森 和昭・田中良和 著
日経BPマーケティング 1,470円
本書は本編の4つの章、そして序章とあとがきで構成されている。内容は3つに分かれ、第3章の途中までは日本の人事を歴史に描き、欧米と比較しながら論じている。
わたしは序章から第3章までを興味深く読んだ。日本の採用システム、人材育成、人事評価について論じており、欧米企業との比較があるので、日本の人事システムが特異であることがよくわかる。
日経BPマーケティング 1,470円
本書は本編の4つの章、そして序章とあとがきで構成されている。内容は3つに分かれ、第3章の途中までは日本の人事を歴史に描き、欧米と比較しながら論じている。
わたしは序章から第3章までを興味深く読んだ。日本の採用システム、人材育成、人事評価について論じており、欧米企業との比較があるので、日本の人事システムが特異であることがよくわかる。
ガラパゴスと言ってもいいし、ユニークと評価してもいいが、いずれにしても欧米の人事制度とはまったく異なっていた。そしていまも日本の人事は異なったままである。欧米とは異なる人事制度のもとで日本の競争力は過去20年間に低下してきた。
競争力の指標のひとつに「IMD世界競争力ランキング」があり、1990年から1992年まで日本はトップだった。その後順位を下げたが、1996年でも4位だった。ところが2011年の順位は26位に低迷している。著者は、この競争力低下の原因は人材力と考えている。人材採用から育成のプロセスに問題があり、日本の人材力は低迷しているのだ。
著者は歴史を引用しながら、日本型雇用と欧米型雇用を比較して解説している。ご存じのように日本型雇用の最大の特徴は「年功序列」と「終身雇用」だ。
日本企業は未経験の新卒学生を正社員として採用し、戦力として育成していく。若い間は成果に見合う賃金を受け取れないが、年を重ねながら昇進・昇給していくので、定年まで勤め上げれば、十分に収支が合うのが「年功序列」と「終身雇用」だ。
「年功序列」と「終身雇用」が成立する条件は、右肩上がりの経済成長と労働人口の増大だ。しかしその条件は1990年代に失われる。労働人口は1998年の6793万人がピークだった。経済は失速し、GDPも過去20年間増えなかった。成立する条件はなくなっているがいまも日本企業の多くは、「年功序列」と「終身雇用」を引きずっている。
著者の解説を読みながら連想したのはマルチ商法だ。「年功序列」と「終身雇用」という日本型雇用もそうだし、年金・健康・介護などの保険もそうだが、少子高齢化の進行と経済の低迷によって成立の条件が失われ、マルチ商法に似た構造になっていると思う。
日本では解雇のことを「首切り」と言うこともあり、解雇する側も解雇される側も大きな心理的ストレスを抱く。しかし欧米の企業では、雇用の意味は日本とは異なる。そもそも新卒という概念が欧米にはないし、終身雇用を約束していない。
著者の言葉を引用しておこう。「欧米では、就職に際して、一般的に雇用契約に基づいて細かい労働条件が取り決められます。仕事の内容から業務範囲、権限、労働時間、給与など、ありとあらゆる項目にわたります。それらの項目に対する査定に基づいて契約が更新されるため、契約で取り交わした約束事が守られなければ契約解除(解雇)となるのが当たり前です」。
しかしこのような日本型雇用がこれからも継続できるのかと言えば、疑わしい。新卒採用と自社内育成は続くだろうし、労働法の縛りがあるので、欧米型の雇用契約にはならないだろうが、雇用環境自体が揺らいでいる。
シャープ、パナソニック、ソニー、ルネサス、エルピーダなどの大企業で大規模なリストラが行われると数年前に予測する人はいなかった。
電機・半導体業界の苦境の原因は、市場環境が激変したことだ。数年前まで液晶ディスプレイ、太陽電池、LEDは、これからの10年、20年を牽引する成長産業だと考えられていたが、台湾では液晶ディスプレイ、太陽電池、LEDにDRAMを加えて「4大惨業」と呼んでいるそうだ。こんなに市場の変動が大きい経済環境のなかで終身での雇用を約束することはできないと思う。
本書は個人にとっての問題は「グローバルスタンダードで通用するかどうか」であり、「企業は個人への支援を惜しまないが、守ることはできないということを明確にしておく必要がある」と主張している。
日本企業はしばしば「一家」にたとえられたが、家はもうない。個人は自己責任で自らのグローバルで通用する専門性を高めていかねばならないというわけだ。きつい時代になったものだと思う。
競争力の指標のひとつに「IMD世界競争力ランキング」があり、1990年から1992年まで日本はトップだった。その後順位を下げたが、1996年でも4位だった。ところが2011年の順位は26位に低迷している。著者は、この競争力低下の原因は人材力と考えている。人材採用から育成のプロセスに問題があり、日本の人材力は低迷しているのだ。
著者は歴史を引用しながら、日本型雇用と欧米型雇用を比較して解説している。ご存じのように日本型雇用の最大の特徴は「年功序列」と「終身雇用」だ。
日本企業は未経験の新卒学生を正社員として採用し、戦力として育成していく。若い間は成果に見合う賃金を受け取れないが、年を重ねながら昇進・昇給していくので、定年まで勤め上げれば、十分に収支が合うのが「年功序列」と「終身雇用」だ。
「年功序列」と「終身雇用」が成立する条件は、右肩上がりの経済成長と労働人口の増大だ。しかしその条件は1990年代に失われる。労働人口は1998年の6793万人がピークだった。経済は失速し、GDPも過去20年間増えなかった。成立する条件はなくなっているがいまも日本企業の多くは、「年功序列」と「終身雇用」を引きずっている。
著者の解説を読みながら連想したのはマルチ商法だ。「年功序列」と「終身雇用」という日本型雇用もそうだし、年金・健康・介護などの保険もそうだが、少子高齢化の進行と経済の低迷によって成立の条件が失われ、マルチ商法に似た構造になっていると思う。
日本では解雇のことを「首切り」と言うこともあり、解雇する側も解雇される側も大きな心理的ストレスを抱く。しかし欧米の企業では、雇用の意味は日本とは異なる。そもそも新卒という概念が欧米にはないし、終身雇用を約束していない。
著者の言葉を引用しておこう。「欧米では、就職に際して、一般的に雇用契約に基づいて細かい労働条件が取り決められます。仕事の内容から業務範囲、権限、労働時間、給与など、ありとあらゆる項目にわたります。それらの項目に対する査定に基づいて契約が更新されるため、契約で取り交わした約束事が守られなければ契約解除(解雇)となるのが当たり前です」。
しかしこのような日本型雇用がこれからも継続できるのかと言えば、疑わしい。新卒採用と自社内育成は続くだろうし、労働法の縛りがあるので、欧米型の雇用契約にはならないだろうが、雇用環境自体が揺らいでいる。
シャープ、パナソニック、ソニー、ルネサス、エルピーダなどの大企業で大規模なリストラが行われると数年前に予測する人はいなかった。
電機・半導体業界の苦境の原因は、市場環境が激変したことだ。数年前まで液晶ディスプレイ、太陽電池、LEDは、これからの10年、20年を牽引する成長産業だと考えられていたが、台湾では液晶ディスプレイ、太陽電池、LEDにDRAMを加えて「4大惨業」と呼んでいるそうだ。こんなに市場の変動が大きい経済環境のなかで終身での雇用を約束することはできないと思う。
本書は個人にとっての問題は「グローバルスタンダードで通用するかどうか」であり、「企業は個人への支援を惜しまないが、守ることはできないということを明確にしておく必要がある」と主張している。
日本企業はしばしば「一家」にたとえられたが、家はもうない。個人は自己責任で自らのグローバルで通用する専門性を高めていかねばならないというわけだ。きつい時代になったものだと思う。
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