「個の力」を伸ばすことが大切だと考えた。

特別講演「ジーコ流 チームワークとリーダーのマネジメント力」
●寺澤:サッカー日本代表監督時代のジーコさんのチーム作りについて。選手の自主性や信頼関係を重んじるスタイルが特徴的だった思うのですが、チーム作りはどのような考えで進めていかれたのでしょうか。

●ジーコ:選手の自主性や信頼関係を重んじることは私の哲学です。
監督がすべて決めて、監督が言うようにやらせる。そうすると選手は何も考えなくなります。自主性もなくなります。責任感も育まれません。それでは世界と肩を並べる基礎はできません。
ピッチで実際に戦うのは、ベンチに座っている監督ではありません。プレーする選手たちが自分自身に責任を持ち、役割をしっかりと果たさなければ、よい結果は得られません。「個性を出そうとしないのが日本の文化」なのかも知れませんが、それでは世界との戦いに勝てません。
確かに日本はチーム優先で、個人の力を出しにくいという雰囲気がありました。私はその考え方を変えて欲しいと思いました。サッカーはチームスポーツではあるけれど、最終的に勝負を決めるのは個人の力です。個人の技術、個人の気持ちの強さ、一対一での勝負に勝てる強さ。そのことは何度も言いました。選手の「個の力」を伸ばすことを日本サッカーの強化の手段とする。それは責任感、自覚、他者とのコミュニケーションを強調することで行う。ワールドカップで結果を残すことも大切だけれど、日本サッカーの将来を考えると「個の力」を伸ばすことを、いまこの時期にやらざるを得ないと思い、それが監督としてのビジョンでもありました。
選手一人ひとりから強い自主性や責任感を感じたのは、ワールドカップ最終予選の北朝鮮戦です。それは無観客試合でした。無観客にも関わらず、日本から3千人のサポーターが駆けつけ、ピッチの外で応援してくれていました。その声援と気持の熱さが伝わってきました。
私は選手たちに言いました。「今日は君たちのコンディションがどうあろうと、あの人たちのために全力を尽くそう。君たちには 試合を見られないにもかかわらず海外まで来てくれた、あの人達を感動させる責任がある」と伝えました。選手たちもそれに100%応えてくれ、「集中の極地」のような素晴らしい試合をしてくれました。そして北朝鮮に勝利し、1試合を残し世界一番乗りで、3大会連続でワールドカップ出場を決めることができました。
今日の日本代表は、非常にうまく行ってると思います。香川や本田のような個人技に優れた選手が多く存在し、香川らしいプレー、本田らしいプレーという自分の個性を出すことが、チームの勝利にもつながっているのは素晴らしいことです。

●寺澤:プレイングマネージャーや代表監督を務めたジーコさんに、リーダーシップについてお伺いしたいと思います。ジーコさんが理想に思うリーダーとはどのような姿なのでしょうか。

●ジーコ:上からの強制で組織を支配するのはリーダーシップではないと思います。強制ではなく、あくまでも自然なかたちで、一人ひとりが自分の力を出しやすい環境をつくれる人、成長を促す気づきを与えられる人、コミュニケーション能力や人を惹きつけるカリスマ性のある人がリーダーであり、そういう人には自然と人が集まり、誰もがリーダーと認めるのだと思います。リーダーとは自然発生的に生まれるものではないでしょうか。

サッカーを通して、少しでもいい環境を子供たちに。

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