サイボウズ株式会社
執行役員 事業支援本部長
中根 弓佳氏
1999年、慶應義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。2001年、サイボウズ株式会社に入社。開発部テクニカルライティングチーム、知財法務部長にて経営法務、契約法務、M&A、知的財産管理等を担当した後、人事、財務経理に職務を広げ、現在事業支援本部長。2014年8月より執行役員。子供2人(小3、年長)。
サイボウズの創業は1997年。同時期に楽天やサイバーエージェントが設立されており、IT業界が勃興し始めた時期です。サイボウズの事業は、グループウェアの開発・販売・運用です。現在は国内6拠点、海外4拠点を持ち、従業員数は連結で約560名(役員・派遣社員含む)、平均年齢は約34歳です。
日本におけるIT業界の代表は、大規模なシステム開発・運用を手がけるSIerです。システムを開発するエンジニアは男性が多く、SIerさんのなかには9割が男性という会社も多くあるようですが、サイボウズはそれと比べて女性が多く約4割を占めています。
グループウェアについてはお使いいただいている方もいらっしゃるかと思います。一言で定義するなら「あらゆる情報をチーム内で共有する」ことによって、理想の達成という効果を生み、効率を高め、このチームで良かったという満足をもたらし、学習によって成長することによってチームワークを向上させるというのが、我々が考えるグループウェアです。
あらゆる情報とは、スケジュール、メール、商品、売上、社員、採用、契約、プロジェクト、メッセージ、会議室予約、ファイル、顧客、商談、受発注、タスクなどが考えられます。
グループは会社だけではありません。大学のサークル、ゼミ、研究室もグループですし、NPO法人もそうです。わたしのように子どもを持つ親ではPTAというグループもありますし、家族も情報を共有するグループのひとつです。
サイボウズのグループウェア(サイボウズ Office、ガルーン)は、ノークリサーチ社「2015年版中堅・中小企業のITアプリケーション利用実態と評価レポート」グループウェア部門で9年連続シェアNO.1を獲得しています。
また専門誌からも高い評価を受けており、日経コンピュータ 2015年9月3日号「顧客満足度調査 2015-2016 グループウエア部門」、および日経BPガバメントテクノロジー2015年秋号「自治体ITシステム満足度調査 2015-2016 グループウエア部門」で第1位を獲得しております。
サイボウズの企業スローガンは「チームあるところ サイボウズあり」。世界中のチームワーク向上に貢献することで、世界一のグループウェアメーカーを目指しています。
しかし目指しているのは売上げや利益の向上より、こだわっているのは「利用者数」です。利用者数を増やすことで、Windows、Linux、Google Search、Facebookのように世界中の多くの方々に使われる製品・サービスを提供したいと考えているのです。
チームワークを啓蒙する活動にも力を入れてきました。2008年からは「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」を開催し、この3年は毎年テレビで取り上げられる恒例行事になりつつあります。2014年には「妖怪ウォッチ」プロジェクトチームが表彰されています。
自社メディア「サイボウズ式」は「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。サイボウズの提供するオウンドメディアでありながら、月間35万PVを超える人気サイトとなっています。
2014年の11月末に公開したワークスタイルムービー「大丈夫」は、働くママをリアルに描いたワークスタイル動画です。女優の西田尚美さんを起用し、ワーキングマザーがどういう企業でどんな気持ちで働いているかをリアルに描いています。すでに140万回を超える再生を記録しています。反響は国内にとどまらず、中国語、韓国語にも翻訳されて視聴されています。
これらの活動が評価され、サイボウズは「働きがいのある会社ランキング2016(従業員100-999人)」で3位にランクインすることができました。
サイボウズは「理想でつながるチーム」を目指していますが、昔からそのような会社だったかというとそうではありません。いまから10年前の2005年の離職率は28%に上昇していました。社員の4人に1人が辞めるのです。離職が増えると、その戦力を補充しなければなりません。そのコストも半端なものではなかったのです。
何が悪くてそんなに辞めていくのか? その原因としてわかりやすいのが「IT業界の7K」です。きつい、帰れない、給料が安い、規則が厳しい、休暇がとれない、化粧がのらない、結婚できない。当時のサイボウズに7Kのすべてが当てはまっていたわけではありません。しかし当たらずとも遠からずでした。そこでどうしたら働きたい環境を作れるのかを考え始めたのです。
当時のサイボウズは規模を大きくすることも追及していました。2005年から2006年にかけて積極的なM&Aを展開し、1年半で9社を買いました。会社は大きくなり、連結売上高も従業員数も倍以上になっていたのです。しかし社内には知らない人が増え、目指す理想もばらばらになり、離職者数も急増していたのです。
わたしは2007年に第一子を出産しました。職場のメンバーがお祝いに自宅に来てくれました。そして「赤ちゃん、かわいいね」というのですが、それは一瞬。あとは愚痴のオンパレード。「次に辞めるのは誰だろう?」「あの人と社長の言っていることは違っている」とみんな会社への不満を口にするのです。
そんな声を聞いてわたしは復職に不安を覚えました。わたしは復職前に青野社長を訪ねて相談しました。青野は「ぼくも会社を変えたいと思う」と言ってくれました。そして「ぼくたちの求めてきたのは規模じゃないはず。グループウェアで世界中の人を幸せにすることだよね。その理想をみんなで共有して働けるワークスタイルを実現したい」と語りました。そこでわたしはサイボウズに復職することを選択したのです。
2008年から2009年にかけてやったのは、買収した会社を売却したり、事業を整理することでした。並行してより多くの人がより長く、より成長して働ける、ワークスタイルの多様化のための制度を充実させていきました。制度を充実させながら、風土改革にも取り組み、約10年が経過したのが現在のサイボウズです。
サイボウズの制度をいくつか紹介してみたいと思います。まず社員は働き方を時間と場所の9分類から選択することができます。働く時間の多様性を選択できる制度は、2007年に選択できるようにしました。 たとえばわたしは子育て中であり、残業することが難しい。17時半過ぎになると退社します。その代わり朝は強いほうなので、必要があれば朝在宅で仕事します。
働く場所の多様性を選択できる制度は2012年頃から始まりました。この制度はサイボウズの理想を考えて作られました。サイボウズはグループウェアの会社です。グループウェアはバーチャルオフィスを可能にします。ならば働く場所の自由度を認めるべきだというのが制度の趣旨です。そして現在は、時間×場所の9分類から働き方を選択できます。
多くの企業では就業規則で「副業禁止」を定めています。サイボウズでも以前はそうでした。しかし、今は、副業可能で、週4日をサイボウズで、他の仕事で週1日という「複業」の社員もいます。休日にテニスのインストラクターをしている人もいます。
副業オーケーにした理由ですが、サイボウズで働くコミットする時間を拘束するのは当たり前ですが、コミットしない社員自身の時間を拘束する理由がないないからです。
ただし制約は設けています。業務時間中の副業やブランドなどの会社の資産を毀損する副業は禁止しています。かりに、会社の情報、ブランド、役職名、製品名などを使うときには、会社資産を毀損しないかを確認するために申請が必要です。
副業オーケーの大前提は自己責任です。本来業務に影響があれば評価に影響します。ですがそれは副業が理由であってもなくても同じ。また他の会社に雇用される場合は確認が必要です。
サイボウズの制度でユニークなのは育児休暇制度です。法の定める育児休暇制度は最長1年半にとどまります。しかしサイボウズでは子どもが小学校に就学するまでの期間に何度でも休業できます。「小学校に就学するまでの6年間」と「何度でも休業できる」という制度は珍しいと思います。このような制度によるサポートもあり、産育休後の復帰率は100%です。
もうひとつユニークな制度があります。育自分休暇制度です。これは35歳以下の社員に適用される制度。いったん退職しても最大6年までは復職可能です。この休暇を利用してJICAの国際協力事業で働いている社員もいます。
制度だけでなく、人事施策として多様なコミュニケーションの促進にも力を入れてきました。項目を上げると「自由に作れる部活動(年1万円/人)」「部門役職不問のお誕生日会(3000円/人)」「部内イベント支援(年1万円/人)」があります。
全社イベントとしては「喜びの叫び(全社懇親会)」や「創業記念パーティー」、「リリースパーティー」などがあります。リラックスした雰囲気の中、真面目に仕事の話をするのが「仕事Bar」。一人あたり1500円の飲食費を支援しています。
人事部感動課は、NHKで放送されていた、いわば、「プロジェクトX」のサイボウズ版を作成するような専門職種です。「新入社員が入社して悩みながらはじめての受注を経験する」など、起こったことを可視化して、共有します。この共有によって感動を教諭し、「このチームで良かった」等という一体感が生まれます。
この他にフラッグフットボールやジェルネイル部等、様々な部活動の様子が、グループウェア上の掲示板で報告されています。こういう楽しいコンテンツの共有によって、部内×部外、仕事×仕事以外、リアル×バーチャルを含めたコミュニケーションの活性化と見える化を図っています。
女性、年齢、国籍の少なさを問題視し、「わが社には多様性が足りない」とするダイバーシティ経営がありますが、サイボウズでは「すでに十分多様なメンバーが集まっている」と考えます。従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬が実現されればよいという考え方であり、公平性よりも個性を重んじて一人ひとりの幸福を追求します。
「100人いれば100通りの働き方があってよい」とするとき問題になるのが「評価」です。サイボウズでは創業期から評価制度が変遷してきました。創業の1997〜2001は個別評価で、社長が決めていました。2001〜2002にかけて目標管理、成果主義人事制度を導入しましたがうまく行かず、2003〜2005には360度評価を取り入れましたが、社員が自分の評価を気にし始めて一体感が損なわれました。
2005〜2007にかけて能力評価・絶対評価を取り入れ、2007〜2012にかけては階層を定義しましたが、そもそも職種もばらばらで定義はうまくできなかったのです。いろんな評価制度を導入してわかったことは「人の評価はそもそも定量化が難しい」ということでした。
そこで2012頃から現在にかけては「市場価値を取り入れた評価」を取り入れ運用しています。「人材市場においてこのキャリアの場合はいくらの給与を得るのか」も含めて給与を決定するのです。もちろん実際転職活動をした場合は、A社とB社での給与が異なることはあり、その差は一定の幅におさまります。その幅のなかで、サイボウズとしていくらのオファーを出すのか、を決めるのが当社の評価制度です。
2007年からサイボウズは推進してきたチームワークインフラは3つです。まず制度があり、時間、場所、評価、給与、育児休暇、採用基準、退職、副業、部活などを定めました。 ツールも重要であり、リアルオフィス(場所、会議室など)の他に情報共有ツール、Web会議、セキュリティ対策などが上げられます。 企業風土としては多様性、公明正大、率先垂範、議論、自立、コミュニケーションの文化を醸成してきました。
このような施策を推進し始めたのは2007年。以来約10年が経過し、離職率28%は劇的に改善し、現在は4〜5%になりました。
サイボウズの最近の大きな変化は、リアルオフィスを2015年7月に移転したことです。本社は後楽園にあったのですが、人員数が増大し、あまりに手狭になったということからです。
もちろんグループウェアの機能を活用し、セミフリーアドレス化を進めました。それでも場所は足りません。その本社ビルに空室はなかったので拡張は不可能です。しかしグループウェアが場所を選ばない働き方を可能にするなら、リアルオフィスは不要で、在宅、サテライトオフィスでいいという考え方もあります。
ところがこの考え方は大反対に合いました。とくに若手の反対は強烈でした。「先輩の近くで働きたい。学びを得たい、仲間と一体感を感じたい」というのです。そこでオフィス検討委員会を立ち上げ、多様な働き方を実現するチームワークオフィスを議論しました。その結果、Big Hub for Team Workというコンセプトに決まったのです。
ビルは日本橋にあり、江戸時代に日本橋は五街道(東海道、日光街道、奥州街道、中山道、甲州街道)の起点でした。アクセス性にすぐれ、文化が息づく信頼性に満ちた街です。 この街でサイボウズがいま目指しているのは、チームワークあふれる「会社」を創ることです。そのために「多様性(個性)重視」「理想への共感」「公明正大」「自立と議論の文化」という4つの軸が重要です。
そして、チームワークあふれる「会社」を創ることによって、チームワークあふれる「社会」を創ることがサイボウズの理想です。
1999年、慶應義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。2001年、サイボウズ株式会社に入社。開発部テクニカルライティングチーム、知財法務部長にて経営法務、契約法務、M&A、知的財産管理等を担当した後、人事、財務経理に職務を広げ、現在事業支援本部長。2014年8月より執行役員。子供2人(小3、年長)。