禁」を軸に行われるのでしょうか? 経団連は、歴史のあるメーカーの割合が多く、歴代会長も第7代の平岩外四氏(東京電力会長)を除きメーカー出身者が就任しています。そのため、発言力の点でもメーカーのほうが強い団体という特徴を持っています。そうなると、キーワードは「理系採用」ということになります。理系学生の採用、さらには育成までを考慮したスケジュールを望んでいると考えられます。かつて長らくあった「就職協定」では、「対象は文系学生であって、理系学生はこの限りでない」という考え方が不文律になっていました。推薦制度での就職割合が多かったことも大きいのですが、卒業研究のことを考慮すると文系学生と同じように夏や秋に就職活動で時間を割かれることは論外という考え方が支配していたのです。しかし理系学生が、メーカーだけでなく、金融、商社、情報など幅広い業界にどんどん就職するようになると、推薦制度を利用した就職活動から、文系学生と同様に、自由応募での就職活動が行われるようになりました。そうなると、もはや理系学生と文系学生を分けて考えることは難しく、2015年卒採用まで続いた「倫理憲章」や、2016年卒採用からの「指針」では、理系学生も対象であることが明記されています(ただし、大学院博士課程は対象外)。
では、経団連が考えるもう一つのスケジュールとはどんなものでしょうか。それは、理系学生ができる限り早く就職活動を終えて研究活動に没頭できるスケジュール、すなわち2015年卒採用までのルールだった「12月1日 採用広報解禁、4月1日 採用選考解禁」です。もともと経団連はこのスケジュールを最良と考えており、「3月1日 採用広報解禁、8月1日 採用選考解禁」とした2016年卒採用の「指針」は、あくまでも政府(安倍首相)に押し切られて、仕方なく変更したという思いが強いのです。だからこそ、それまで使用していた「倫理憲章」という呼称を止めて「指針」という名称に変更し、代表者の署名による賛同を募ることも止めてしまったわけです。
経団連加盟企業の多くは、理系学生には早く就職活動を終えて、研究活動に没頭してほしいと思っているのです。最終学年の卒業研究での試行錯誤の繰り返しや、学会での論文発表などを経て、理系学生はエンジニアとして大きく成長します。しかし、就職活動の長期化は、そうしたことにかける時間を邪魔している以外の何物でもありません。
学生が望むのはさらなる早期化
HR総研が、2017年卒業予定の学生を対象に6月末に実施した就職活動動向調査の中で、「就職スケジュールはどうあるべきだと思うか」を択一式で聞いたところ、意外な結果が得られたので紹介しましょう[図表]。
文系と理系ではほぼ同様な傾向値になっていますので、ここでは文系のデータを見てみます。今年の指針のスケジュールである「3月 採用広報解禁、6月 採用選考解禁」(21%)や、倫理憲章時代の「12月 採用広報解禁、4月 採用選考解禁」(15%)を推す声も多かったのですが、それよりも多かったのが「12月 採用広報解禁、3月 採用選考解禁」です。回答者の24%と、実に4人に1人が選択しているのです。これは従来にはない組み合わせのスケジュールです。
もともと企業側が「4月1日 採用選考解禁」としたのは、2003年に発表された最初の「倫理憲章」からです。当時、3年生の2~3月での選考活動が横行したために、「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」「大学4年生になる4月1日以前の選考は行わない」と明記されたところに端を発します。しかし、近年の就職活動が実質的には、3年生の夏に開催されるサマーインターンシップへの応募・参加から始まっていることを考えれば、選考開始時期を遅らせることはやみくもに「長期化」を招くだけです。
2016年卒採用のスケジュールを「8月1日 採用選考解禁」にした際の政府の言い分は「学生の学業への専念期間を確保する」ことでした。それを考えれば、春休み期間中に選考までを終えてしまい、4月からは授業、ゼミ、研究など本来の学業に専念できるとすれば、政府の思惑とも合致することになります。留学生の帰国時期とはずれるため、別枠での採用を企業に呼びかけることは依然として必要にはなりますが、教育実習期間とは明らかにずれるため、今年問題となった課題の一つはクリアになります。
経団連の考えるスケジュールよりも、学生の案のほうがよさそうな気もしませんか? 今後、2019年卒採用に向けてのスケジュール見直し論議が本格化する中、この学生の声もぜひ一案として検討していただきたいものです。
もともと企業側が「4月1日 採用選考解禁」としたのは、2003年に発表された最初の「倫理憲章」からです。当時、3年生の2~3月での選考活動が横行したために、「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」「大学4年生になる4月1日以前の選考は行わない」と明記されたところに端を発します。しかし、近年の就職活動が実質的には、3年生の夏に開催されるサマーインターンシップへの応募・参加から始まっていることを考えれば、選考開始時期を遅らせることはやみくもに「長期化」を招くだけです。
2016年卒採用のスケジュールを「8月1日 採用選考解禁」にした際の政府の言い分は「学生の学業への専念期間を確保する」ことでした。それを考えれば、春休み期間中に選考までを終えてしまい、4月からは授業、ゼミ、研究など本来の学業に専念できるとすれば、政府の思惑とも合致することになります。留学生の帰国時期とはずれるため、別枠での採用を企業に呼びかけることは依然として必要にはなりますが、教育実習期間とは明らかにずれるため、今年問題となった課題の一つはクリアになります。
経団連の考えるスケジュールよりも、学生の案のほうがよさそうな気もしませんか? 今後、2019年卒採用に向けてのスケジュール見直し論議が本格化する中、この学生の声もぜひ一案として検討していただきたいものです。
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