HR総研では、2022年2月に各企業におけるハラスメント防止に関するアンケートを実施した。調査結果をフリーコメントも含めて以下に報告する。
<概要>
●パワハラ相談が7割で圧倒的、次いでセクハラ4割
●パワハラ防止法への「理解」9割、「対応」は8割未満とやや低下
●「再発防止策」がやや低い対応率
●パワハラの相談件数、防止措置に対応する企業で変化が大きく
●パワハラの関係性、「男性同士・正社員同士の上司から部下へ」が圧倒的
●セクハラも正社員同士、上司から部下へ
●休業制度自体へのハラスメント、運用体制に課題か
●ハラスメントの根本要因は、管理職や社員の理解不足
●管理職を中心とした全社員へのハラスメントに関する意識改革が喫緊の課題
パワハラ相談が7割で圧倒的、次いでセクハラ4割
ハラスメントには様々な種類のものが存在するが、企業においてどのようなハラスメントに関する相談が多いのだろうか。
相談を受ける企業の割合が最も高いハラスメントは「パワーハラスメント」で71%、次いで「セクシャルハラスメント」で44%、「モラルハラスメント」が33%などとなっている(図表1-1)。パワーハラスメントの相談を受ける企業の割合が圧倒的に高いことが分かる。
【図表1-1】自社で相談があるハラスメントの種類
企業規模別に見ると、いずれの企業規模でも上位3種類は高い順に「パワーハラスメント」、「セクシャルハラスメント」、「モラルハラスメント」が挙がっている。従業員数1,001名以上の大企業では「パワーハラスメント」が最多で87%、次いで「セクシャルハラスメント」が64%、「モラルハラスメント」が44%などとなっており、「パワーハラスメント」については9割近くの企業で相談がある。301~1,000名の中堅企業でも「パワーハラスメント」が85%で大企業と同等の割合となっており、次いで「セクシャルハラスメント」が46%、「モラルハラスメント」が38%と全体より高い割合にある。300名以下の中小企業では「パワーハラスメント」が55%、「セクシャルハラスメント」が32%、「モラルハラスメント」が24%などとなっており、大企業や中堅企業より割合が低い傾向となっている(図表1-2)。
【図表1-2】企業規模別 自社で相談があるハラスメントの種類
パワハラ防止法への「理解」9割、「対応」は8割未満とやや低下
「パワーハラスメント防止法」(改正労働施策総合推進法)は、大企業では2020年6月から施行されており、中小企業でも2022年4月から施行される。この「パワーハラスメント防止法」に規定された「雇用管理上講ずべき措置(義務)」への理解と対応の度合いを確認してみる。
「理解度」については、「概ね(理解)できている」が最も多く60%、次いで「十分できている」が30%などとなっており、これらを合計した「理解できている派」は90%となり、ほとんどの企業において理解はされていることが分かる。ただし、「対応度」を見てみると「概ね(対応)できている」が57%、次いで「十分できている」が19%となり、「対応できている派」は76%で「理解度」より14ポイント低い割合となっている。一方、対応が「あまりできていない」が16%、「全くできていない」が6%で、これらを合計した「対応できていない派」は22%となり、「理解度」(9%)より13ポイント高くなっている(図表2-1)。理解している企業が、すべて対応できているわけではないことがうかがえる。
【図表2-1】パワーハラスメント防止法に規定された「雇用管理上講ずべき措置(義務)」への理解と対応の度合い
また、必須ではないが「望ましい取組み(努力義務)」となっている3つの取組みについての対応状況を見てみると、「各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備」では「概ね対応できている」が最多で56%、次いで「十分に対応できている」が24%となり、「対応できている派」が80%となっている。「職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取組」では「対応できている派」が62%で、「労働者や労働組合等の参画」では「対応できている派」が45%となっている。相談体制の整備までは大半の企業で取り組まれているものの、さらに踏み込んだ積極的な要因解消への取組みや従業員側を巻き込んだ取組みとなると、対応できている割合が低い現状がうかがえる(図表2-2)。
【図表2-2】パワーハラスメント防止法に規定された「望ましい取組み(努力義務)」への対応状況
「再発防止策」がやや低い対応率
職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置として図表3-1,2に挙げるA~Iの9項目についての対応状況を見てみる。
いずれの項目においても「概ね対応できている」が最も多く、「対応できている派」の割合としてはすべての項目で6割を超えている。中でも「B:相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること」では「対応できている派」の割合が最も高く78%と8割近くを占めている。ハラスメント関連の相談窓口としてホットラインを定め従業員に周知するなどの対応が、この項目に当てはまる。一方、「対応できている派」の割合が最も低い項目は「G:再発防止に向けた措置を講ずること」で66%、「十分に対応できている」は11%と1割にとどまっており他の項目より顕著に低い水準となっている。相談対応や事後処理については比較的対応できる状態にあるが、その先の「再発防止策」への対応が遅れている企業が多いことがうかがえる(図表3-1)。
【図表3-1】職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置への対応状況
各項目について「対応できていない派」の企業において、今後の対応に向けた検討状況を確認したところ、「実施予定/検討中」(「検討の上、実施予定である」と「検討中である」の合計)の割合はすべての項目で4~6割の間にあり、「実施予定/検討中」の割合が最も高いのは「対応できていない派」の割合が33%で最も多い「G:再発防止に向けた措置を講ずること」で、58%と6割近くとなっている(図表3-2)。
【図表3-2】「対応できていない」項目への対応に向けた検討状況
パワハラの相談件数、防止措置に対応する企業で変化が大きく
過去数年間での相談件数の変化について、ハラスメントの種類別に見てみる。
現在、社員からの相談を受ける企業の割合(相談割合)が最も高い「パワーハラスメント」については、「変わらない」が最も多く44%、次いで「減少している」が21%、「増加している」が19%などとなっており、減少と増加の割合が拮抗している。相談割合が2番目に多い「セクシャルハラスメント」では、「変わらない」が最多で45%、「減少している」が24%に対して「増加している」が3%で、全体としては減少傾向が見られる。また、「過去に相談はない」が28%となっている。さらに、相談割合が3位の「モラルハラスメント」では、「過去に相談はない」が50%を占める中、「変わらない」が34%、「増加している」が8%、「減少している」が7%となり、顕著な変化は見られない(図表4-1)。
【図表4-1】各種ハラスメントに関する過去数年間での相談件数の変化
図表3-1で示す「職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置」への対応状況別に、「パワーハラスメント相談件数の変化」を見てみると、「対応できている」(「十分対応できている」と「概ね対応できている」の合計)の企業群では、「変わらない」が最多で42%、次いで「減少している」が23%、「増加している」が21%などとなっている。一方、「対応できていない」(「あまり対応できていない」と「まったく対応できていない」の合計)の企業群では、「変わらない」が最多で46%、「増加している」と「減少している」がともに15%となっている。増加と減少の割合が拮抗しているという点では、対応状況による顕著な差異は見られないものの、「増加している」と「減少している」の各々の割合を比較すると、「対応できている」企業群の方が「対応できていない」企業群より高く、相談件数に変化がある企業の割合が高くなっている。このことから、防止措置を取ることにより必ずしも直接的に減少傾向に転ずるわけではなく、まずは相談しやすい環境となることで一旦は相談件数が増え、それらに適切に対応し続けることで減少傾向に転ずるという好循環の構築が期待される(図表4-2)。
【図表4-2】対応状況別 パワーハラスメントに関する過去数年間での相談件数の変化
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【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】ハラスメント防止に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年2月7~14日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・ご担当者
有効回答:203件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp
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詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。
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