田宮 寛之 著
東洋経済新報社 1470円
おもしろい切り口の就活本が刊行された。著者の田宮氏は経済記者だ。就活本の著者の多くは、就職・採用業界の内部に職業を持ち、就活やキャリアを論じるときに業界常識から説く人が多く、どの就活本を読んでも内容は変わり映えしない。何も知らない学生にとっては新しい知識かもしれないが、大人にとっては退屈だ。
東洋経済新報社 1470円
おもしろい切り口の就活本が刊行された。著者の田宮氏は経済記者だ。就活本の著者の多くは、就職・採用業界の内部に職業を持ち、就活やキャリアを論じるときに業界常識から説く人が多く、どの就活本を読んでも内容は変わり映えしない。何も知らない学生にとっては新しい知識かもしれないが、大人にとっては退屈だ。
本書はそんな就活本とはまったく異なっている。経済記者らしく冷静な視点で就活を見つめ、業界常識に縛られていない。
本書が想定する読者は就活生の親だ。「親子就活」という言葉は最近になって使われ始めた用語だが、就活生の親の平均年齢は51歳であり、就職活動をしたのは1980年代。その経験は現在の就活には使えない。
そこで本書は親に具体的なアドバイスをしている。親の勘違い、親が子どもにしてやれること、親が言ってはいけないこと、行き詰まった就活生が相談できるところ、今どきの就活、女子学生の親、最近の就活環境、今後の成長業界、親の企業研究と内容は豊富だ。項目は80あるが、すべて見開きなので読みやすい。
子どもの就活への過剰介入を戒める一方で、とにかく正社員として就職させることをすすめている。子どもに「今年ダメだったら就職浪人してもいいよ」と甘やかすのは厳禁だ。卒業後の3年は新卒扱いで応募できる企業は多いが、既卒者を新卒扱いで採用した企業はとても少ない。内定なしで卒業してしまうと、正社員になれる可能性はとても低くなる。
わたしも就職・採用業界の内部の人間であり、業界常識に毒されている。そんなわたしがなるほどと思う記述がいくつかある。まず就活塾についての指摘が鋭い。著者は就活塾について「若い講師が多いことに驚きます」と書いている。
就活塾は1990年代からあり、当時は就職塾と呼ばれていた。その頃は元人事マンや就職支援会社に在籍した人が講師を務めていた。昨今は就職難を受けて多くの就活塾が設立されている。その講師が若く、経験が少ない人が講師を務めている。田宮氏は断言を避け、就活塾を使うのは「リスクが大きい」と書いているが、金儲け目的の就活塾が多いのは事実だろう。
就職人気企業ランキングに対する記述も新鮮だ。ランキングは就職ナビ運営会社が年明けの2月頃に発表する恒例行事だ。大新聞もランキングを報道するので、影響力が大きい。しかし田宮氏は「学生という素人」が選んだ就職人企業ランキングに懐疑的な見解を示した上で、「ビジネスパーソンという玄人の目を活用して企業選びをする」ことを推奨している。具体的な方法は、インテリジェンスが発表している「転職人気企業ランキング」を参考にするというものだ。
この指摘ははじめて聞いた。毎年、漫然と人気ランキングの顔ぶれを見ていたが、言われてみれば、素人が投票した人気ランキングに深い意味はないだろう。人気イメージランキングに近いと言っていいかもしれない。
著者は『会社四季報』と『就職四季報』の使い方について丁寧に説明している。売上高、営業利益、海外などの説明もあるが、「設立年数の割に社員の平均年齢が低い企業」や「3年後離職率が3割を超える会社」に注意するなどの実践チェックポイントも書かれている。
経済記者の面目躍如なのは、第8章「ズバリ、今後の成長産業はココだ!」。成長性が高い産業を取り上げて解説している。将来に必ず起こる食糧危機を見越して、農業機械、農薬、化学肥料の3業界が有望としている。殺虫剤メーカーの将来性についての言及もある。
著者は水ビジネスにも注目している。海水を淡水化するフィルターメーカー、海水を吸い上げて、淡水化フィルターに通すポンプメーカー、海水でも錆びないチタンを製造するメーカー、そして淡水化プラントの建設、運営を仕切る総合商社が、水ビジネスのプレーヤー企業だ。
就活本のほとんどの著者はこういう視点を持っておらず、このような内容が書かれた就活本はないと思う。しかし就活生や親へのアドバイスにはこのような指針が必要なのではないかと思う。なぜなら終身雇用が壊れかけているとはいえ、現在の就活生は卒業後に50年近く働くことになるだから。
本書が想定する読者は就活生の親だ。「親子就活」という言葉は最近になって使われ始めた用語だが、就活生の親の平均年齢は51歳であり、就職活動をしたのは1980年代。その経験は現在の就活には使えない。
そこで本書は親に具体的なアドバイスをしている。親の勘違い、親が子どもにしてやれること、親が言ってはいけないこと、行き詰まった就活生が相談できるところ、今どきの就活、女子学生の親、最近の就活環境、今後の成長業界、親の企業研究と内容は豊富だ。項目は80あるが、すべて見開きなので読みやすい。
子どもの就活への過剰介入を戒める一方で、とにかく正社員として就職させることをすすめている。子どもに「今年ダメだったら就職浪人してもいいよ」と甘やかすのは厳禁だ。卒業後の3年は新卒扱いで応募できる企業は多いが、既卒者を新卒扱いで採用した企業はとても少ない。内定なしで卒業してしまうと、正社員になれる可能性はとても低くなる。
わたしも就職・採用業界の内部の人間であり、業界常識に毒されている。そんなわたしがなるほどと思う記述がいくつかある。まず就活塾についての指摘が鋭い。著者は就活塾について「若い講師が多いことに驚きます」と書いている。
就活塾は1990年代からあり、当時は就職塾と呼ばれていた。その頃は元人事マンや就職支援会社に在籍した人が講師を務めていた。昨今は就職難を受けて多くの就活塾が設立されている。その講師が若く、経験が少ない人が講師を務めている。田宮氏は断言を避け、就活塾を使うのは「リスクが大きい」と書いているが、金儲け目的の就活塾が多いのは事実だろう。
就職人気企業ランキングに対する記述も新鮮だ。ランキングは就職ナビ運営会社が年明けの2月頃に発表する恒例行事だ。大新聞もランキングを報道するので、影響力が大きい。しかし田宮氏は「学生という素人」が選んだ就職人企業ランキングに懐疑的な見解を示した上で、「ビジネスパーソンという玄人の目を活用して企業選びをする」ことを推奨している。具体的な方法は、インテリジェンスが発表している「転職人気企業ランキング」を参考にするというものだ。
この指摘ははじめて聞いた。毎年、漫然と人気ランキングの顔ぶれを見ていたが、言われてみれば、素人が投票した人気ランキングに深い意味はないだろう。人気イメージランキングに近いと言っていいかもしれない。
著者は『会社四季報』と『就職四季報』の使い方について丁寧に説明している。売上高、営業利益、海外などの説明もあるが、「設立年数の割に社員の平均年齢が低い企業」や「3年後離職率が3割を超える会社」に注意するなどの実践チェックポイントも書かれている。
経済記者の面目躍如なのは、第8章「ズバリ、今後の成長産業はココだ!」。成長性が高い産業を取り上げて解説している。将来に必ず起こる食糧危機を見越して、農業機械、農薬、化学肥料の3業界が有望としている。殺虫剤メーカーの将来性についての言及もある。
著者は水ビジネスにも注目している。海水を淡水化するフィルターメーカー、海水を吸い上げて、淡水化フィルターに通すポンプメーカー、海水でも錆びないチタンを製造するメーカー、そして淡水化プラントの建設、運営を仕切る総合商社が、水ビジネスのプレーヤー企業だ。
就活本のほとんどの著者はこういう視点を持っておらず、このような内容が書かれた就活本はないと思う。しかし就活生や親へのアドバイスにはこのような指針が必要なのではないかと思う。なぜなら終身雇用が壊れかけているとはいえ、現在の就活生は卒業後に50年近く働くことになるだから。
- 1