ビジネスにおける「リソース」とは、ヒト、モノ、カネ、情報、時間、知的財産といった企業の経営に直結する資源を指す。人材配置や人材育成などの人事戦略の基盤となるため、理解を深めておきたいキーワードだ。本稿では、「リソース」の定義や種類、リソース管理の重要性やメリットについてだけでなく、リソース管理の導入手順やポイントについても解説していく。
「リソース」とは? リソース管理の重要性や企業における導入手順を解説

「リソース」とは

「リソース」とは、企業経営や業務の達成に必要な人材や物資、資金、時間、情報といったすべての要素のことである。企業経営の根幹を成す要素であり、その適切な管理と配分が組織の健全性と成長に直結する。

●意味と類語

「リソース(resource)」は日本語で「資源」と訳し、生活や産業において材料や要素となるものを指す。ビジネスシーンでは、「」、「企業資源」などが類語として挙げられる。

またIT分野でのリソースは、コンピューターのハードウェアやソフトウェアを稼働させるためのメモリ容量やCPUの処理速度、ハードディスク容量などを意味する。

●「ソース」、「アセット」との違い

「リソース」は「ソース(sauce)」や「アセット(asset)」と混同されることがあるが、それぞれ意味が異なるので注意が必要だ。「ソース」とは、情報や材料の「出所」を意味する。また「アセット」は「資産」と訳し、所持しているだけで価値があるものを限定して指す。例えば、「金銭」、「土地」、「証券」などだ。一方で「リソース」は活用することで価値を生み出すものを指している。

「リソース」の種類

企業が管理すべき「リソース」の種類を紹介しよう。主に以下が挙げられる。

●ヒューマンリソース

「ヒューマンリソース」は、組織の「人的資源」のことだ。「人的リソース」とも言う。これは、単なる労働力としてだけでなく、知識やスキル、経験、創造性といった人材の総合的な価値を意味する。効果的にヒューマンリソースを管理することによって、適材適所の人員配置や継続的な人材育成、モチベーション管理が可能となり、企業の生産性と競争力を高めることにつながる。ただし、近年は「ヒューマンキャピタル(人的資本)」という、人材の知識や能力などを「資本」とみなし、投資によってその資質を引き出すことで企業の成長につなげるという経営手法が広がっている。これを「人的資本経営」と言う。

●経営リソース

「経営リソース」は、企業経営に必要な全ての資源を意味する。主にヒト(人材)、モノ(備品や設備)、カネ(資金)、情報、時間、知的財産の6つだ。経営の基盤となるリソースを有効活用することで、企業の持続的な成長と収益性向上につながる。

●外部リソース

「外部リソース」とは、外部から調達可能な資源を指す。内部リソースが不足している際に外部リソースに頼ることで、従業員の負担軽減や業務効率化を図れるため、経営において重要な要素である。

「リソース」の使い方と例文

「リソース」という言葉の代表的な使い方や例文を解説していく。

●リソースを割く

「リソースを割く」とは、特定の目的や業務に対して、必要な資源を割り当てることを意味する。

【例文】
・新規事業の立ち上げに、人員とコストのリソースを割くことを決定した
・開発力強化のため、来年度の予算からより多くのリソースを割く方針を打ち出す

●リソース不足

「リソース不足」は、必要な資源が十分に確保できていない状態を指す。

【例文】
・急激な受注増加によって、生産部門でリソース不足が深刻化し、納期遅れのリスクが高まっている
・人材のリソース不足を解消するため、積極的に採用活動を進めていこう

●リソース管理

「リソース管理」とは、組織が保有する様々な資源を効率的に配分し、最大限に活用するために、その資源を管理することを言う。

【例文】
・効果的なリソース管理によって、遅延リスクが大幅に削減され、顧客満足度が向上した
・人事部門は、生産性向上を目指し、より戦略的なリソース管理を模索している

リソース管理の重要性

企業経営においてリソース管理は、生産性や競争力に直結する重要な要素だ。当然ながら、どの企業においてもリソースが無限にあるわけではない。その限られたリソースを最大限に活用することが、目標達成に近づく最大の要因となると言っても過言ではない。リソースの無駄を削減し、効率的にリソースを分配することで、市場動向や環境変化に迅速に対応でき、財務パフォーマンスの改善やイノベーションの促進につながるからだ。

一方、リソース管理が正しく行われていなければ、深刻な悪影響が生じる恐れもある。例えば、従業員の過剰労働やスケジュールの遅延、品質低下、財務状況の悪化、市場機会の逸失などだ。短期的な生産性の低下だけでなく、長期的な成長や存続に影響を及ぼす。そのためリソース管理は現代の経営において不可欠と言える。

企業がリソース管理するメリット

企業がリソース管理を適切に行うことで得られるメリットを5つ解説していこう。

●全体像が把握できる

企業が持つ全ての資源の現状と分配状況を可視化することで、組織全体の「リソース」の利用効率を把握することができる。全体像を把握できれば、人員不足の部門に人員を配置したり、成長事業に積極的に投資したりするなど、組織の効率性と生産性の向上を図りやすくなる。

●連携を取りやすくなる

「リソース」を管理することは、組織内の連携強化にもつながる。各部門間でリソースの状況を共有することで、部門を横断した協力体制が構築しやすくなるからだ。仮に、ある部門で一時的に人材が不足していても、他部門からのサポートを迅速に要請しやすい。

●適切な人員配置ができる

各従業員のスキル、経験、稼働状況を正確に把握できるようになると、その情報を基に、業務に応じた最適な人材を配置しやすくなる。適材適所の人員配置は、業務効率の向上だけでなく、従業員の能力開発やエンゲージメント向上にも寄与する。さらに過剰労働や人材の偏りを防ぎ、組織全体のワークライフバランスの改善にもつながる。

●現実的なスケジュールを立てられる

「リソース」を管理していれば、事業を進めるうえで必要な人員や時間、資金などのコストを把握しやすい。そのため、従業員に過度な負担を強いるような無理なスケジューリングを避けることができ、納期遅延や品質低下のリスクを軽減できる。

●トラブルに対処しやすい

リソース管理体制がしっかりしていると、予期せぬトラブルや緊急事態に対処しやすい。「リソース」の余力や代替の可能性が把握できているので、急な欠員や予算の変更、設備の故障などが起きても迅速に対応できるのだ。また問題となりそうなリスクを予測し、事前に対策を講じやすくなる。

リソース管理の方法

リソース管理はどう取り組んでいけばいいのか。人事が主に担うヒト(人材)のマネジメントの他、モノ、カネ、情報、時間、知的財産の管理方法を解説していこう。

●ヒトのマネジメント方法

ヒト(人材)のマネジメントは、企業にとって最も重視すべき項目と言える。すべてのサービスや商品はヒトの創造性やイノベーションによって生み出されるからだ。人材を有効的に活用し、育成することで、企業は継続的な成長を図ることができる。ただし、ヒトのマネジメントには様々な方法がある。採用、退職、育成の他、モチベーションやエンゲージメントを促進することも生産性向上には欠かせない。以下がヒトのマネジメントにおける主な方法だ。

・人材採用:自社に最適な人材を見つけ、選考し、採用するプロセス
・人員配置:適材適所に人員を配置し、最適なパフォーマンスを引き出す
・人材育成:従業員のスキルや知識を向上させるための教育や研修を実施する
・評価制度:従業員のパフォーマンスを評価し、フィードバックする
・報酬・福利厚生:給与やボーナス、福利厚生を通じて従業員のモチベーションを高める
・キャリア開発:従業員個々のキャリアパスに沿って、成長機会を与える
・労働環境の整備:健康や安全、職場環境の改善など、従業員が安心して働ける環境を提供する
・パフォーマンス管理:目標設定、進捗確認、フィードバックを通じて従業員の業績を継続的に改善する
・リーダーシップ開発:将来のリーダーを育成し、リーダーシップスキルを強化するためのプログラムを実施する
・従業員エンゲージメントの管理:従業員のエンゲージメントを高めるための施策を実施する
・労務管理:労働時間、休暇、労働条件の管理や労働法の遵守を確保する

●モノのマネジメント方法

モノのマネジメントは、備品や設備の導入や運用、自社商品の在庫管理、さらにオフィスや社用車の管理などが含まれる。モノを管理する際には、コスト削減と品質向上につながるよう、初期投資だけでなくランニングコストや処分時にかかる費用も考慮する必要がある。費用を抑えるためには、中古品の購入やレンタルサービスの利用も検討すると良いだろう。以下がモノのマネジメントにおける主な方法だ。

・在庫管理システムの導入
・設備の定期的なメンテナンス
・生産プロセスの最適化
・品質管理システムの構築

●カネのマネジメント方法

カネのマネジメントは、組織の持続的成長と経営の安定化に直結するため健全な運用をしていかなければいけない。収入と支出を計画的に行い、キャッシュフローを管理する。各種税金の対策や、為替変動や金利変動に対するリスクにも対処する必要がある。カネのマネジメントにおける主な方法は以下だ。

・予算策定と管理
・キャッシュフローの管理
・投資判断と資本配分
・財務報告の透明性確保

●情報のマネジメント方法

情報のマネジメントは、デジタル技術が発展する現代において重要度が高まっている。ノウハウやナレッジを社内で共有することで生産性向上やイノベーションの創出につながる。また社内情報を蓄積し、必要な時に活用できるようなシステムを構築することで迅速な意思決定がしやすくなる。主なマネジメント方法は以下である。

・情報システムの構築と運用
・データセキュリティとプライバシー保護
・ナレッジマネジメントシステムの導入
・ビッグデータ分析と活用
・情報共有プラットフォームの整備

●時間のマネジメント方法

時間のマネジメントは、組織全体の生産性効率を向上させるために欠かせない。限られた時間資源を最大限に活用するには、業務プロセスの仕組み化や会議の効率化などが代表的な取り組みだ。タスク管理や業務迅速化のための様々なITツールを導入することも検討したい。従業員の時間管理スキル向上のための研修を取り入れて、会社全体の効率化の意識を高めるのも良いだろう。

・事業の優先順位づけと時間配分の最適化
・効率的な会議の運営
・タスク管理などのITツールの活用
・柔軟な勤務形態の導入
・従業員の時間管理スキル向上のための研修

●知的財産のマネジメント方法

知的財産のマネジメントは、企業価値を高めるだけでなく、事業の創造性や独自性を維持するためにも重要だ。特許権、商標権、著作権、意匠権などを法的に保護し、継続的に事業に活かしていく。一方でトラブルが発生しないよう、他社の知的財産権を尊重しつつ、自社の権利を守るための監視も行う。マネジメント方法としては以下が挙がる。

・商標権、著作権、意匠権などの保護
・営業秘密の保護
・ライセンス管理
・知的財産の価値評価と活用

企業のリソース管理の導入手順

リソース管理を導入するためには、以下のような手順で行うと良い。

(1)「リソース」の状況を確認する

まず、自社が保有する「リソース」の現状を正確に把握することが重要である。ヒト(人材)、モノ(設備)、カネ(資金)、情報など、各種リソースの量と質、配分状況を詳細に調査し、データ化する。この過程で、リソースの過不足や非効率な利用状況が明らかになることが多い。

(2)現状とゴールを設定する

「リソース」の現状把握に基づき、組織の戦略目標と照らし合わせて、理想的なリソース配分の状態(ゴール)を設定する。現状とゴールのギャップを分析することで、リソース管理における具体的な課題が明確になる。

(3)課題や問題を把握する

ギャップ分析から抽出された課題や問題点を整理し、優先順位をつける。例えば、特定部門での人材不足、設備の老朽化、情報システムの非効率性など、具体的な問題点を特定する。これらの課題が組織のパフォーマンスにどのような影響を与えているかを定量的・定性的に評価することも重要だ。

(4)分析・対策を講じる

特定された課題に対して、具体的な対策を立案する。この時、費用対効果や実現可能性を十分に考慮する必要がある。対策例としては、人材の再配置や育成プログラムの導入、設備投資計画の策定、業務プロセスの改善などが挙げられる。各対策には、明確な目標と評価指標を設定することが望ましい。

(5)対策を繰り返す

立案した対策を実行し、その効果を定期的に測定・評価する。評価結果に基づき、必要に応じて対策の修正や新たな施策の導入を行う。リソース管理は継続的な改善プロセスであり、PDCAサイクルを繰り返すことで、組織の「リソース」活用効率を段階的に向上させることができる。

リソース管理のポイント

リソース管理を正しく進めていくためには、以下のポイントに留意したい。

●社内規定を定める

リソース管理に関する社内規定を明確化し、全社で共有することが重要だ。リソースの定義に始まり、管理責任者の設定、配分基準、評価方法などを明文化することで、一貫性のあるリソース管理が可能となり、部門間の公平性も確保できる。

●社員の特性を把握する

効果的に人材を活用するためには、社員個々の能力、経験、適性といった特性を正確に把握しておく必要がある。定期的なスキル評価やキャリア面談を実施し、社員のポテンシャルや希望を理解することで、適材適所の人員配置と効果的な人材育成が可能となる。

●対策の優先順位をつける

リソース管理における課題は多岐にわたるため、対策の優先順位をつけておきたい。企業目標への貢献度、緊急性、実現可能性などを考慮し、最も効果的な施策から順に取り組むことで、限られたリソースを最大限に活用できる。

●ツールや外部業者で効率化を図る

リソース管理の効率化と高度化を図るため、専門的なツールや外部業者の活用も検討する価値がある。例えば、ITツールの導入により、リソースの可視化と効果的な配分がしやすくなる。さらに、ITや人材育成といった特定の分野において外部の専門業者を活用することで、組織内のリソース不足を補い、専門性の高いサービスを取り入れることができる。ただし、ツールや外部業者は慎重に選ぶ必要があり、事業の特性や目標との適合性を十分に検討したい。

まとめ

リソース管理は、企業の持続的な成長や競争力の強化において不可欠な戦略と言える。正しくリソース管理に取り組むためには、企業全体の協力や継続的な改善努力が必要だ。人事担当者やマネジメント層は、リソース管理を単なる効率化のツールと考えるのではなく、企業の成長基盤として捉えておくことが重要だ。今後はデジタル化やグローバル化がますます進み、リソースも多様化していくことが予想されるため、企業の目的に合わせたリソース管理体制を構築していくことが求められる。特に人事担当者としては、社員の能力や希望を正確に把握し、適材適所の配置や人材育成に注力していきたい。

よくある質問

●「リソースが足りない」とはどういう意味?

「リソースが足りない」とは、必要な資源が十分に確保できていない状態を指す。ビジネスシーンでは、「新規事業の立ち上げは魅力的だが、現状ではリソースが足りないため、実行は難しい」、「納期を守るためには、開発チームにリソースが足りないため、外部の協力を検討する必要がある」などと使う。

●社内の「リソース」とは?

社内の「リソース」とは、経営に必要な全ての資源を意味する。主にヒト(人材)、モノ(備品や設備)、カネ(資金)、情報、時間、知的財産の6つ。経営の基盤となるリソースを有効活用することで、企業の持続的な成長と収益性向上につながる。
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