経営戦略と人事戦略は連動することが望ましい。今回の調査を通して、人事部門の担当者の7割が「自部門の役割は高まる」という意識を持っていることが分かった。しかし、現状求められている役割と、目指すべき役割は、乖離している印象だ。本調査では、「戦略人事」や「HRBP(HRビジネスパートナー)」という概念の浸透度、人事部門のパフォーマンスや「AI」に関する意識調査も実施した。
最新の動向を、本レポートでぜひご確認頂きたい。
●約7割の人事担当者が「人事部門の役割は高まる」と回答
今後、人事部門の役割は高まるかどうか。人事担当者の意識を調査したところ、「大いに高まる」(22%)、「高まる」(47%)で、肯定的な意見が約7割を占めた。
【図表1】今後人事部門の役割は高まるか
そう感じる理由をフリーコメントで求めたところ、たくさんのご意見を頂いた。いくつかを抜粋してご紹介する。
・人事部が強くならないと強い組織、適材適所や将来の会社組織の在り方等、会社自体が強くならないと考えている。(1001名以上/サービス)
・AIの急激な発達とこれから日本が迎える本格的な少子高齢化社会の中で、人材の価値がこれまで以上に高まると考えているため。(1001名以上/メーカー)
・戦略人事へ転換して事業戦略との連動を図っていく必要がある。(1001名以上/メーカー)
・AIやIoTで、一流企業に勤めている社員が、希望退職の対象になってしまう時代になりました。変化の早いこのような時代だからこそ、ヒトをどう活かしていくか、もっと考えていかなければならないと思います。(301~1000名/メーカー)
・人事制度改革や長時間労働対策、メンタルヘルス対策など、人事主導で行わなければいけない部分がたくさんあるため。(301~1000名/メーカー)
・従業員の様々な情報を経営に生かして、業績向上を目指さなければいけないために、機密情報を扱う人事部門の役割は大いに高まると思われる。(300名以下/メーカー)
・構造的な改善や進め方を可能にするのは、HRくらいではないか(全体最適の面でも)
(300名以下/運輸・不動産・エネルギー)
一方で、役割向上に悲観的な意見も散見された。
・経営層および部内にそのような問題認識がない。(1001名以上/メーカー)
・経営戦略と人事戦略がマッチしているのかどうか確信が持てない。(1001名以上/メーカー)
・経営者の考えが変わらない限り、役割が急激に変化するとは考えにくい。経営の思い通りのことを具現化する役割になっている。(301~1000名/メーカー)
・役員と社員の考えに差がありすぎるため。(300名以下/情報・通信)
●現在求められている役割は「人材管理」と「組織・風土改革」だが、今後は「ビジネスパートナー」
では、人事部門に求められる役割とは何か。HR総研では例年、『MBAの人材戦略』で著名なミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱する「4分類」を調査に用いている。
1.戦略パートナー(Strategic Partner)、2.管理のエキスパート(Administrative Expert)、3.従業員のチャンピオン(Employee Champion)、4.変革のエージェント(Change Agent)―― 今回の調査でもこの4分類から人事部門の役割を選んでもらった。
まず、「現在求められている役割」に関しては、「人事管理を精密に行う(管理のエキスパート)」(38%)が、「組織・風土改革実行を中心的に担う(変革のエージェント)」(32%)と僅差でトップだった。
一方で、「今後求められる役割」に関しては、「人事管理を精密に行う」が3分の1の13%に大きく後退し、その代わりに「ビジネスの成果に貢献する(戦略パートナー)」が51%と20ポイント以上も伸ばして圧倒的1位である。
将来的には「ビジネスの成果に貢献したい」と思いつつも、現状では日常の管理業務や、風土改革という「将来への種まき」に追われる人事の姿が浮き彫りになっている。
【図表2】現在、人事部門に求められている役割
【図表3】今後、人事部門に求められる役割
●「戦略人事の重要性」は8割が認識するも、7割が「役割を果たせていない」
人事部門が将来的に「戦略パートナー」の役割を目指している中で、押さえておきたいキーワードが2つある。そのひとつが「戦略人事」だ。
この考え方は、1990年代に先述のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱したもので、「従来の管理業務を中心とした人事から、事業戦略の実現をサポートする戦略的な人事に転換すべきである」というものである。
今回の調査で、まずは「戦略人事」という言葉を知っているかを質問したところ、「知らない」という回答はわずか7%だった。続いて「戦略人事の重要性」に関する認識を問うたところ、「非常に重要である」(37%)、「重要である」(42%)となり、ほぼ8割がその重要性を認めている。
ところが、「人事部門が戦略人事の役割を果たせているか」という問いには、「充分果たせている」はわずか1%しかなく、「あまり果たせていない」(46%)、「全く果たせていない」(22%)を合わせて7割が厳しい見方をした。
【図表4】「戦略人事」の重要性
【図表5】人事部門は「戦略人事」の役割を果たせているか
具体的な現状について、フリーコメントでも回答を求めた。代表的な回答をいくつかご紹介する。
・タレントマネジメントが出来ていないため、各本部の玉突き人事を受け入れるしかない状態であるから。(1001名以上/サービス)
・弊社の人事には戦略性が無い。その必要性を経営者が認識していない。経営者は「戦略人事」ということを理解していない。(301~1000名/メーカー)
・基本的に言われてから動く、という形しか出来ていない。経営層を逆にリード出来るようになるのが戦略人事のはず。その面でみるとまだまだ機能は果たせていない。(301~1000名/メーカー)
・ルーチンワークに時間が割かれている。(300名以下/マスコミ・コンサル)
●意外と浸透していない「HRBP(HRビジネスパートナー)」
押さえておきたいキーワードの2つ目は、「HRBP(HRビジネスパートナー)」である。
「戦略人事」の観点から、事業戦略と人事戦略は連動していることが望ましい。HRBPとは、事業成長を人と組織の面から支援する「プロフェッショナル・パートナー」のことを指している。
このテーマに関しても、まずは「HRBP」という言葉を知っているか、という質問から始めた。その結果、「知らない」という回答が全体の43%を占めた。認識レベルの割合は、企業規模別でもほぼ同じである。「HRBP」という言葉は、意外に浸透していない。
「知っている」「聞いたことはある」と回答した方に、「HRBPの重要性」について質問したところ、「非常に重要である」(26%)、「重要である」(39%)となり、約7割が重要性を認識している。
企業規模別で見ると、300名以下の企業では「あまり重要でない」(23%)という回答が他に比べて突出している。フリーコメントを読むと、「大手企業ではそうかもしれないが、100人に満たない企業では人事部長がやればよい。」(300名以下/サービス)、「改めてHRBPを置くというより、今ある人事部門の責任者が経営者と一体となって役割を果たすべき」(300名以下/金融)という意見があり、人事部長による兼務の実態があるようだ。
【図表6】「HRBP(HRビジネスパートナー)」という言葉を知っているか
【図表7】「HRBP(HRビジネスパートナー)」の重要性(企業規模別:前問で「知らない」と回答した方を除く)
●パフォーマンスは低評価が目立つ
現在の人事部門のパフォーマンスについて質問したところ、「30点未満」(11%)、「30~50点未満」(31%)、「50~70点未満」(47%)であり、及第点の70点に満たない割合が9割という低評価となった。昨年同様、人事の自己評価は低い。
そもそも、人事部門に提供されるリソースは充分なのだろうか。
調査の結果、「あまり提供されていない」(43%)、「全く提供されていない」(14%)となり、約6割が「リソース不足」という認識を持っていることが分かった。
【図表8】現在の人事部門のパフォーマンス
【図表9】提供されるリソースは充分か
●「人員不足」が第1位。気になる「AI」の導入は?
前問で、「あまり提供されていない」「全く提供されていない」と回答した人に、何が提供されていないと感じるか質問した。
1位は「人員」(54%)で、「能力開発の機会」(47%)、「スキル開発の機会」(42%)、「予算」(42%)と続く。
【図表10】「提供されていない」と感じるリソース
「人員不足」に対する解決策として、最近はRPAやAIによる業務効率化が注目されている。AIの導入について、人事部門はどのような認識なのだろうか。
調査の結果、「懐疑的だが、試す価値はあると思う」(38%)という回答が最も多かった。「積極的に導入すべき」「ぜひ導入したい」の肯定的な認識と「動向を見守りたい」「導入はしない方が良い」の否定的な認識は、それぞれ35%、26%で肯定派が上回った。
【図表11】人事部門に「AI」を導入することについて、どのように考えるか
フリーコメントで意見を求めたところ、「AI」に対する理解の深さによっても、認識に差が出ていることが窺えた。今後の潮流をつかむ参考にして欲しい。
・定型の事務処理に時間を使わないようにすることが必要。(1001名以上/サービス)
・効率化はできると思うが、人事は調整ごとが多いので。(1001名以上/サービス)
・まだ導入経験もなく、他社事例も似たようなものにとどまっている感覚があり、その成果も未体験であるため実感が湧かない。(1001名以上/メーカー)
・費用対効果としてどうかは懐疑的。(1001名以上/メーカー)
・「何をどこまで、どのようにすれば良いか」が、現状の課題解決に繋がるか、不透明なため。(301~1000名/サービス)
・ヒトがしていたことをコンピューターがしてくれれば、次にヒトがすべき課題が明確になる。(301~1000名/メーカー)
・採用における書類選考等は懐疑的。ただ、離職可能性などを見るにはある意味効果的な記事も見受けられる。(301~1000名/メーカー)
・障がい者枠の業務を削らなければ(導入も)良いと思う。(301~1000名/情報・通信)
・重要だと思うが、扱いきれない可能性の方が大きく導入は難しい。(300名以下/サービス)
・コンピューター任せになる可能性があり、定性部分の情報が読みにくくなるのではないかと思われる。(300名以下/メーカー)
・どんなものになるのか判らない。人事は関係ないと現状では考える。(300名以下/情報・通信)
・AIでほぼ9割が解決できる、しかも正確に。(300名以下/運輸・不動産・エネルギー)
・まだ、技術の信頼性・導入コストなど不明瞭な点が多い。(300名以下/金融)
・運用側の理解浸透が必要なため、近々の課題解決にはつながらないと感じる。(300名以下/マスコミ・コンサル)
【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】人事の課題とキャリアに関するアンケート調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2018年6月8日~6月15日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の人事責任者・ご担当者
有効回答:165件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
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