メーカー、非メーカーで異なるグローバル人材ニーズ
メーカー、非メーカーで明らかな差があったのが「グローバル人材ニーズ」である。
メーカーでは「不足している」の回答が最も多いが、非メーカーでは「すぐには必要ないが今後必要になる」との回答が最も多くなっている。また、『不足している』(「不足している」+「少し不足している」)と認識しているのは、メーカーは54%と過半数を占めるが、非メーカーは31%に過ぎない。「必要ない」との回答はメーカーではわずか6%だが、非メーカーでは20%となっている。
海外生産や輸出でグローバル化が進むメーカーほど人材ニーズも高い。非メーカーでは、「1001名以上」の58%が「すぐには必要ないが今後必要になる」との認識で、『不足している』とする企業は27%に過ぎない。一方メーカーでは、『不足している』と回答しているのは、「300名以下」の企業で37%、「301~1000名」で50%、「1001名以上」では74%に達するなど、規模が大きくなるほどグローバル人材ニーズも高くなっている。
【図表1】グローバル人材ニーズ:メーカー
【図表2】グローバル人材ニーズ:非メーカー
人材ニーズと連動する、グローバル人材育成方針
グローバル人材育成について、経営者が明確な方針を打ち出しているかどうかでは、グローバル人材ニーズと呼応する結果となった。メーカーでは、規模が大きい企業ほど、明確な方針を強く打ち出している割合が多くなっている。一方で、非メーカーでは「打ち出していない」が最も多く、規模による差もあまり見られない。
【図表3】グローバル人材育成についての経営者からの明確な方針:メーカー
【図表4】グローバル人材育成についての経営者からの明確な方針:非メーカー
「グローバル人材全般の候補者が少ない」のが共通課題
グローバル人材育成での課題では、メーカー、非メーカーともに半数近くが、「グローバル人材全般の候補者が少ない」と回答している。次いで多いのは、メーカーでは「管理職層のグローバル人材育成への理解が乏しい」で30%、非メーカーでは「特にグローバル人材のリーダー層の候補者が少ない」で29%となった。
規模別でみると、メーカーの「1001名以上」では「特にグローバル人材のリーダー層の候補者が少ない」が52%で最も多いが、メーカーのそれ以外の規模と、非メーカーでは「グローバル人材全般の候補者が少ない」が最も多くなっている。
具体的な課題を見てみよう。
・分野/区分別に、どのようなスキルを持つべきかが整理されていないため、明確なビジョンや戦略が共有できていない。(輸送機器・自動車)
・海外拠点の事情について、日本サイドの関与が弱く、現地任せになっている。(強み/弱みが把握できていない)(輸送機器・自動車)
・グローバル人材候補者は日本でも必要な人材ばかりで、海外に出せない状況。(輸送機器・自動車)
・社内に人材育成をできる人間がいない。(繊維・アパレル・服飾)
・英会話などの語学研修も不十分であるが、現地文化やビジネス慣習などの文化的理解に関するフォローが一切行われていない点は課題に感じる。(建設・設備・プラント)
・そもそも、グローバル人材の定義が出来ておらず、そのため「誰に何をすべきか」が明確でない(化学)
・グローバルに活躍することへの挑戦をためらう人が日本人には多く、そのバリアをどう取り除くかが課題。(その他金融)
グローバル人材の定義や人材要件が明確になっていないとする声が非常に多い。
【図表5】グローバル人材育成上の課題
【図表6】グローバル人材育成上の課題:規模別
グローバル人材に求められるのは「語学力」「チャレンジ精神」「異文化理解」
では、グローバル人材に求められる能力は何だろうか。
メーカー、非メーカーともに全体の傾向はほぼ同じとなった。「外国語の能力」、「積極性、チャレンジ精神」、「異文化への理解、異文化コミュニケーション」、「適応力」は50%以上の回答があった。
規模別でみると、「300名以下」ではメーカー、非メーカーともに「外国語の能力」が、「301名~1000名」ではメーカー、非メーカーともに「積極性、チャレンジ精神」が最も多かったが、「1001名以上」では、メーカーでは「異文化への理解、異文化コミュニケーション」が、非メーカーでは「適応力」が最も多くなった。
【図表7】グローバル人材に求められる能力
【図表8】グローバル人材に求められる能力:規模別
実際に実施できている研修は「外国語の能力」
実際に実施している研修がどの能力を伸ばそうとしているのかについては、「外国語の能力」が全体で48%、特にメーカーでは59%と突出する結果となった。2位の「異文化への理解、異文化コミュニケーション」は全体で24%と、「外国語の能力」の半分に過ぎない。求める能力では「外国語の能力」と僅差であった「積極性、チャレンジ精神」は、全体で19%と2割を切っている状況だ。
規模別でみると、非メーカーの「1001名以上」では、「リーダーシップ」が最も多くなっている。
【図表9】実施している研修で伸ばそうとしている能力
【図表10】実施している研修で伸ばそうとしている能力:規模別
語学関連以外の具体的な研修内容を見てみよう。
・ビジョン、戦略策定および実行力の向上。リーダーシップ開発。異文化理解、商習慣などの学習(輸送機器・自動車)
・マーケティング、経理財務、事業計画などの研修など(繊維・アパレル・服飾)
・アサーショントレーニング。歴史教育(建築・土木・設計)
・リーダーとしてのコミュニケーション能力向上、業務上のニーズを適切に概念化して伝える能力の向上、業務上発生する問題について、問題発見と問題解決能力の向上など。(建設・設備・プラント)
・若手層に対する海外派遣研修(実務経験をつける)(医療機器)
・内定者に対して希望者には、4月から半年間オーストラリアへのホームステイを実施。帰国後の10月に入社。(その他サービス)
・ミドルのリーダー層から、現地子会社の社長を選抜するため、海外での経営を想定したワークショップを実施した(その他サービス)
若手社員、新入社員、内定者に海外研修を実施している企業も見られるが、国内での語学関連の研修を除くと、その研修内容は乏しい。ただ、メーカー、特に輸送機器・自動車では、「異文化理解研修」を複数の企業が挙げている。
8割以上の企業がグローバル人材育成に関する取り組みが遅れていると認識
グローバル人材育成に関する取り組みが進んでいると思うかでは、メーカー、非メーカーともに、取組み状況が進んでいないと回答する企業が過半数を占めた。
メーカーでは、「1001名以上」で『思う』(「思う」+「少し思う」)が24%と、他の規模に比べて多く、「思わない」も36%と少なく、他の規模、非メーカーと比べて取り組み度合いに大きな違いが見られた。一方で、非メーカーでは、『思う』が「1001名以上」では11%、「301名~1000名」では16%、「300名以下」では11%と、それほどの差異が現れなかった。
【図表11】グローバル人材育成に関する取り組みは進んでいる方だと思うか:メーカー
【図表12】グローバル人材育成に関する取り組みは進んでいる方だと思うか:非メーカー
グローバル人材育成の対象は働き盛りの30代が中心
グローバル人材育成の対象となる世代はどの世代であろうか。
メーカーと非メーカーでは若干認識が異なるようである。メーカーでは、「30代」が53%と最も多いのに対し、非メーカーでは「年齢に関係なく適格者」がトップとなっている。ただ、非メーカーでも次いで多いのは「30代」と、グローバル人材育成の対象は、30代が中心であるという回答が多くなった。
【図表13】グローバル人材育成の対象年代
【図表14】グローバル人材育成の対象年代:規模別
グローバル人材のリーダー育成方針は「強みを伸ばすこと」
グローバルリーダーの育成方針では、最も多かったのは「強みを伸ばすことがより重要」で、メーカーで55%、非メーカーで57%と、過半数を占めた。
メーカーで「弱みを克服することがより重要」を選択している企業では、すでに海外展開している企業が多く、その経験値からの回答なのであろう。
【図表15】グローバルリーダーの育成方針:メーカー
【図表16】グローバルリーダーの育成方針:非メーカー
グローバル人材育成については、まずは各社にて「グローバル人材」の定義を明確にし、必要となる能力、人材要件をはっきりさせることが大切であろう。担う役割が異なるわけだから、定義や人材要件は各社によって異なって当然だと思う。
語学力はもちろんあるに越したことはないが、必ずしもそんなに高いレベルのものを必要としないケースもあるだろう。未開拓の市場を開拓することや、新たな人脈作りが求められることを考えたら、積極性や開拓精神、メンタルタフネス、それぞれの国や地域の歴史や文化、宗教、考え方などを理解することの方が大切である。そのためには、座学だけではなく、現地の人々と直接触れ合う機会を設けることも必要であろう。
【調査概要】
調査主体:株式会社ファインド・シー(協力:HR総合調査研究所)
調査対象:人材育成担当者
調査方法:WEBアンケート
調査内容:日本人社員のグローバル人材育成に関する企業の課題、実施している研修に関する調査
調査期間:2012年7月20日~8月3日
有効回答:163件(160社)≪メーカー79件(78社)、非メーカー84件(82社)≫
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