採用難の昨今、スタッフの定着は現場の死活問題。「プロに聞け」では、これまでも“給与”や“環境”という側面から定着率アップを図る方法を探ってきましたが、今回は“教育”に注目。お話を伺うのは、『店長のための採る・育てる技術』などの著書がある“商店専門のビジネスコーチ”、岡本文宏さん。大手コンビニのフランチャイズオーナー時代には、従業員の平均在籍期間でエリア平均の4倍以上を叩きだした実績の持ち主です。そんな岡本さんが伝授する、アルバイト定着率アップに有効な教育法とは?

採用したスタッフがすぐに辞めてしまう理由

第15回 “100%の教育”が実を結ぶアルバイトが辞めない仕事の教え方
ご存じのとおり、スタッフの定着率アップは店舗の売上向上には決して欠かせない要素です。私は、大手婦人服チェーンでエリアマネージャーと店長を13年間、その後に大手コンビニでオーナー職を7年間経験しました。この間、スタッフの定着がいかに多くのメリットを生むかを実感しました。

スタッフの定着率アップによるメリット
1 採用のために投じるコストが低くなる。
2 新人研修にかかる時間、人手、コストを抑えられる。
3 習熟度が高くなり、サービスのクオリティが上がる。

→ その結果、「売り上げが上がる」!

スタッフが短期間で辞めてしまう店舗の多くは、「教育」の方法を間違えています。皆さんも、ご覧になった経験はありませんか? 人のいない店舗のカウンターで、仁王立ち状態になっているショップスタッフを。または、お客さんの質問に答えられず、聞くべき人もわからずに青ざめる接客スタッフを。

仁王立ちの彼が暇をもてあましているのは、接客以外の業務をきちんと教えてもらっていないためでしょう。一方、顔面蒼白の彼は、最低限の知識だけ教えられ、「あとはOJTで」と店頭に出されたのかもしれません。

OJTとは、正式には「On the Job Training」。実際の業務を通して、必要な知識や技能を身につけさせていく教育方式のことですが、あやふやな知識しか持っていない状態では、新人はおどおどするばかりで接客らしい接客もできません。

今すべきことがわからない。常に不安を感じている。そんな気持ちで働いていても、やりがいや面白みは感じられません。だから彼らは早々に、「辞めます」と去ってしまうのです。

また、忙しい店舗では、新人のトレーナーとなるべき店長やベテランスタッフが「教えるより、自分でやったほうが早い」と考えてしまうことも。実は、これも大きな罠の一つです。とある大阪の焼肉チェーンで自社のアルバイトスタッフの退職事情を調査したところ、辞めた理由の第1位は、「きちんと教えてくれなかったから」でした。
教えぬ現場に、スタッフの定着なし。すべてをきっちり教えてこそ、大切な仕事でも安心して任せられます。さらに、それがスタッフのやる気アップにつながるという好循環につながるのです。

新人スタッフの教育前に欠かせないステップ

第15回 “100%の教育”が実を結ぶアルバイトが辞めない仕事の教え方
新人スタッフのアルバイト初日、開店前に既存スタッフを集めて3分ぐらいの自己紹介タイムをとる。終わったら、さっそく作業のやり方を教えていく――そんな現場も少なくないようですね。しかし、仕事を教える前に、重要なワンステップがあります。

それは、新人スタッフに居場所を与えること。人の入れ替わりが激しいことで知られるヘアメイク業界において、高い定着率を誇る美容院の例を挙げましょう。この店では、どんなに忙しくても、新人が入社した日には全員参加の歓迎会を開催。クラッカーを鳴らし、入社のお祝いに軽食をみんなで食べながら、おしゃべりを楽しむという習慣を作っています。

新人スタッフにとって、初日は“職場に対する第一印象が決まる大切な日”。「ここに自分の居場所があるんだ!」と感じてもらえれば、職場への愛着が生まれます。

なかでも、事務職と異なり、接客系の仕事は物理的な自分の居場所を見つけにくいので、歓迎パーティを開いたり、みんなで「入社おめでとう」「これから一緒にがんばっていこう」などと書いた色紙やカードを渡したりと、“心の居場所”を作ってあげることが大切。そうすれば、モチベーションもアップし、教育を受ける時も熱意をもって取り組んでくれるはずです。

さらに、教育前に踏んでおきたいステップがもう一つ。今後、スタッフが一丸となり、足並みをそろえて頑張るために、経営者が新人に向けて理想やビジョンを伝える時間をとるのです。私はこの時間を「レクチャータイム」と呼んでいます。

レクチャータイムで伝えること
・「店主の思い」
・「お店の歴史」
・「経営理念」
・「従業員としてあるべき姿」
・「ビジョン」など

新人スタッフが入ってきた時は、いきなり作業を教え始めるのではなく、まず売り場を離れ、静かな事務所やカフェで、お店のスタッフとして必要なマインドについて伝える時間をとりましょう。

「教育チェックシート」を作ろう!

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