【HRサミット2017】日本最大級の人事フォーラム

SPECIAL INTERVIEW

ビジネスの世界では、将来の予測がしづらい現在の経営環境を示すキーワードとして、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(あいまい)の頭文字を取った「VUCA」という言葉がよく聞かれます。VUCAはもともと軍事用語で、ほかにも、ストラテジー、ロジスティクスなど、軍事用語からビジネス用語に転用されたものは多くあります。軍事の分野から企業や経営者が多くを学んできた歴史がある中で、いまの先端的な軍隊の組織が企業の組織運営にどう活かすことができるのか、特殊戦指導者の伊藤祐靖氏にお話を伺いました。

特殊部隊には、組織も個人も孤立した状況での作戦遂行能力が必要

「HRサミット2017」では伊藤さんに組織論についてご講演いただきますが、今日はそれに先だって少しお話を聞かせてください。伊藤さんは自衛隊初の特殊部隊を創設して、教官として隊員の訓練もされた経験をお持ちですが、どのような組織をどのようにつくられたのですか?

伊藤氏1999年3月に起きた能登半島沖不審船事件をきっかけとして、通常の部隊では難しい状況に対応できる特殊部隊をつくることを政府が決定し、2001年3月、自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」が海上自衛隊に創設されました。私はこの特殊部隊の創設に携わり、足かけ8年在籍しました。そもそも特殊部隊とはどういう部隊かというと、通常の部隊とは違い、孤立することを大前提とした部隊です。したがって、特殊部隊の隊員は組織として、もしくは個人としても孤立しながら、都会の中だろうと自然の中だろうと、移動する術、生き延びる術を持ち、個人で作戦を遂行できる能力がなければなりません。部隊創設のきっかけになった事件と同様の状況が発生した場合、危険度の高い任務をどうすれば遂行できるのか、基本作戦計画を立てて、それを遂行できる人間はどのような素養を持つ人間か、その人間をこのレベルに上げるためにはどのようなトレーニングが必要かといったことを導き出し、実行に移していきました。

各自が自立し、「報・連・相」が不要な組織をつくった

前例のない組織をつくり上げていく中では、何が正解か、なかなかわからない難しさがあったのではないでしょうか。

伊藤氏自信があったかというと、ありません。ですから、すべて開けっぴろげに言いました。この計画のここはなぜこうなのかと上官から聞かれたら、これは「007」の映画をヒントにしたなどと出典も全部言いますし、ここから先は自分の勘だとか、嘘をつかずに話しました。上官にも部下にも同じです。隊員には、いつも「私を信用するな」と言っていました。

驚きです。軍隊では上官の言うことは絶対だというイメージですが。

伊藤氏「あの人が言うのだから正しい」と思われたらたまらないというのが私の感覚です。そうなったら、必ず落とし穴があるという恐怖感を持っています。ですから、「疑え」と始終言っていました。訓練開始直前に隊員から「このままでは、やっぱり危険だと思うんです」と言われて、考え直し、訓練を中止したことも実際にあります。

「疑え」と言われるからこそ、部下が自分の頭で考えて判断できるようになる、どういう状況下でも個人での作戦遂行能力を持てるようになるということですね。そして、指揮官は部下の言うことを聞く耳を持ち、柔軟に作戦を変更、中止することもあると。企業の方々にも参考になる話だと思います。伊藤さんは、現在は特殊部隊でのご経験をもとに企業向けの研修を企画・実施されていますが、どのような内容なのですか?

伊藤氏内容はさまざまですが、例えば、いま、お話した特殊部隊の大きな特徴は、「報・連・相」をさせない組織だということです。部下に報告も、連絡も、相談もさせません。でも、状況がどう変わろうと、全員が上官の判断を仰ぐことなく、各自が現場で正しい意思決定を行い、行動し、チームの目的を達成します。私はそういう部隊をつくりました。そのために必要なトレーニングなどのメソッドを企業研修で実施すると、「こんなことができるのですか」と非常に驚かれます。

企業研修を実施して驚いたのは、ビジネスパーソンの素養の高さ

まさしく、先行きがわからないVUCAの時代に、企業で求められているのはそういう組織ですね。しかし、「報・連・相」が不要な組織をいったいどうすればつくれるものか、講演でお聞きするのが楽しみです。ところで、伊藤さんがこれまで各社で研修を実施されてきて、ここは問題点だと感じることなどはありますか?

伊藤氏グループワークや野外演習などに取り組んでいただく中で、横並びの意識が強い、自己主張が弱いということは感じます。一方で、驚くのはビジネスパーソンの方々の素養の高さです。ですから、企業研修の中でどんどん伸びていきます。その様子を見れば、海外の軍隊の人など「こんな国があるとは思えない」と腰を抜かすでしょう。組織の上から下までレベルの差があまりなく、全員の素養が極めて高く、自己管理ができる。これは日本人の素晴らしい特質だと感じています。

特殊部隊の隊員というと、知力などの面でも相当な精鋭だと思いますが、その指揮を執った人の目から見ても、日本の企業のビジネスパーソンの素養は高く、適切な訓練を受ければ大きく伸びると。励みになる話です。最後に、「HRサミット2017」に来場される方々へのメッセージをお願いします。

伊藤氏素養の高い人間がたくさんいる組織には、特別な組織運用があってしかるべきだと私は思います。当日は、特殊部隊での経験をもとに、日本人による、日本人にしか実践できない組織論の話をします。多くの企業の方々にお聞きいただきたいと思います。

今日は、貴重なお話しをありがとうございました。「HRサミット2017」で詳しくお聞きできるのが楽しみです。

HRサミット2017での講演情報
B22 9/22(金)14:10 - 15:20 フラット型組織のススメ

伊藤 祐靖氏

特殊戦指導者
伊藤 祐靖(いとう すけやす) 氏

1964年東京都出身。日本体育大学卒業後、海上自衛隊に入隊。「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件を体験。これをきっかけに自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」の創設に関わる。42歳、2等海佐で退官。ミンダナオ島に拠点を移し、各国の警察や軍隊を指導。現在は日本の警備会社等のアドバイザーを務めながら、現役自衛官から企業人まで、多くの人々に自らの知識と技術を伝えている。著書は『国のために死ねるか—自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』(文春新書)、『女性のための護身術』(講談社)。『週刊東洋経済』にて「非常時の組織論」を連載中。

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