イノベーションを創出するための人材能力、組織能力については既に多くの研究者、実務家、コンサルタントが研究し、発信しています。
その中で人材能力としては、「異質なものを組み合わせる力」や「構想力」「挑戦心」などが重要であり、組織能力としては、「人と人がつながるしかけ」「スピード感」「自由闊達な風土」などが必要だと言われています。
その中で人材能力としては、「異質なものを組み合わせる力」や「構想力」「挑戦心」などが重要であり、組織能力としては、「人と人がつながるしかけ」「スピード感」「自由闊達な風土」などが必要だと言われています。
これらの分析は正しいと思います。しかしどんなに正しく定義しても、その力を開発するための具体的で現実的な打ち手が必要です。
一方で、そもそも企業は一定の品質で製品・サービスを提供するために、合理性、効率性を重視して組織が組みあがっています。
そうした前提に立って、イノベーション創出の可能性を高めるための人材開発、組織開発の現実的なしかけとは何でしょうか。
イノベーションを起こすための直接的なハウツーは存在しないでしょう。しかし、イノベーション創出の可能性を高めるために、人材開発・組織開発の側面からできることはあると思います。
そこで本稿では、3つの具体的な人材開発のしかけをご提案します。
一方で、そもそも企業は一定の品質で製品・サービスを提供するために、合理性、効率性を重視して組織が組みあがっています。
そうした前提に立って、イノベーション創出の可能性を高めるための人材開発、組織開発の現実的なしかけとは何でしょうか。
イノベーションを起こすための直接的なハウツーは存在しないでしょう。しかし、イノベーション創出の可能性を高めるために、人材開発・組織開発の側面からできることはあると思います。
そこで本稿では、3つの具体的な人材開発のしかけをご提案します。
1.ミドルマネジャーへの「イノベーティブ・マインドセット・ワークショップ」 【本社人材開発部門の施策】
経営と現場の接点はミドルマネジャーが担っています。そしてイノベーションの芽は、現場に隠れているはずです。特にマネジャーがプレイング化している昨今では、かなりの情報や問題意識がミドルマネジャーの中に蓄積しています。しかし一方でミドルマネジャーは、上司から次々にふられるテーマへの対応や業績目標の達成、部下育成と評価、労務管理、コンプライアンス対応等に日々追われています。そんな状況の中でミドルマネジャーの心の中にイノベーションへの火をつける、あるいは他の人の火を消さないようにしてもらうためには、どう働きかければいいのでしょうか。
答えは既任のミドルマネジャーの中にあります。マネジャーとしてある程度経験を積むと、誰しも日常に流され、保守的になります。また人事は新任登用時以降、研修の機会も十分に提供しきれていません。そこで既任マネジャーを対象にワークショップをしかけるのです。
内容としては、まず自分自身の人生を振り返り、大事にしている価値観と人生の目的を思い出します。次に経営理念を今一度紐解き、皆で語り合います。問いは、「我が社固有の“使命”は何か」「我が社がなくなると誰がどのように困るのか」「顧客の幸せ、喜びにもっと貢献するためにはどうしたらいいのか」ということです。自分(たち)の存在意義に真正面から向き合うのです。
私は、イノベーションは経営理念を追求する情熱の先に見えてくるものだと思っています。経営理念は、社会を豊かにし、人を幸せにするための自社なりの思想の結晶です。したがって経営理念を強く意識せずに本物のイノベーションは実現しないと思うのです。さらにいえば、経営理念は存在意義ですから、自身の存在意義を常に考えていなければ、経営理念に共鳴することはできないのではないでしょうか。
経営理念を改めて強く意識した上で、未来に想いを馳せ、自身の志を「私の信念」あるいは、職場の部下と議論して「我々の信念」としてA4用紙1枚程度でアウトプットします。
その中に自身の中長期スパンの理想像と、成し遂げたいチャレンジ目標が自分の言葉で入っていることが条件です。それがイノベーションへの情熱を膨らますことにつながるのです。
2.イノベーション構想アクションラーニング 【本社人材開発部門又は事業部門の施策】
ここ10年ですっかり定着したアクションラーニングですが、プログラムを抜本的に見直せば、イノベーションの創出につながる可能性を高めることができます。プログラム見直しのポイントは以下の3つです。
1.イノベーションへの感度を高める
今までの枠にとらわれない発想をするためには、いきなり自社の課題に向き合う前に、世の
中の身近なイノベーションの実例を肌で感じるべく、街に出てみるのが有効です。
身近な実例とは例えば、スターバックスコーヒーです。同社のハワード・シュルツ会長によれば、
「コーヒーは世界中で皆が飲むもの。自分はそれを空間、サービス、価格も含めてブランド化しただけ」と言っています。なぜ彼がそういう発想に至ったかを追体験するべく、様々なコーヒーショップに入って、自分で感じてみることが重要です。その上で、次のコーヒーショップのアイディアの構想を練るのです。あるいは牛丼チェーンも好材料ではないでしょうか。「速い、安い、うまい(+近い)」は登場当時のイノベーションでした。しかしそれが当たり前になった今、将来に向けてどうすべきかを考える実習が効果的です。
2.モノの見方、先入観の点検
感性のアンテナを高めた上で、次に取り組むべきは「自分のモノの見方、先入観の点検」です。私は以前、モノの見方が変わり、イノベーションが生まれる瞬間に立ち合ったことがあります。光学機器A社と異業種B社、C社の企業間交流研修でのことです。テーマは「A社の新商品コンセプト」創りでした。
感性のアンテナを高めた上で、次に取り組むべきは「自分のモノの見方、先入観の点検」です。私は以前、モノの見方が変わり、イノベーションが生まれる瞬間に立ち合ったことがあります。光学機器A社と異業種B社、C社の企業間交流研修でのことです。テーマは「A社の新商品コンセプト」創りでした。
議論が進む中で、異業種 C社から参加したメンバーの一人から「写真ってそもそも何だろう」
という問いが出されました。この問いはイノベーション創出に有効な問いかけです。
「写真とは記録だよ」
「趣味ではないか」
「芸術という一面もある」
「写真とは “思い出 ”なんじゃないかな」
「!!」
ここから議論の流れが変わります。
「思い出だから時々見て思い出したいよね。」
「でも古い写真はアルバムにしまってあって、なかなか見る機会がないよね。」
「アメリカの映画などでは家の壁にたくさん写真が貼ってあるのをよく見るよね。」
「それは、日本の住宅事情だと難しいということかも知れない。」
「写真立ての写真を電気でスライドさせたらどうだろう!名付けて『電子日めくり写真立て』!!!」
これは 15年前のことです。その後、デジタルフォトフレームが世の中に出たときに、「あっ」と驚いたのを覚えています。もちろん当時はデジタルカメラがそれほど普及していませんでしたから、商品化を急いでも失敗したかもしれません。しかし私はイノベーションが起きる一つのメカニズムがわかった気がしました。
つまり、異質な人間が集まって、同じものを見る。そうすると違うものの見方があることに気づきます。そして素朴な問いに行き着きます。「写真って何だろう」という問いは、それを仕事にしている人にとっては長らく忘れていた本質的な問いです。自分のモノの見方が、思い込みになっていないかに気づくきっかけになります。
別の機会ですが、金融業界にイノベーションを起こした起業家が、高速道路会社の管理職研修で講演したときのことです。
彼は「皆さんの仕事は “道とは何か”を考え尽くすことです。」とメッセージしていました。こうした問いが「モノの見方、先入観の点検」をし、自分の思い込みの枠を外すことにつながります。
そう考えると、ダイバーシティがイノベーションを生むという定説は、その間にあるメカニズムを飛ばした言い方のように思えてきます。つまり、同じものを見て、違いを感じ、自分の思い込みの枠を外す、というプロセスが重要なのだと思います。
研修のプログラムとしては「異業種交流」や「企業間交流」セッションを入れるべきです。その際のテーマは、ビジネスゲームやケーススタディなどで行われる事が今は多いようですが、参加企業の「新商品・サービスコンセプト立案」が、モノの見方の点検にはベストだと思います。
という問いが出されました。この問いはイノベーション創出に有効な問いかけです。
「写真とは記録だよ」
「趣味ではないか」
「芸術という一面もある」
「写真とは “思い出 ”なんじゃないかな」
「!!」
ここから議論の流れが変わります。
「思い出だから時々見て思い出したいよね。」
「でも古い写真はアルバムにしまってあって、なかなか見る機会がないよね。」
「アメリカの映画などでは家の壁にたくさん写真が貼ってあるのをよく見るよね。」
「それは、日本の住宅事情だと難しいということかも知れない。」
「写真立ての写真を電気でスライドさせたらどうだろう!名付けて『電子日めくり写真立て』!!!」
これは 15年前のことです。その後、デジタルフォトフレームが世の中に出たときに、「あっ」と驚いたのを覚えています。もちろん当時はデジタルカメラがそれほど普及していませんでしたから、商品化を急いでも失敗したかもしれません。しかし私はイノベーションが起きる一つのメカニズムがわかった気がしました。
つまり、異質な人間が集まって、同じものを見る。そうすると違うものの見方があることに気づきます。そして素朴な問いに行き着きます。「写真って何だろう」という問いは、それを仕事にしている人にとっては長らく忘れていた本質的な問いです。自分のモノの見方が、思い込みになっていないかに気づくきっかけになります。
別の機会ですが、金融業界にイノベーションを起こした起業家が、高速道路会社の管理職研修で講演したときのことです。
彼は「皆さんの仕事は “道とは何か”を考え尽くすことです。」とメッセージしていました。こうした問いが「モノの見方、先入観の点検」をし、自分の思い込みの枠を外すことにつながります。
そう考えると、ダイバーシティがイノベーションを生むという定説は、その間にあるメカニズムを飛ばした言い方のように思えてきます。つまり、同じものを見て、違いを感じ、自分の思い込みの枠を外す、というプロセスが重要なのだと思います。
研修のプログラムとしては「異業種交流」や「企業間交流」セッションを入れるべきです。その際のテーマは、ビジネスゲームやケーススタディなどで行われる事が今は多いようですが、参加企業の「新商品・サービスコンセプト立案」が、モノの見方の点検にはベストだと思います。
3.顧客の観察と洞察
3つめのポイントは「顧客の観察と洞察」です。ユーザーのニーズヒアリングというレベルではなく、とにかくしつこく、リアルに観察するのです。
例えばテーマが農機だとします。農家の方が農機具を納屋から出して、畑で作業する、そしてまた納屋にしまう。その一連の行動を映像に撮るなどしてじっくり観察します。すると、おやっと意外に思える行動が一つや二つは見つかるはずです。その行動はなぜとったのか、その時どんな感情になっているのかを考え、後日ユーザーにインタビューして検証します。同時にその方の作物作りに対する思いや苦労、夢などをたくさん聞き出すのです。ここで探るべきことは2つあります。
①「自社の製品・サービスに、お客様がどの程度満足しているのだろうか」
②「お客様も気づいていないかもしれない、満たされていないニーズは何だろうか」
こうしてお客様の徹底した観察と洞察から、ワクワクできるテーマが見つかれば、それを深堀りして、角を落とし過ぎないように注意深くプランにまとめていくのです。
3つめのポイントは「顧客の観察と洞察」です。ユーザーのニーズヒアリングというレベルではなく、とにかくしつこく、リアルに観察するのです。
例えばテーマが農機だとします。農家の方が農機具を納屋から出して、畑で作業する、そしてまた納屋にしまう。その一連の行動を映像に撮るなどしてじっくり観察します。すると、おやっと意外に思える行動が一つや二つは見つかるはずです。その行動はなぜとったのか、その時どんな感情になっているのかを考え、後日ユーザーにインタビューして検証します。同時にその方の作物作りに対する思いや苦労、夢などをたくさん聞き出すのです。ここで探るべきことは2つあります。
①「自社の製品・サービスに、お客様がどの程度満足しているのだろうか」
②「お客様も気づいていないかもしれない、満たされていないニーズは何だろうか」
こうしてお客様の徹底した観察と洞察から、ワクワクできるテーマが見つかれば、それを深堀りして、角を落とし過ぎないように注意深くプランにまとめていくのです。
3.職場の不文律改革ワークショップ 【事業部門の施策】
職場には、新しいことにチャレンジする上で障害となる、目に見えない空気が存在するものです。◇新しいことをしかけた同僚は、失敗したら飛ばされた
◇「前例がない」「以前同じようなことをして失敗した」と部長が会議で発言した
◇「自分のキャリアよりも組織への貢献だ」と目標設定で課長に言われた
◇面白いアイディアだけど、役員を説得できる自信がないし、面倒くさい
などなど、イノベーションの芽を摘む不文律が組織には多かれ少なかれあるものです。不文律は普段は特段意識することのない空気のような存在ですから、日常業務には大きな支障をきたすことはありません。しかし何か新しいことにチャレンジしようとすると、突然ムクムクと顔を表すのです。
不文律改革ワークショップは、自分たちの組織にある空気、風土を職場の皆で明らかにしていくしかけです。
進め方としては、まずはひたすら職場の空気感を言葉にします。それを 3種類の不文律(STORY/SYMBOL/SYSTEM)に整理し、その上でなぜその空気が創られたのか、ずっと消えずに残ってきたのか、という発生源と、定着してしまった経緯を探ります。
例えば、単体ビジネスから、ソリューションへの転換が課題のD社では、「これからは皆の知恵を結集して顧客に提案していこう」というメッセージが部門トップから出されました。
具体的にはクライアントごとに小さなチームを作り、ホワイトボードでブレストしながら提案書を創り上げていくチームミーティングが行われたのですが、これまでリーフレット営業に慣れきっていた職場のため、いざ議論しようとしても、議論にならないのです。
「君が考えた案はあるの?」
「ニーズをヒアリングしきれていないから議論しようがないよ!」
「ソリューションより、キーマンは誰なの?」などと、ミーティング開催者への詰問になってしまうのです。チームミーティングは暗い雰囲気となり、いつしか誰もやらなくなってしまいました。
実はD社には、昔から「自分のプランがないのにアドバイスを求めてはいけない」という空気、不文律があったのです。その発生源は、単品売り時代のカリスマ営業部長でした。その人はもう退職していました。しかしその人から薫陶を受けたマネジャーがたくさんいて、その亡霊が不文律となっていたのです。
このように職場の不文律が明確になったらどうするか。そこから先はうまい方法はありません。それは皆でその不文律に「さようなら」を言って、皆で葬るしかないのです。やめようと決めるということです。職場の皆で決めれば、その後必ず組織の中に自浄作用が働きます。もし自分が発生源だとわかったら、よほど頑なな人でない限り、ほとんどの人はそれを改めようとするものです。また、少なくとも組織の不文律に皆が注意を払うようになるため、一人ひとりの行動に明らかに変化が見えてきます。
イノベーションを阻害する職場の空気を見つける鍵は「職場の不文律」にあるのです。
繰り返しになりますが、本稿の3つの提案は、これをすればイノベーションを創出できる、というものではありません。しかし、イノベーションが起きる要件を議論するのではなく、人材開発の面から具体的なしかけをすることで、人材と組織の中にイノベーションが起きる可能性を埋め込むことができると考えています。
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