■主旨と内容

 本誌では「パワーハラスメント防止規定」を1 度取り上げています(2009年12月号)。パワハラが社会問題として顕在化してきた時期で,厚生労働省は,同年4月6日に「職場における心理的負荷評価表」を含めた「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部を改正しました。「ひどい嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」という項目を新規に追加し,心理的負荷の強度を最も強い「Ⅲ」としています。これにより,職場のいじめやパワハラ・セクハラの労災認定が,大幅に改善されると期待されました。
あれから時間は経過しましたが,2012年1 月30日,厚生労働省は「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」の報告をまとめて公表しました。そこでは,都道府県労働局の総合労働相談コーナーに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数の推移が2002年度の約6,600件から2010年度にはほぼ6倍の約3 万9,500件にまで急速に増加している事実に着目しています。まさに職場のいじめ・嫌がらせは近年,放置できない社会問題である実態を認めています。

 問題の背景には企業間競争の激化による社員への圧力の高まり,職場内コミュニケーションの希薄化や問題解決機能の低下,上司のマネジメントスキルの低下,上司と部下の価値観の相違の拡大など多様な要因が指摘されています。職場のいじめ・嫌がらせは「労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為」であり,これを受けた人の健康の悪化や休職・退職だけでなく,職場全体の仕事への意欲低下や生産性への悪影響等を及ぼしかねないと指摘しています。これに加担していなくても放置すれば,裁判で使用者責任が問われ,企業のイメージダウンにもつながりかねず,「この問題への取り組みを職場の活力につながるものと捉え,積極的に進めることが求められる」と強調しています。

 社内用の防止規定も改めて見直す時期かもしれません。

■検討内容

□目的
 パワーハラスメント規定を定める目的や主旨について触れます。「いじめ・嫌がらせ」「パワーハラスメント」の予防・解決に取り組む意義は損失や訴訟の回避にとどまらず,仕事に対する意欲や職場全体の生産性にも貢献し,職場の活力につながるものである,と両面の立場で打ち出します。

□定義
 行政が示した職場のパワーハラスメントの定義は以下の通り。「職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

 ※上司から部下に行われるものだけでなく,先輩・後輩間や同僚間,さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる」

 優位性とは職場における役職の上下関係ではなく,当人の作業環境における立場や能力を指す,という点は重要です。例えば,部下が上司に対して客観的に何らかの優れた能力があり,これを故意に利用した場合であれば,上司に対するパワーハラスメント行為として認められると解釈できます。また,複数の部下から上司へのパワハラもありえるということです。同僚が同僚に行ういじめも同じ仕組みです。この部分を規定に盛り込む必要があります。

□パワハラの類型化
 先の報告書では,職場のパワーハラスメントの行為類型を大きく6つに分類しています。
 ①身体的な攻撃,②精神的な攻撃,③人間関係からの切り離し,④過大な要求,⑤過小な要求,⑥個の侵害。ただし,以上は職場のパワーハラスメントのすべてを網羅したものではなく,これ以外は問題ないという意味ではない点に留意が必要です。会社ごとに個別のケースを精査することが重要です。規定に具体的な事例を盛り込むとより明確になりますが,半面,限定的に解釈されるという欠点も否めませんので,例示にとどめておくのがいいでしょう。

 また,職場のパワーハラスメントの判断の難しさは,業務上の適正な指導との線引きです。先の報告書でも何が「業務の適正な範囲を超えるか」について次のように述べています。

「業種や企業文化の影響を受け,また,具体的な判断については,行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため,各企業・職場で認識をそろえ,その範囲を明確にする取組を行うことが望ましい」

 つまり各組織内の労使のプロジェクトチームで協議して具体的な内容を規定化するのも一考です。

□防止策
 会社としていかにパワハラ予防を実行するか,具体的な取り組みを明確化します。
 ①トップのメッセージ,②ルールの明確化,③実態把握,④教育,⑤周知,に整理して記述します。

□対応策
 パワーハラスメントに関する相談窓口や起こってしまった際の対応策について規定化します。①相談や解決の場,②再発防止策,について記述します。

□全社員への教育の規定化
 職場のパワハラは業務中に発生するものですが,業務の範囲内か,範囲外かの垣根が分かりにくいのも事実です。今回の報告でもその部分は明確にはなっていません。ポイントは部下も上司も人権や人格を尊重することが重要だと認識させること。さらに社員全員に「叱るとパワハラの違い」を明確に教育すること。規定だけに頼ると上司が部下を叱れなくなるリスクが出てきますので要注意です。

職場のパワーハラスメント防止規定

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