設問を大きく分ければ、入社前研修、入社後の導入研修(OFF-JT)、OJT、ゆとり世代に対する施策になる。興味深いのはOJT。多くの人事が、新入社員よりも、教える側を問題と捉えており、スキルのバラツキを憂いている。
さて調査報告だが、データが多いので2回に分けて紹介する。今回は入社前研修、入社後の導入研修(OFF-JT)について見てみよう。
入社前教育(内定者研修)を実施する企業は全体の7割
内定者研修を行う企業は、全体の69%、7割の企業が実施している。しかし規模によって差があり、「1001名以上」では73%が実施、「301名~1000名」では74%が実施しているのに対し、「300名以下」では62%と低い。
「今年の新入社員から実施した」と「今年の新入社員から取りやめた」と方針変更した企業は少なく、これまで実施してきた企業は例年通り実施し、やっていなかった企業は例年通りやらなかったようだ。
【図表1】内定者研修の実施状況(全体、規模別)
意外に多い自動車教習所での技能トレーニング
内定者研修でもっとも多いのは「集合研修」であり、続いて「レポート提出」「通信教育」という順番だ。この3つについては企業規模の差はほとんどない。
しかしeラーニングは企業規模によって大きな差があり、「1001名以上」が35%であるのに対し、「301名~1000名」は20%、「300名以下」は12%にとどまっている。大企業での実施率が高いのは、採用支援会社が提供する内定者管理システムを利用している企業が多く、そのシステムにeラーニングプログラムが標準搭載されていることもあれば、eラーニングプログラム提供会社のサービスとシステム連携して実施している割合が高いからであろう。
研修の中身を読むと、グループワーク、ビジネスマナー、工場見学、資格対策、TOEIC対策、課題図書や日経新聞の購読などの定番メニューを、企業ごとのポリシーに基づいて組み合わせている。
意外なのは、自動車の運転技能スキルに関する研修を実施している企業が目立っていることだ。とくに医薬品・医療機器業界で多く、内定者の最寄り教習所で運転のフォロートレーニングを受講させている(会社が費用負担)。医薬品・医療機器業界でMRとして働くためには、自動車の運転が不可欠だ。運転技能は走行距離に比例するところが多く、自動車離れが進んでいると言われる昨今では、学生時代の走行距離では安心できないという判断なのだろう。
【図表2】内定者研修(全体、規模別)
規模が小さいほど多くなる職場実習
内定者研修よりも入社時導入研修を実施する企業は多く、全体の93%が実施している。企業規模によって差が大きく、「1001名以上」の実施率は98%とほとんどの企業が実施している。しかし「301名~1000名」になると95%になり、「300名以下」では87%と下がる。
【図表3】入社時導入研修の実施状況(全体、規模別)
入社時導入研修の形態でもっとも多いのは「通い型研修」、続いて「職場実習」と「合宿型研修」の順になる。eラーニングを含む通信教育はほとんどない。
「通い型研修」では業種と企業規模の差はほとんどないが、「合宿型研修」と「職場実習」の差は大きい。メーカー系、非メーカー系ともに「1001名以上」では「合宿型研修」を取り入れている企業は6割前後に上るが、「301名~1000名」と「1~300名」ではその半分に満たない。
逆に「職場実習」はメーカー系、非メーカー系ともに大企業ほど少なく、企業規模が小さくなるほど実施率が高い。規模が小さいほど、特別プログラムを組む余力が少ないので、職場で対応しているものと推察できる。
【図表4】入社時導入研修の実施タイプ(全体、規模別)
新入社員導入研修期間は1カ月未満が4割
配属までの研修期間は興味深い。中小企業ほど短い日数で配属されていると考える人が多いはずだ。確かに「1~3日」での配属は、「1001名以上」で4%にとどまり、「300名以下」では13%と多い。
しかしそれ以上の日数になると、有意な差が調査データから読み取れない。業種による差もなく、意外な結果だった。例えば、研修期間を1カ月未満で区切って比較してみると、「1001名以上」で40%、「301名~1000名」36%、「300名以下」43%と、その差はわずか7ポイントしかないという具合である。
研修期間として多いのは、「1カ月」(18%)、「2カ月」(17%)、「3~4カ月」(15%)、「2週間」(14%)といったところである。わずかではあるが、配属まで「1年超」の研修を実施する企業もある。
【図表5】配属までの研修期間(全体、規模別)
社会人としてのマインドにチェンジさせる研修内容
入社時導入研修の内容だが、全体の8割を超えている項目は「ビジネスマナー」と「社会人としての心構え」だ。「研修で強化している内容」でも「社会人としての心構え」はトップであり、2位が「ビジネスマナー」だ。
企業規模により実施率に差がある項目もある。「企業の歴史・理念」「キャリアプラン・人事制度」「コミュニケーション力向上」「コンプライアンス」「メンタルヘルス・健康管理」「協同作業の重要性」は、企業規模が大きいほど実施している。例えば「メンタルヘルス・健康管理」を見てみると、「1001名以上」では59%が実施しているのに対して、「300名以下」では実施率は28%に過ぎない。抱えているリスク課題の差なのだろう。
【図表6】入社時導入研修の実施内容(全体、規模別)
強化している内容を見てみると、「社会人としての心構え」がすべての企業規模で最も高く、「ビジネスマナー」がそれに続く。企業規模による差が大きいのは「企業の歴史・理念」で、「1001名以上」では30%なのに対して、「300名以下」では14%に留まる。大企業では、「ウェイ経営」に注目する企業が増えており、その表れともいえる。
【図表7】入社時導入研修で強化している内容(全体、規模別)
「研修の目的として重要なテーマ」でもっとも多いのは「学生から社会人へのマインドチェンジ」であり、8割近い。他のテーマは4割以下であることを考えると、新入社員研修の目的は「学生から社会人へのマインドチェンジ」だと言っても過言ではないだろう。人生には多くの転機があるが、たぶん就職は最大の転機だ。付き合う人、話し方、時間の使い方のすべてが変わる。社会人としてのマインドに変わらなければならない。業務知識よりもマインドチェンジを重視していることは理解しやすい。
【図表8】入社時導入研修の目的として重要なテーマ(全体)
入社時導入研修を自社内スタッフのみで実施する企業は少数派
入社時導入研修の講師については、ほぼ妥当な結果になっている。最も多いのは「大半は社内スタッフで対応し、一部を外部委託」で5割前後。「301名~1000名」では6割を超えている。次に多いのは「講師はすべて社内スタッフで対応」であり、「1001名以上」と「301名~1000名」では20%台だが、「300名以下」では33%と多い。新入社員の人数を考えた場合に外部委託費が割高になってしまうためと思われる。
その一方で「300名以下」では「ほぼ外部委託」が5%あり、大企業、中堅企業より多い。これは内部の人材不足で、専任部署がない、講師を務められる人間がいないなどの理由が考えられる。
講師派遣型の研修はなく、複数の企業が合同で参加する公開コース型研修の利用が多いものと思われる。最近では、月額定額制で何人でも公開コース型研修に参加できるサービスが伸びているらしい。
【図表9】入社時導入研修の講師(全体、規模別)
【調査概要】
調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:WEBアンケート
調査期間:2012年7月9日~19日
有効回答:329社(「300名以下」136社、「301~1000名」122社、「1001名以上」71社)
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