定量分析の代表的な手法を用いると何がわかるか
それでは定量分析とはどういうもので、何がわかるのか、代表的な手法をいくつかご紹介したい。使うのは過去6期分ほどのPLデータと、社員の基本的な属性や給与賞与といったデータで、これだけでかなりいろいろなことがわかる。まず、人件費については、人件費の変動費化ということが最近、重要だといわれるテーマだ。要は、業績が上がったときは当然人件費も増えるが、業績が下がったとき、その期のうちに人件費が下がっているか。業績に合わせて総人件費がコントロールされている状態を確保することが、経営や株主側からの要請になっている。これは、会社の売上と人件費の増減率を過去6期分ほど取ってグラフ化すれば一目でわかる。また、賃金水準については、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を見れば業種・企業規模・職階・年齢別の月給や賞与のデータが手に入るので、自分の会社の給料が高いか安いかが、感覚値ではなく客観的な数値としてわかる。最近は労働市場が非常に動いている状況だ。もしも自己都合退職率が高い会社があれば、自分たちの会社の賃金水準が業界内で高いか低いかを毎年調べる必要があるだろう。そうすると、賃金面から見た離職リスクを定量的に判断できる。
人事制度については、年収配分妥当性診断というものがある。会社のなかで優秀な人の年収はもっと上げ、そうでない人は下げてメリハリをつけよう、それが成果主義、実力主義だということがよくいわれるが、そのメリハリが適正に機能しているかどうかを定量的に分析する手法だ。一般的には、メリハリといっても「これぐらいだろう」という感覚で上げ下げする会社が多いのが実態で、これは「社内的メリハリ」だ。一方、定量分析の考え方は合理的でわかりやすい。業績が平均的か高いか低いかによって社内の人材をアベレージパフォーマー、ハイパフォーマー、ローパフォーマーに分けたとき、労働市場に流出しては困るアベレージパフォーマーとハイパフォーマーは労働市場の平均より高くなっているか、ローパフォーマーは平均より低くなっているか。そういうコントロールがきいていて「労働市場的メリハリ」がついているかどうかを、この診断を行えば分析できる。労働市場的メリハリは、最近、大変重要視されるようになっている。
さらに、きわめて重要な分析が人員構成や人件費の将来予測だ。たとえば、日本企業の人員構成は40代、50代が多く、20代、30代が少ないパターンが圧倒的に多いが、5年後、10年後、15年後に会社がどういう人員構成になっているかをシミュレーションすることで、将来起こるだろうと思われる問題を先取りして見ることができる。この分析は、ぜひ多くの企業にやっていただきたいと思う。