今では約7割の企業が実施しており、ある意味「常識化」している入社前教育ですが、過去においては常識ではありませんでした。1980年代では「入社する4月1日まで悔いのないように遊べばいい」と話す人事担当者も多く、その趣旨は「入社したらみっちり鍛えるから遊ぶ暇はない。遊びは学生のうちに済ませておけ」というものだったと記憶しています。
入社前教育が常識化していく背景には、インターネットや携帯電話の普及が関係しています。1990年代末まで学生への連絡は郵便物が主流でしたし、すべての学生が携帯電話を持っていたわけでもありません。そういう時代の連絡は手間がかかり、即時性にも欠けていました。2000年代に入り、インターネットと携帯電話が普及すると、連絡が極めて簡単になりました。就職情報会社等が提供する内定者管理ツールの普及も大きいでしょう。内定者への一斉告知だけでなく、集合研修への参加の可否などもアンケート機能を利用すれば数日(早ければ即日)で把握することが可能です。かつては、「入社前教育=通信教育」の感もありましたが、現在は様変わりをしてきています。

メーカーと非メーカーで異なる実施状況

次に、入社前教育の実施方法について見てみましょう。こちらの結果は、企業規模による差異よりも、メーカー・非メーカーといった業種による差異のほうが大きくなっていましたので、グラフもメーカー・非メーカーでの比較にしています[図表2]。
第31回 内定者教育の状況について
グラフは、メーカー・非メーカーを合計した「全体」の集計結果を降順に並べたものです。全体を見て気付くのが、ほとんどの項目において非メーカーの実施率が高いことです。メーカー・非メーカーともに「集合研修」が最も実施率が高くなっていますが、非メーカーの実施率が63%なのに対して、メーカーは43%と20ポイントも低くなっています。次いで実施率の高い「課題・レポート提出」も、非メーカーの56%に対して、メーカーは37%にすぎません。
この差異の要因としては、冒頭の内定式の事例で挙げたデンソーと同様に「理系内定者への配慮」があります。理系内定者の比率が高いメーカーは、卒業研究等で忙しい理系学生の負担をできるだけ軽減すべく、集合研修等の実施を抑えているということになります。また、理系と文系では、入社後の業務もまったく異なり、同一の研修を実施しづらいという面もあるようです。
 ただし、一つだけメーカーのほうが実施率の高いものがあります。「通信教育」です。非メーカーの25%に対して、メーカーは40%と15ポイントも高くなっています。非メーカーにおける実施率では「集合研修」「課題・レポート提出」「職場見学・実習」に次ぐ4番目になりますが、メーカーでは「集合研修」に次ぐ2番目の実施率となっています。技術教育の側面ももちろんありますが、かつて入社前教育の主流であった「通信教育」をそのまま継続している旧態依然とした体質であることも影響しているのではないでしょうか。

 入社前教育の実施方法について、企業規模による差異はあまりないと前述しましたが、一つだけ企業規模によって大きく異なる項目があります。「eラーニング」です。「全体」の数値で見てみると、実施率は大企業26%、中堅企業15%、中小企業6%と、大企業と中小企業では20ポイントも差が出ています[図表3]。
第31回 内定者教育の状況について

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