今回は、facebookやTwitter などのSNSを活用した「ソーシャルリクルーティング」と「ソーシャルラーニング」の現状と、今後の可能性について考えてみたい。
現在のソーシャルリクルーティング実施企業は1割強
ソーシャルリクルーティングという言葉がある。ソーシャルメディアを使う採用を指しており、「ソー活」という言葉も同じような意味で2011年から使われている。ただ2012年卒採用での利用はわずかであり、2013年卒からfacebookなどに採用ホームページを設ける企業が増え始めた。そこで導入実態を訊いてみた。
現状をおおざっぱに言えば、ソーシャルメディアを「活用している」企業、「利用を検討している」企業はそれぞれ11%とまだ少数だ。8割近い企業は活用していない。
企業規模別で違いがあり、「1001名以上」企業では16%が活用しており、「301名~1000名」では10%、「1~300名」では9%と下がっていく。「利用を検討」企業でも同様の傾向が読み取れる。
図表1:採用活動におけるソーシャルメディア活用状況(全体規模別)
ソーシャルリクルーティングの本命メディアはfacebook
ソーシャルメディアと言ってもさまざまで、登録の仕方も機能も違う。今回の調査で活用企業と検討企業に「採用で活用するソーシャルメディア」を訊いたところ、圧倒的に強いのはfacebookで92%だった。2位はTwitterだが30%だが3倍の差がある。
3位はビジネスに特化したLinkedInだが、8%に過ぎない。日本発のソーシャルメディアmixiを活用する企業は皆無だった。
この調査結果を見る限り、ソーシャルリクルーティングの本命メディアはfacebookと言って良さそうだ。ただしLinkedInはビジネスに強く、アメリカでは必要とするスキルを保有する人材の発見のため、求職者は自分の持つスキルを求める企業探しに使われているから、普及が進めばキャリア採用の強力メディアになる可能性もある。アメリカで起こっている事象の多くは少し遅れて日本でも起こることが多い。ただし、「利用者=転職希望者」とも受け取られかねないメディア特性から、日本における普及は難しいのではないかと思われる。
図表2:採用活動で活用するソーシャルメディア(全体)
ソーシャルメディア採用の9割以上は新卒採用
ソーシャルメディアを「活用」「活用を検討」している企業の採用対象を訊いたところ、91%が「新卒採用」だった。「中途採用」は31%とかなり多いが、「アルバイト・パート採用」は8%に過ぎない。この数字には企業規模による差がほとんどない。
ただソーシャルリクルーティングが普及が始まったばかりで、経験が乏しくスキルを蓄積している企業は少ない。facebook新卒採用ホームページでの運用に慣れてくれば、中途採用やアルバイト・パート採用に使う企業は増えていくものと思われる。
図表3:ソーシャルメディアを活用する採用対象(全体)
ソーシャルメディアを採用に活用したり、検討したりする企業は、どのようなメリットを見いだしているのだろうか? もっとも多いのは「双方向性」59%だ。続いて「拡散性」(57%)、「リアルタイム性」46%だ。
「新卒採用の解禁となる12月1日以前にアプローチが可能」も30%あり、「応募者の普段の行動・考え方を知ることが可能」も29%だ。1年前、2年前には「ソーシャルメディアを使いこなせる人材へアプローチが可能」というメリットを上げる導入企業が多かったが、今回の調査では23%と少ない。
なお企業規模別での差異は少ないが、「応募者の普段の行動・考え方を知ることが可能」の項目のみ、「1001名以上」では10%と全体(29%)と比較して際立って少ない。
図表4:ソーシャルリクルーティングのメリット(全体)
選考に影響するソーシャルメディアへの書き込み
就活本には「facebookは便利で、OB・OG探しに使える。ただ友だち感覚で書き込んでいると人事にチェックされることがあるので注意して欲しい」と書いてある。実際に人事はチェックしているのか?
結論から言えば、半数弱の人事は応募者のソーシャルメディアアカウントを「確認しない」。ただ「確認する」人事もいるし、「一部確認する場合もある」人事もいる。「一部確認」というのは選考が進んでからという意味だろう。
「確認する」「しない」は業種で違いがある。メーカー系の「確認する」は31%だが、非メーカー系では17%と1割以上の違いがある。メーカー系は人物を詳しく知ろうとしているようだ。
「どんな点を確認するか」のフリーコメントを読むと、「よっぽど変じゃない限り評価が変わることはない」という意見もあるが、「内容により、応募者の評価が変わることはありうる」「内容が不適切であれば、最終的な採用にあたって考慮する」と選考に影響するというコメントも多い。
いずれにしろ5割以上の人事が確認する可能性が高いので、求職者や学生は書き込みに注意した方が良さそうだ。
図表5:応募者のソーシャルメディアアカウントを確認するか(業種別)
9割以上が自社対応でソーシャルメディア採用ホームページを作成・更新
採用ホームページの作成では、業者と打ち合わせして作るのが一般的だ。追加コンテンツの作成もサイトの更新作業も業者が行うことが多い。
ところがfacebook採用ホームページを見ると、毎日コンテンツが更新され、大勢の社員が登場している。ソーシャルメディアは手入れを頻繁に行えば好感度が上がるが、手間を惜しめば効果が無くなる。さてこの作業を行っているのはだれなのか?
大半の企業は「すべて社内で対応」している。「基本は社内対応だが、一部外部にアウトソーシングしている」まで入れると9割以上の企業は自社対応だ。「外部にアウトソーシングしている比率の方が高い」は1割未満だ。
ただし企業規模による違いがあり、「1001名以上」の「すべて社内で対応」は64%だが、「301名~1000名」では75%、「1~300名」では87%になっており、小規模企業ほど自社対応度が高い。
優れたソーシャルメディア採用ホームページにしようとすれば自社対応せざるを得ず、負担が大きいはずだ。そこにソーシャルリクルーティングの課題がありそうだ。
図表6:ソーシャルメディアへの投稿や更新作業主体(全体規模別)
過渡期で情報が不足しているソーシャルリクルーティング
これまでソーシャルメディアを「活用」「検討」している企業のデータを紹介してきたが、先に書いたように「活用していない」企業の方が多数派。8割近い企業は「活用していない」。「活用しない」理由は何だろうか? 理由を読むと、ソーシャルメディアがまだ過渡期のメディアであり、定着していないことがわかる。
「活用しない」理由で最多は「効果がよく分からない」で54%と5割を超えている。続いて「手間がかかりそう」が42%だ。「効果がよく分からない」と関連するが「就職ナビや採用ホームページで十分」も33%である。
「予算がない」は17%、「ソーシャルメディアのことはよくわからない」が16%。必要なら予算を組むだろうが、そもそも「わからない」ので作らないのだ。
コメントを読むとリスクを避けたいという理由も見える。「対応する社員の質によってはリスクが大きい」「セキュリティ面で対応できるスタッフがいない」「企業イメージを大きく損ねてしまう可能性あり」というコメントがある。
たぶん情報が不足しているのだと思う。すでに1500社以上がfacebook採用ホームページを公開していると言われるが、その採用効果と手間のコストパフォーマンスに関する情報が豊富に流れれば、活用企業はもっと増えるはずだ。もちろん手間がかかりすぎるし、中には採用効果のコストパフォーマンスが悪いという総括をする企業もあるだろう。
図表7:採用活動でソーシャルメディアを活用しない理由(全体)
数少ない導入企業が高く評価するソーシャルラーニング
ソーシャルラーニングとは、Twitterやfacebookなどのソーシャルメディアをツールとして活用する学習システムだが、まだ歴史は浅くこの数年に登場した用語だ。ただし、概念としては古くからあったようである。元来の意味では「他人の模倣による社会的に適切な行動を学習すること。人とのつながりを持った時、自分の意見を他人の意見で補完しながら自分の考え方を構築してゆくこと。」ということになる。
「ソーシャルラーニング」に対する認識を問うたところ、「知っている」と回答した担当者は2割にとどまり、「聞いたことがある」と「知らない」がそれぞれ4割程度だ。またソーシャルラーニングを使っている企業はほとんどなく、「会社として取り入れている」は1%、「一部の部署・社員で取り入れているようだ」が2%に過ぎない。普及への入り口の扉さえまだ開いていない状態ともいえる。
図表8:「ソーシャルラーニング」という言葉を知っているか(全体)
図表9:「ソーシャルラーニング」を取り入れているか(全体)
今後の活用の広がり予想でも、eラーニングとソーシャルラーニングが5割前後の票を集めたのに対して、ソーシャルラーニングが広がると予想した人は3割にも満たない。個人アカウントと繋がるソーシャルリクルーティングこそ日本国内では限界があるものの、逆にソーシャルラーニングには無限に広がる可能性があるように思えるのだが、現時点での人事の期待値は低いようである。8割の人が内容をあまり理解していないだけに致し方ないところか。
図表10:今後、活用が広がっていくと思うもの(全体)
グローバル展開の中では必須のツールになる
ソーシャルメディアに期待する派のコメントを拾ってみる。
・国内はもちろん海外も含めて事業所がますます分散し行く中で、社員のスキルアップをしていくために必須の道具として活用していかなければなりません。 (繊維)
・ソーシャルラーニングは知恵の広がりという感じを抱いている。 (化学)
・フルに活用できれば有効、と思う一方で、現時点では、提供側の意識だけでなく、利用者側の活用しようという意識の差が大きいと思われる。有効に活用するためには、比較的簡単な系でも活用事例の積み重ねなど、活用しようという意識浸透の取り組みが必要と考える。(化学)
・若者に向いている。(電子)
・これからは、いつでもどこでも「学習の習慣」のある人材の登用が必要不可欠。常に新しい知識を習得しながら、貪欲に勉強をしていかなければ成果をあげる人材にはなれない。(教育)
・一方的に教わるだけでなく、相互で教え合うソーシャルラーニングは今後発展していくと考えております。(教育)
ソーシャルラーニングは「ラーニング」という名称がついているが、ナレッジ系システムに近く、情報共有ツールとして機能する。もっと普及して強い社員が育つ職場を作って欲しいところである。今後の動向に注目したい。
【調査概要】
調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2012年11月5日~11月13日
有効回答:291社(1001名以上 64社, 301~1000名 96社, 300名以下 131社)
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