日本企業の87%が抽象度の高い「企業経営」をスキルとして置いている
近年はあらゆる企業で、取締役会の「スキル・マトリックス」を公表する動きが見られるようになった。スキル・マトリックスは、各取締役が保有するスキルを可視化したもので、会社経営の透明性を示す効果などがあるが、日本企業と米英仏企業では求められるスキルや経験に違いがあるのだろうか。まずHRガバナンス・リーダーズは、各国のスキル・マトリックスを構成するスキルについて、各スキルの名称から22種類のスキルに分類・集計している。社長・CEO等の経験、リーダーシップ、企業経営等のビジネス全般について見ていくと、米国では、「社長・CEO経験」や「取締役経験」、「リーダーシップ」を有することがわかるスキル名を置く企業が多く、それぞれ35%、35%、62%となったという。他方で、日本は「企業経営」とのスキル名を置く企業が87%と大多数を占めている。これについて同社は、「『企業経営』の中には、企業トップ等の経験を有することを条件としている企業もあるが、そのような例は少数であり、実質的にも他国に比べ、社長・CEO経験等を有する取締役は少ないことがうかがえる」としている。
また、英国では米国より割合は低いものの、米国と同様に「社長・CEO経験」や「リーダーシップ」を置く企業が比較的多くなっている。また「企業戦略」が51%と、他国に比べて高い傾向にあった。フランスは日本ほど顕著ではないものの、「企業経営」が59%と高く、米英に比べると「社長・CEO経験」、「リーダーシップ」が低く、比較的日本に似た傾向がうかがえる。
「財務・会計」、「技術・IT・デジタル」は国を問わず多くの企業でスキル・マトリックスに
次に、コーポレート部門に関するスキルについて見ていくと、「財務・会計」はいずれの国もほとんどの企業で置いている。これに加え、海外では「金融・資本市場・M&A」というスキルを置く企業が日本より多く、特に英国では59%、米国では49%と、約半数の企業で置いていた。また、「コーポレートガバナンス」も日本と比べて海外の方が多くの企業でスキルとして認識されており、最も高いフランスでは半数近い企業でスキルとして置いている。同様のスキルとして「法務・リスク」が考えられるが、日本ではそのスキルを置く企業が多く、「コーポレートガバナンス」の割合が低くなる国ほど「法務・リスク」が高くなっている。また、「営業・マーケティング」と「消費者・顧客」を見ると、日本では「営業・マーケティング」を置く企業が64%と多くなっている。海外では「営業・マーケティング」を置く企業は日本ほど多くないものの、「消費者・顧客」のスキルを置く企業が一定数存在し、最も多い英国では34%となった。
米・英・仏企業では「コーポレートガバナンス」をスキルとして置く企業が多い
続いて、R&D・新規事業、サステナビリティ、行政、他では分類されないような関連業界、その他について見ていく。「技術・IT・デジタル」は「財務・会計」に次いでいずれの国でもスキルとして置く企業が多く、特に、米国では93%、フランスでは90%の企業で「技術・IT・デジタル」を置いていた。また、「R&D・新規事業」をスキルとして置く企業は日本では半数以上存在し、米国や英国に比べ多くなっている。他方、「関連業界」とは他分類には当てはまらない当該企業に関連する事業が属する業界における経験やスキル等を分類しているものの、海外ではこの「関連業界」をスキルに置く企業が高く、より細かな業界に関する経験やスキルの言及が多いことがわかった。
さらに、「サステナビリティ・ESG・CSR」に関するスキルについては、フランスが90%と最も多く、次いで英国の70%、日本の66%となっている。米国では「行政・NGO・NPO」に関するスキルを置く企業が68%と、他国ではみられない傾向があった。