林 明文 著
中央経済社 2,520円
2013年7月12日付の日経新聞に「人事の経済学的研究進む」というコラムが掲載されていた。これまでの経済学で労働者は生産要素としての役割を与えられ、伝統的な労働経済学は労働市場を分析していた。
労働経済学と同じ範疇で異なるアプローチをするのが、人事経済学である。人事経済学が扱うのは成果主義などの人事制度、報酬体系と離職率の関係、そして研修内容と従業員の生み出す付加価値との関係である。
人事にとって喉から手が出るほど手に入れたい内容だが、日本ではあまり研究が進んでいないとコラムは伝えている。東大社会科学研究所は、企業から人事データの提供を受けて研究しているが、欧米に比べ得られるデータが少ないそうだ。
このコラムを読んだ直後に、本書のタイトルを見た。たぶん同様の趣旨が書かれている本だと思った。そして予想通りの本であった。一読をすすめたい。
中央経済社 2,520円
2013年7月12日付の日経新聞に「人事の経済学的研究進む」というコラムが掲載されていた。これまでの経済学で労働者は生産要素としての役割を与えられ、伝統的な労働経済学は労働市場を分析していた。
労働経済学と同じ範疇で異なるアプローチをするのが、人事経済学である。人事経済学が扱うのは成果主義などの人事制度、報酬体系と離職率の関係、そして研修内容と従業員の生み出す付加価値との関係である。
人事にとって喉から手が出るほど手に入れたい内容だが、日本ではあまり研究が進んでいないとコラムは伝えている。東大社会科学研究所は、企業から人事データの提供を受けて研究しているが、欧米に比べ得られるデータが少ないそうだ。
このコラムを読んだ直後に、本書のタイトルを見た。たぶん同様の趣旨が書かれている本だと思った。そして予想通りの本であった。一読をすすめたい。
人事関係者は文系の人がほとんどなので、「定量分析」という言葉からまず説明しよう。
「定性分析」と対になって使われる言葉で、主として化学分野で使われる。英語では、定量分析=quantitative analysis、定性分析=qualitative analysis である。化学で、ある試料を定性分析するときはquality=質(成分)を、定量分析ではquantity=成分量を調べる。
この分析手法はアナロジーとして社会科学でも使われている。そして本書では人事に対して用いている。文章中に定性分析、定量分析という言葉を使った人事本はあるかもしれないが、タイトルに使用したのは本書が初めてだと思う。
本書の主張は過激に聞こえるかもしれないが、指摘はおおむね妥当で、日本の人事の正鵠を射ていると思う。わたしが少し驚いた指摘を「はじめに」から引用してみよう。
「人事に関する議論は抽象度が高く、合理性が低い中での議論が多すぎるのではないかと思います。」
「管理のテクノロジーが要求されているのに対して、ストレートな議論や工夫は本質的にされておらず、人事管理の基本的な考え方や社員としての人物像などに時間を費やすこと自体にこの領域の問題があると言えます。」
こういう指摘は珍しい。人事の制度や評価手法はわからないと言われることがある。多くの人にとってわかりにくい理由は、制度が玄妙、摩訶不思議、例外規定が多いからではなく、合理性を欠いているからではないだろうか。本書を読んでそう思った。
本書は9章構成で、第2章以降は人件費、人員数、人件費単価、人材流動性(退職)、生産性、評価、人材配置の定量分析と人事施策とのリンクが示され、最終章では今後の人事管理の発展に向けての著者の見解がまとめられている。しかし本稿は書評なので、詳細な内容については取り上げない。ぜひ読んでもらいたい。第1章に記された著者の問題意識のみを紹介しておく。
著者は経営管理の諸分野の中で人事管理は未発達だという。著者が経営者と話していても、人事に関しては感覚的・主観的で正確な議論が成立しないという。そして人事管理の分野で使用する言語が共通化されておらず、言葉や用語の指す意味が正確ではない。
著者によれば、人事管理に対し、どの経営者や人事担当者、コンサルタントが分析しても、同じ問題・課題が発見できなければ経営科学とは言えないと述べている。その通りだと思う。
「定性分析」と対になって使われる言葉で、主として化学分野で使われる。英語では、定量分析=quantitative analysis、定性分析=qualitative analysis である。化学で、ある試料を定性分析するときはquality=質(成分)を、定量分析ではquantity=成分量を調べる。
この分析手法はアナロジーとして社会科学でも使われている。そして本書では人事に対して用いている。文章中に定性分析、定量分析という言葉を使った人事本はあるかもしれないが、タイトルに使用したのは本書が初めてだと思う。
本書の主張は過激に聞こえるかもしれないが、指摘はおおむね妥当で、日本の人事の正鵠を射ていると思う。わたしが少し驚いた指摘を「はじめに」から引用してみよう。
「人事に関する議論は抽象度が高く、合理性が低い中での議論が多すぎるのではないかと思います。」
「管理のテクノロジーが要求されているのに対して、ストレートな議論や工夫は本質的にされておらず、人事管理の基本的な考え方や社員としての人物像などに時間を費やすこと自体にこの領域の問題があると言えます。」
こういう指摘は珍しい。人事の制度や評価手法はわからないと言われることがある。多くの人にとってわかりにくい理由は、制度が玄妙、摩訶不思議、例外規定が多いからではなく、合理性を欠いているからではないだろうか。本書を読んでそう思った。
本書は9章構成で、第2章以降は人件費、人員数、人件費単価、人材流動性(退職)、生産性、評価、人材配置の定量分析と人事施策とのリンクが示され、最終章では今後の人事管理の発展に向けての著者の見解がまとめられている。しかし本稿は書評なので、詳細な内容については取り上げない。ぜひ読んでもらいたい。第1章に記された著者の問題意識のみを紹介しておく。
著者は経営管理の諸分野の中で人事管理は未発達だという。著者が経営者と話していても、人事に関しては感覚的・主観的で正確な議論が成立しないという。そして人事管理の分野で使用する言語が共通化されておらず、言葉や用語の指す意味が正確ではない。
著者によれば、人事管理に対し、どの経営者や人事担当者、コンサルタントが分析しても、同じ問題・課題が発見できなければ経営科学とは言えないと述べている。その通りだと思う。
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