HR総合調査研究所は、全国の上場および未上場企業の人事担当者を対象に2012年11月5日~11月13日にeラーニングとソーシャル系サービスの利用実態をアンケート調査した。有効回答は291社(1001名以上64社、301~1000名96社、300名以下131社)。
 アンケート内容は3つに大別され、前半ではeラーニングについて質問し、後半ではソーシャルリクルーティングとソーシャルラーニングについて聞いた。eラーニングはインターネットの登場によって普及した学習法でこれまでにすでに実績がある。ソーシャルリクルーティングについては、新卒採用を中心に導入する企業が増えている。またソーシャルラーニングは、TwitterやfacebookなどのSNSをツールとして活用する学習システムであり、いま普及のスタートに着いたところだ。

規模が大きいほど活用率が高いeラーニング

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

eラーニングの活用状況だが、企業規模別で大きく違いがある。「1001名以上」は69%と7割近くが活用しているが、「301名~1000名」では54%と半分近くになり、「1~300名」では32%と大きな差が開いている。eラーニングの活用は、対象人数や対象者が勤務するエリアの分散状態に大きく影響してくるものと推測される。対象人数が多少多くても、1か所に集まることが容易であれば集合研修形式で実施されるであろうし、対象人数がそれほど多くなくても対象者の拠点がバラバラであれば、1か所ないしは各ブロック拠点に集合しての研修は極めて非効率といえる。

図表1:社員(内定者を含む)教育に「eラーニング」を活用しているか?(全体規模別)

企業規模により受講対象者に差がある「新入社員」と「内定者」

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

「eラーニング」の受講対象者は、「若手社員」「中堅社員」がともにトップで75%、次いで「新入社員」の66%となっている。管理職の中でも「新任管理職」(55%)と「中堅幹部」(49%)では少し差がある。新任管理職向けコンテンツの利用がその差なのであろう。

図表2:「eラーニング」の受講対象者(全体)

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

受講対象者について企業規模による利用度の差はそれほどないが、「新入社員」と「内定者」では、大企業・中堅企業と中小企業では10ポイント以上の差が見られる。内定者数が数十人以上の企業がよく利用する内定者管理システムにeラーニングコンテンツが標準搭載されていたり、管理システムとラーニング提供会社のサービスを連携して利用したりすることが多く、その差なのであろう。内定者管理システムを新入社員研修まで延長継続利用する企業も少なくないという。

図表3:「eラーニング」の受講対象者(新入社員・内定者/全体規模別)

「利用場所や時間に縛られない」が最大のメリット

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

eラーニングのメリットを問うた質問への回答では、業種、企業規模の差はほとんどない。もっとも多い回答は「利用場所や時間に縛られない」で90%。ほとんどの企業がメリットとしている。会場手配や各種調整が不要となるなど、教育担当者の負担も小さいだろう。
 続いて「受講者全員が受講できる」(52%)、「コストの削減」(48%)、「繰り返し学習できる」(45%)が評価されている。
 低い項目は「オリジナルのコンテンツを作成できる」(19%)、「メニューが豊富」(14%)、「学習効果が高い」(5%)。
 フリーコメントを読むと、「受講の進捗管理が容易」という回答が目立つ。また「学習徹底の証拠が作れる(法的な要件として全社員受講等で満たせる)」という回答もあった。

図表4:「eラーニング」のメリット(全体)

未導入企業はeラーニングを誤解?

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

eラーニングを活用していない理由も問うてみた。まず全体で見ると、活用しない理由のトップは「コストが高そう」(36%)、2位は「管理に手間がかかりそう」(28%)、3位が「効果があるとは思えない」(26%)である。「PC・通信環境が整っていない」(24%)と「評価測定が難しそう」(22%)も高い。
「eラーニング」のメリットでは、「利用場所や時間に縛られない」「受講者全員が受講できる」「コストの削減」「繰り返し学習できる」が上位にあり、コストは安く、管理が容易なことが評価されている。ところがeラーニングを導入していない企業は逆のイメージを持っているようだ。食わず嫌いのようにも思える。

図表5:「eラーニング」を導入しない理由(全体)

eラーニングを活用する大企業の3分の2は自社独自コンテンツを保有

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

eラーニング活用企業のコンテンツ(学習内容)提供元を問うてみたところ、企業規模で大きく異なる結果となった。コンテンツには、eラーニング会社提供コンテンツと自社独自で開発・制作したコンテンツの2種類がある。eラーニング会社提供コンテンツのみを利用する企業は、中小企業では56%と過半数なのに対して、中堅企業45%、大企業では34%と3分の1に過ぎない。逆に言えば、自社独自コンテンツを開発・利用している大企業は3分の2に及ぶということであり、eラーニングシステム(インフラ)市場、コンテンツ開発(ソフト)市場は、意外と大きいようである。

一方、自社独自コンテンツのみを利用して、eラーニング会社提供コンテンツを一切利用していない割合をみると、必ずしも規模順に並ぶわけではない。大企業が39%、中小企業も35%なのに対して、中堅企業では23%と最も低い数字なっている。見方を変えれば、中堅企業は自社独自コンテンツとeラーニング会社提供コンテンツの両方を利用して、使い分けている企業が多いということになる。

図表6:コンテンツ(学習内容)の提供元(全体規模別)

業務スキルよりも企業人の資質を高める内容

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

では、eラーニングでは何を学んでいるのだろうか? 最も多いのは「行動規準系(個人情報保護、CSR、コンプライアンスなど)」で6割近い。続いて多いのは「ビジネススキル系(ビジネスマナー、ビジネス文書など)」と「労務系(ハラスメント、メンタルヘルスなど)」でいずれも4割前後の実施率となっている。
業務に直結する「ITスキル系(Office、Java、C言語など)」、「業務スキル系(操作マニュアル、商品・サービス知識など)」、「技術・技能系(電気・制御、生産管理、設備保全など)」は相対的に低く、業務スキルを教えるのではなく、企業人としての資質を高める内容が多いようだ。

また今回は「語学」という選択項目を入れなかったが、「その他」と回答した企業の多くは英語や中国語を挙げている。

図表7:eラーニングのジャンル(全体)

「eラーニング、ソーシャルメディア活用調査」結果報告【1】

企業規模による実施率の差異が大きいのは、「労務系(ハラスメント、メンタルヘルス等)」だ。大企業では53%と「ビジネススキル系(ビジネスマナー、ビジネス文書など)」(49%)よりも高いのに対して、中堅企業では36%、中小企業では29%と低くなっていく。大企業ほど、ハラスメントリスクやメンタルリスクを感じているということなのであろう。

図表8: eラーニングのジャンル(労務系・ビジネススキル系/全体規模別)

集合研修との棲み分けを考えていくべき

eラーニングについて消極的な層のコメントを読むと、以下のような声が多い。
・研修ツールとしては、導入部分だけで、深く入れない印象。(その他サービス)
・教科書・参考書的な使い方ができないので、従来の通信教育にとって代わることはないと思われる。また内容が浅く広くのものが多い。(その他サービス)
・場所と時間に制約がないため今後学ぶ時間が自由に取れる反面、強制感がなくなるため、意識が高くないと、実行が伴わないことも予想される。(機械)
・いつでもどこでも学べるメリットはあるが、受講後に再確認できるツールが何も残らない。(情報処理・ソフトウェア)
・eラーニングのコンテンツよりも講師の情熱が大切だと思います。(証券)

ただし、eラーニングは万能ではないものの、「場所と時間に制約がない」「コスト削減」「繰り返し学習可能」等のメリットは大きく、集合研修と内容による役割の棲み分けや、機能による組み合わせでの利用を考えるべきではないだろうか。また、タブレットやスマートフォンの普及を考えると、eラーニングはこれまでの印刷マニュアルに取って代わるものと思われる。

【内容による棲み分け】
 「知識・スキル系」→eラーニング
 「考え方・行動系」→集合研修
【機能による組み合わせ】
 「本編」→集合研修
 「予習・復習」→eラーニング

次回は、SNSを利用した「ソーシャルリクルーティング」と「ソーシャルラーニング」を取り上げる。

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2012年11月5日~11月13日
有効回答:291社(1001名以上 64社, 301~1000名 96社, 300名以下 131社)

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