巻き込み型リーダーシップの「コア+4つのドライバー」
実際に、中堅社員が「巻き込み型リーダーシップ」を発揮するためには、巻き込み力を身につけなければなりません。巻き込み力は上図のとおり、「コアとなるマインドセット+4つの能力」によって構成されます。まず、巻き込み力のコアになるのは、本人の「主体性」。すなわち、組織のミッション実現や課題解決に対して当事者意識を持ち、仕事を“自分事化”できるかどうか、ということです。中堅社員自身がそうした主体的なマインドセットに変わらなければ、「自分はこうしたい」という意思の軸を周囲に向けて打ち出すこともできません。
『そもそもいまの若い世代は主体性に欠ける』とよくいわれますが、必ずしもそうとは限りません。どうすれば、彼らが会社や仕事に“熱く”なるのか。むしろ、トレーニングや業務そのものを設計する担当者の手腕が問われているのです。
さらに、主体性のベースを醸成しながら、それを「巻き込み型リーダーシップ」という形で具現化し、実際の成果につなげるためには、以下の4つの能力やスキルを開発する必要があります。これらを1つのサイクルと捉え、現場の実践の中でくり返し回していくことが巻き込み力の向上につながるのです。
【意思発信力】
(1)仕事のミッション(使命)を語る
(2)目標を打ち出す
考えるとは、「問い」を発することです。ミッション、ビジョン、バリューを考えるためには、Howではなく「Why思考」で考えていきます。
・ミッション(使命)→「なぜ、何のため、誰のため」
・ビジョン(将来像)→「何を目指して」
・バリュー(価値観・行動規範)→「何を大事にして」
と、ひたすら「問い」を発するのです。そうすることによって、
・ミッション(使命)=命を使うこと
何のために働くのかという意義・意味・目的・理由
・ビジョン(将来像)=目に浮かぶ状態
1~3年後に自分がなっていたい状態、目指す姿
・バリュー(行動規範)=ぶれない行動
自分が働いていく上で守るべき価値観・行動規範
が明確になっていきます。
ここで大切なことは、
●ベースに実体験(成功・失敗)があり、感情が揺れ動いた経験があるか?
●頭で考えただけではなく、体験からくる熱い想いが言葉になっているか?
●第三者に対して、真剣に伝えたいと思えるか?
が明確になっているかどうかです。
リーダーシップの専門家で組織コンサルタントのサイモン・シネックが提唱するゴールデンサークル理論によれば、脳のいわゆる大脳辺縁系という部分は、本能や情動を司ると言われています。つまり、「Why」を語ることによって、人間の「情動」が突き動かされて本能的に行動し、周りの人の共感を得るような熱い想いを言葉にして、第三者に語れるようになるのです。
【問題発見・解決力】
(1)問題解決の当事者になる
(2)問題解決ステップを考える
(3)問題解決ストーリーを語る
組織問題に対する意識レベルも4つに分けることができます。
A傍観者 レベル:ふーん、そんな問題が起きているんだ、、、
B評論家 レベル: ○○が悪い、△△がダメ、、、
C日和見主義者 レベル:得か損か、、、
D当事者 レベル:自分がやらねば!
もちろん、真に組織のなかで真にリーダーシップを発揮するには、Aの傍観者からDの当事者のレベルにまで、意識レベルを引き上げる必要があります。
問題が発生してから解決する「発生型問題解決」では、突発的に発生したり、上位者から指示命令されたりして行う問題解決ですから、受動的・他責になりやすい傾向があります。自分で「あるべき姿」を設定して行う「設定型問題解決」のほうがより当事者意識を持って問題に取り組みます。
しかし、私たちの提唱する巻き込み型リーダーシップでは、それよりも上の段階として、「ビジョン指向型問題解決」を指向します。これは、長期的な視野から将来像を設定して、逆算で行う問題解決の考え方です。
そのためには、現在よりも問題解決の当事者として、視座を上げる必要があります。さらに、ミッション、ビジョン、バリューに基づいた「問題」「原因」「課題」を設定して、問題解決のステップを考えなければなりません。ここで言う「課題」とは、いくつかある複数の原因の中で、これをやれば原因そのものを絶つことができる「当事者としての取り組み」のことを指します。
(1)共感し合う関係になる(何を言っても否定されず尊重される心理的安全性の担保)
(2)上司を補佐・提言する(フォロワーシップの発揮)
(3)同僚・後輩の模範になる、指導する(モデリング、ティーチング、コーチング)
なぜ共感し合う関係になることが重要なのかといえば、MIT教授のダニエル・キムによる成功循環モデルがベースになっています。「関係の質」が「思考の質」に影響を及ぼし、「思考の質」が「行動の質」に、「行動の質」が「結果の質」に影響を与え、それが「関係の質」に戻るって成功へのサイクルが回るという、成功循環モデルです。
ここでは、聴く、傾聴するということも重要になってきます。メラビアンの法則にあるように、言語以上に、非言語が重要になります。話し手が聞き手に与える影響のなかで、言語は全体のなかのたったの7%。話し方が38%、過半数を占める55%は「身振り・手振り」で決まるという法則です。アイコンタクト、ジェスチャー、表情、声色、抑揚、姿勢といった非言語を通して、上司に対してはフォロワーシップを発揮する。後輩にはティーチング・コーチングを行うことを通して、関係性を構築していきます。
(1)メンタルタフネスを高める
(2)ポジティブに考える
実行継続力は、いわゆる研修の場で終わらせない仕掛けです。
具体的には、自分のプレーヤーとしての仕事のほかに、現場に戻っても「思考の拡充」「働きかけの拡充」を行っていく仕掛けを作ります。
●視野:社内→社外、自部門→他部門
同業→異業種、国内→海外
●視座:課長、部長、経営者
●視点:自分←他者・チーム・部門・全社・社会
●時間:現在←将来、短期→中期→長期
他者への働きかけでは、
●方向:上司→同僚→部下→関連部署→経営
社内→社外
●形態:会話→対話→議論
●深度:理解→共感→信頼
を現場実践していきます。