前刀 禎明 著
アスコム 1,470円
本書は「セルフ・イノベーション」を説いた本である。「セルフ・イノベーション」を直訳すると「自己革新」だが、著者によれば「誰の真似もしない」、「過去の自分ですら真似ない」のがセルフ・イノベーションだ。
アスコム 1,470円
本書は「セルフ・イノベーション」を説いた本である。「セルフ・イノベーション」を直訳すると「自己革新」だが、著者によれば「誰の真似もしない」、「過去の自分ですら真似ない」のがセルフ・イノベーションだ。
かつての日本企業はセルフ・イノベーションし、世界から賞讃される製品を提供していた。その典型がソニー。過去の成功体験を真似ず、独創的な製品を開発していた。そして、アップルの故スティーブ・ジョブズ氏はそんなソニーを尊敬していた。
1987年のウォークマンのCMには耳にヘッドホンをつけたニホンザルが登場した。そしてそのキャッチコピーは「音が進化した。ヒトはどうですか?」だった。機能を訴求していない。
しかし、その後の電機製品の開発は機能を競いあうものになった。その典型が携帯電話だ。ワンセグ、おサイフと機能を増やし、「多様なニーズ」に応えようと多機種を送り出した。お子さま向け、高齢者向け、多忙ビジネスマン向けと使用者に合わせた携帯電話を開発した。
しかし、iPhoneが発売されると、日本のこれまでの携帯電話は駆逐されていった。気付いている人は意外に少ないと思うが、iPhoneは初代から最新のiPhone5まで進化してきたが、ストレージ容量の違いがあるだけで、その時々の機種としては1つしかない。宣伝で高機能を謳っているわけでもないし、マニュアルも存在しない。
さて本書は前刀禎明氏の処女作だ。前刀氏を知らない人もいると思うので、経歴を紹介しておこう。ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLを経て、1999年にライブドアを創業。ライブドアは2002年に民事再生法を申請し倒産。事業は堀江貴文氏のオン・ザ・エッジ(後のライブドア)に譲渡。
2004年に日本市場で低迷していたAppleを立て直すべく、スティーブ・ジョブズ氏に託され、米国Appleマーケティング担当ヴァイス・プレジデント(副社長)に就任。同年にApple日本法人代表取締役を兼務。独自のマーケティング手法でiPod miniを大ヒットさせた後、2006年に退任した。
2007年に、ビジネスパーソンから子どもまで「明日のジョブズを輩出する」ための人材教育会社を立ち上げ、今日に至っている。
華やかなキャリアだ。とくに日本の「ものづくり」産業の衰退、ネットベンチャーブームの挫折、当事者としてAppleの日本におけるV字回復を知る数少ない人物だ。またジョブズ氏と直に会話した日本人は少ないはずだ。
本書にはさまざまなエピソードが紹介されている。中でもサムスンとNECを比較した箇所が興味深い。原文を引用しよう。「アップルがiPhoneを発表した1年後、NECの役員は、『iPhoneなんてニッチな商品。脅威ではない』と公言していました」。ところが「一方でiPhoneの発売に対し、幹部が『頭を殴られたような衝撃だ』と表現していた会社がありました。サムスンです」。
ちなみにiPhoneの発表は2007年1月だから「1年後」とは2008年だろう。そして初代iPhoneがアメリカで発売されたのは2007年6月であり、日本では2008年7月に発売されている。それから4年しか経っていないが、携帯電話市場は様変わりした。社会も人の生き方もiPhoneによって変わったと思う。
衝撃を受けたサムスンは、その後「外見はまるでiPhone」と揶揄されながら、スマートフォン「GALAXY」を開発し続け、現在はAppleのシェアを抜いている。
NECの携帯電話事業についてWebで確認したところ11月末時点で、docomo向けが9種類、ソフトバンク向けが4種類、au向けが3機種だった。それぞれに豊富なカラーバリエーションがある。iPhoneのカラーはブラックとホワイトだけである。
もうひとつエピソードを紹介しよう。著者がパナソニックの講演に招かれたときのこと。講演テーマは「自己革新と新たな価値創造」。その時著者はパナソニック製のドアホンの真正面に「Panasonic」というロゴと品番が印刷されていることに気付いた。来客にとって最初の入り口となる玄関でいちばん目立つドアホンになぜ社名と品番を入れているのか?
社員に疑問を投げかけたところ驚くべき答えが返ってきた。「そこにロゴと品番を入れることが、社内規程で決まっているんですよ」。社内規程が思考を停止させているわけだ。
この部分を読んで気付いたが、日本で発売されているスマートフォンや携帯電話にはキャリア名や製品シリーズ名が前面に印字されている。そういう慣行があるのだろう。しかしiPhoneには何もない。慣行に囚われない珍しいデザインだ。
本書の後半には「イノベーションのために捨て去る8つのこと」、「セルフ・イノベーションを起こす11の決意」「感性を磨く7つのトレーニング」が語られている。その内容は多岐にわたるが、要約すると、社内事情などの慣行に流さるな、惰性で考えるな、マーケティングの数字やもっともらしいロジカルシンキングに欺されるな、そして感性を磨け、というものだ。
かつての日本企業はイノベーションの気概を持っていた。ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書には「他社ノ追随ヲ絶対許サザル境地ニ独自ナル製品化ヲ行ウ」と書かれていた。誰にも真似できないものを創る、絶対に人の真似なんかしない、ということだ。
現代の日本では閉塞感が強い。その原因のひとつは、企業も政治も慣行と惰性に流され、時間を空費しているからではないか? 本書を読み終えてそう思った。
1987年のウォークマンのCMには耳にヘッドホンをつけたニホンザルが登場した。そしてそのキャッチコピーは「音が進化した。ヒトはどうですか?」だった。機能を訴求していない。
しかし、その後の電機製品の開発は機能を競いあうものになった。その典型が携帯電話だ。ワンセグ、おサイフと機能を増やし、「多様なニーズ」に応えようと多機種を送り出した。お子さま向け、高齢者向け、多忙ビジネスマン向けと使用者に合わせた携帯電話を開発した。
しかし、iPhoneが発売されると、日本のこれまでの携帯電話は駆逐されていった。気付いている人は意外に少ないと思うが、iPhoneは初代から最新のiPhone5まで進化してきたが、ストレージ容量の違いがあるだけで、その時々の機種としては1つしかない。宣伝で高機能を謳っているわけでもないし、マニュアルも存在しない。
さて本書は前刀禎明氏の処女作だ。前刀氏を知らない人もいると思うので、経歴を紹介しておこう。ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLを経て、1999年にライブドアを創業。ライブドアは2002年に民事再生法を申請し倒産。事業は堀江貴文氏のオン・ザ・エッジ(後のライブドア)に譲渡。
2004年に日本市場で低迷していたAppleを立て直すべく、スティーブ・ジョブズ氏に託され、米国Appleマーケティング担当ヴァイス・プレジデント(副社長)に就任。同年にApple日本法人代表取締役を兼務。独自のマーケティング手法でiPod miniを大ヒットさせた後、2006年に退任した。
2007年に、ビジネスパーソンから子どもまで「明日のジョブズを輩出する」ための人材教育会社を立ち上げ、今日に至っている。
華やかなキャリアだ。とくに日本の「ものづくり」産業の衰退、ネットベンチャーブームの挫折、当事者としてAppleの日本におけるV字回復を知る数少ない人物だ。またジョブズ氏と直に会話した日本人は少ないはずだ。
本書にはさまざまなエピソードが紹介されている。中でもサムスンとNECを比較した箇所が興味深い。原文を引用しよう。「アップルがiPhoneを発表した1年後、NECの役員は、『iPhoneなんてニッチな商品。脅威ではない』と公言していました」。ところが「一方でiPhoneの発売に対し、幹部が『頭を殴られたような衝撃だ』と表現していた会社がありました。サムスンです」。
ちなみにiPhoneの発表は2007年1月だから「1年後」とは2008年だろう。そして初代iPhoneがアメリカで発売されたのは2007年6月であり、日本では2008年7月に発売されている。それから4年しか経っていないが、携帯電話市場は様変わりした。社会も人の生き方もiPhoneによって変わったと思う。
衝撃を受けたサムスンは、その後「外見はまるでiPhone」と揶揄されながら、スマートフォン「GALAXY」を開発し続け、現在はAppleのシェアを抜いている。
NECの携帯電話事業についてWebで確認したところ11月末時点で、docomo向けが9種類、ソフトバンク向けが4種類、au向けが3機種だった。それぞれに豊富なカラーバリエーションがある。iPhoneのカラーはブラックとホワイトだけである。
もうひとつエピソードを紹介しよう。著者がパナソニックの講演に招かれたときのこと。講演テーマは「自己革新と新たな価値創造」。その時著者はパナソニック製のドアホンの真正面に「Panasonic」というロゴと品番が印刷されていることに気付いた。来客にとって最初の入り口となる玄関でいちばん目立つドアホンになぜ社名と品番を入れているのか?
社員に疑問を投げかけたところ驚くべき答えが返ってきた。「そこにロゴと品番を入れることが、社内規程で決まっているんですよ」。社内規程が思考を停止させているわけだ。
この部分を読んで気付いたが、日本で発売されているスマートフォンや携帯電話にはキャリア名や製品シリーズ名が前面に印字されている。そういう慣行があるのだろう。しかしiPhoneには何もない。慣行に囚われない珍しいデザインだ。
本書の後半には「イノベーションのために捨て去る8つのこと」、「セルフ・イノベーションを起こす11の決意」「感性を磨く7つのトレーニング」が語られている。その内容は多岐にわたるが、要約すると、社内事情などの慣行に流さるな、惰性で考えるな、マーケティングの数字やもっともらしいロジカルシンキングに欺されるな、そして感性を磨け、というものだ。
かつての日本企業はイノベーションの気概を持っていた。ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書には「他社ノ追随ヲ絶対許サザル境地ニ独自ナル製品化ヲ行ウ」と書かれていた。誰にも真似できないものを創る、絶対に人の真似なんかしない、ということだ。
現代の日本では閉塞感が強い。その原因のひとつは、企業も政治も慣行と惰性に流され、時間を空費しているからではないか? 本書を読み終えてそう思った。
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