ANAの先輩は、自分自身も「教わる」
環境の変化が激しくなっている今、どんなに経験を積んだ先輩でも、自分が経験したことがすべてとは限らない。他の人の持つ情報やノウハウを学ぶ姿勢をもつことによって、新入社員や後輩だけではなく、上司や先輩も含めて成長していくという。ANAでは、安全品質・サービス品質を維持するために、上下関係の風通しを良くするための「アサーション」が行われている。アサーションとは、より良い人間関係を築くための、自分も相手も大切にした表現方法、コミュニケーション方法のことだ。
組織の中では、上司と部下など、上下関係が必ず出てくる。部下や後輩は、上司や先輩に言いたいことがあってもなかなか言いづらいもの。そのため、上司や先輩のほうから「気づいたことがあったら何でも言ってね」とお願いすることから始めなければならない。
ANAビジネスソリューション株式会社 ヒューマンエラー対策講師 宮崎志郎氏によると、そのときに重要なのが、部下や後輩が言ってくれたことに対して感謝することであるという。「後輩が勇気を出して言ってくれたことに対して、上司や先輩が『そんなことはわかっている』という態度を取れば、その後輩は何かを感じても二度と言わなくなります。そうすると、先輩と後輩の間で会話がなくなり、技術も伝承されなくなってしまいます。だから『言ってくれてありがとう』と言うことからはじめ、このサイクルをまわしているところです」と語った。
最後に、セミナー全般のナビゲーターであるANAビジネスソリューション株式会社 研修事業部 石山由美香氏が「この本に書いてあることをやったから、人がすぐ動くものでも育つものでもありません。しかし、人を大切にしたり、一緒に成長しようとする気持ちや信頼関係を作っていけば、人を育てるということはそんなに難しくないと思っていただけるのではないでしょうか。この本やセミナーがみなさんの仕事や人材育成への一助になってくれたら幸いです」と締めくくり、セミナーは終了した。
人財育成の方法は、企業によって千差万別であろう。しかし、人を育てるためにはまずその人と信頼関係を築いた上で、「どうせ無理だろう」と決めつけずにその人を信頼して仕事を任せてみることが必要ではないだろうか。「立場が人をつくる」という言葉があるように、今の自分よりひとつ上の立場で考え、行動することができるようになれば、人は一気に成長を遂げるのかもしれない。