高校生がアルバイトに精を出す春休みシーズン。しかし、彼らを雇う際にはちょっとした注意が必要だ。というのも、一般の成人に比べると、未成年は業務内容や勤務時間などについて、法律で多くの労働制限が設けられているのだ。高校生のアルバイトを雇う際、気を付けるべき点について、『改正労働者派遣法とこれからの雇用がわかる本』などの著者で、行政書士の小山内怜治先生に伺いました。
知っておくべき高校生の労働基準
高校生は、肉体的にも精神的にも、まだまだ未成熟。危険な仕事や深夜タイムの労働など、心身の発達を阻害するような仕事は原則として禁止されています。そもそも労働基準法(以下、労基)では、20歳に満たない者をどのように定義しているのでしょうか?
●法律での満20歳未満の者の位置づけ
上記のように、16歳以上20歳未満の高校生は「年少者」にあたります。年少者の労働者は、一般の成人労働者に比べ、法律で非常に強く守られているのが特徴です。雇用の仕方を間違えれば、重いペナルティを科されることにもなりかねません。
では、実際にどのような点に気を付ければいいのでしょうか? まずは「年少者」が法律で禁止されている業務について、おさらいしておきましょう。
・満20歳未満の者⇒「未成年者」
・満18歳未満の者⇒「年少者」
・満16歳未満の者⇒「児童」
●年少者が禁じられている業務 (労基第62条、第63条)
(1)運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせる業務
(2)毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務
(3)重量物を取り扱う業務
(4)年少者労働基準規則 第8条の業務(多種により省略)
(5)坑内の業務
(1)から(4)は危険有害業務の就業制限、(5)は坑内労働の禁止として定められたものです。一見マイナーなものばかりに思えますが、引越運送業や運送業などでは(3)に注意してください。年少者が扱える重さの限度は、男性が30キロ、女性が25キロまでとされています(断続作業の場合)。
次に、高校生の法定労働時間について見てみましょう。
●年少者の法定労働時間
・1日8時間までの労働が可能
・1週間の労働時間は40時間以内
・深夜タイム(午後10時~翌5時)の労働は禁止
1日8時間、1週間で40時間以内という点は、一般の労働者の勤務時間と同じです。ただし、高校生の場合は基本的に残業はできません。また、深夜タイムの扱いも大きく異なります。
ちなみに、労働時間には、朝礼や着替えのように“実労働”ではないものも含まれるのでご注意ください。一般的に、労働者が使用者の指揮命令下にある時間帯は、たとえ待機時間であってもすべて労働時間内とみなされます。
高校生の労働時間を延長する方法は?
高校生が法定労働時間を超えて働くことは原則としてできませんが、条件を満たすことで可能になるケースもあります。●ケース1:1日単位で10時間まで勤務時間を延長する
<条件>
・1週間の労働時間が40時間を超えないこと
・1週間のうち、1日の休日に加え、もう1日の労働時間を4時間以内に短縮すること(その場合は0時間でもよい)
<ポイント>
★1日10時間の日は、法定労働時間内とみなされるため、残業代(割増賃金)を支払う必要はない
★10時間の日は2日以上でもかまわない
★労使協定や就業規則の策定、労働基準監督署への届け出などは必要ない
★10時間働いてほしい日程が発生した場合は、事前または速やかに通知し、労働者の合意をとること
ケース1の場合、特別な手続きは必要ありません。ただし、あくまで1日8時間まで、週40時間までが原則であり、度が過ぎれば違法と判断されることもあります。東京高裁判決 昭和42年6月5日の“判例”では、「遅くとも週の始めに労働時間について計画を作成して労働者に通知し、週の途中で計画を変更する場合は計画を作成しなおすなどの対応が必要」とされています。
また、1週間の労働時間を48時間まで延長することもできます。この場合の条件を見てみましょう。
●ケース2:1週間単位で48時間まで勤務時間を延長する
<条件>(1ヶ月単位の変形労働時間制の場合)
・1日の労働時間が8時間を超えないこと
★1日10時間の日は、法定労働時間内とみなされるため、残業代(割増賃金)を支払う必要はない
★10時間の日は2日以上でもかまわない
★労使協定や就業規則の策定、労働基準監督署への届け出などは必要ない
★10時間働いてほしい日程が発生した場合は、事前または速やかに通知し、労働者の合意をとること
ケース1の場合、特別な手続きは必要ありません。ただし、あくまで1日8時間まで、週40時間までが原則であり、度が過ぎれば違法と判断されることもあります。東京高裁判決 昭和42年6月5日の“判例”では、「遅くとも週の始めに労働時間について計画を作成して労働者に通知し、週の途中で計画を変更する場合は計画を作成しなおすなどの対応が必要」とされています。
また、1週間の労働時間を48時間まで延長することもできます。この場合の条件を見てみましょう。
●ケース2:1週間単位で48時間まで勤務時間を延長する
<条件>(1ヶ月単位の変形労働時間制の場合)
・1日の労働時間が8時間を超えないこと
・変形期間中の1週間あたりの平均労働時間が40時間を超えないこと
<ポイント>
★「変形労働時間制」により1年単位、または1か月単位で働いてもらうこと
★ただし、就業規則や労使協定の策定などの手続きが必要
ほか、コンビニなど16~24時間営業などの店舗、または農林水産業、保健衛生業、電話交換業務などの業種においては、下記の条件を満たせば深夜タイムに働いてもらうことも可能です。
●ケース3:午後10時から午前5時までの“深夜タイム”に勤務時間を設定する
<条件>
・労働者は、16才以上の男性であること
・同一労働者が一定期日ごとに、昼と夜に交替で勤務に就く態様(交代制=いわゆるシフト制)の業務であること
<ポイント>
・厚生労働大臣の許可があれば、限られた場所・期間で午後11時から午前6時まで働くことも可能(労基第61条第1項、同第2項)
・労働基準監督署長の許可があれば、午後10時30分までの労働、または午前5時30分からの労働も可能(労基第61条第3項)
・深夜業の割増賃金を支払う必要がある
★「変形労働時間制」により1年単位、または1か月単位で働いてもらうこと
★ただし、就業規則や労使協定の策定などの手続きが必要
ほか、コンビニなど16~24時間営業などの店舗、または農林水産業、保健衛生業、電話交換業務などの業種においては、下記の条件を満たせば深夜タイムに働いてもらうことも可能です。
●ケース3:午後10時から午前5時までの“深夜タイム”に勤務時間を設定する
<条件>
・労働者は、16才以上の男性であること
・同一労働者が一定期日ごとに、昼と夜に交替で勤務に就く態様(交代制=いわゆるシフト制)の業務であること
<ポイント>
・厚生労働大臣の許可があれば、限られた場所・期間で午後11時から午前6時まで働くことも可能(労基第61条第1項、同第2項)
・労働基準監督署長の許可があれば、午後10時30分までの労働、または午前5時30分からの労働も可能(労基第61条第3項)
・深夜業の割増賃金を支払う必要がある
「年齢確認」を怠ると30万円以下の罰金に!
実際に高校生からアルバイトの応募があり、雇うことを検討する際は、必ず「年齢確認」を行ってください。労基で満20歳に満たない者については「その年齢を証明する戸籍証明書」で確認せよと定められているためです。「戸籍証明書」というと、「戸籍謄本」または「戸籍抄本」などを指しますが、年齢以外にも多くのプライバシー要素を含むため、管理が大変になる場合も……。上記はなるべく避け、「住民票記載事項の証明書」などで対応するのが一般的です。また、上記の証明書はコピーをとり、ファイリングして保管するなど、事務所に備え付けることも義務付けられています。
ちなみに、年齢確認を怠った場合は、雇用者側に30万円以下の罰金が科されるためご注意ください。
労働契約書を交わすことで“自衛”せよ
高校生を含め、実際に労働者を雇うことになれば、雇用者は労働条件を明らかにする義務があります。なかでも、「書面で通知すべき」と定められている主項目は以下の6つです。●労働者に文書で通知するべき事項1(労基施行規則第5条)
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
一の二は2013年4月1日から施行される内容です。まだ少し先ですが、早めに取り入れておいた方が労働者側にとっては親切でしょう。この書類は「労働契約通知書」といいます。
加えて、「パートタイム労働法」では、雇用者は労働者に対し、下記の主項目についても文書やFAX、メールなどで明示せよとされています。
●労働者に文書で通知するべき事項2(パートタイム労働法施行規則第2条第1項)
一 昇給の有無
二 退職手当の有無
三 賞与の有無
雇用者側はこれらを書面で交付する必要がありますが、労働者との“合意”(=労働契約)は必ずしも書面である必要はありません。しかし、雇用者側が通知した証拠や、労働者側が合意した証拠が残らないのは考えものです。
というのも、万一トラブルになって法廷で争うことになれば、相手が未成年者の場合は特に、労働者側に有利な判決が出ることが多いのです。雇用者側は自衛のためにも、書類を配布した証拠、労働者側が合意した証拠などを残しておいた方がよいでしょう。
その際に有効なのが、「労働契約書」や「雇用契約書」を作り、契約時に交わしておくことです。なお、契約書の形式であっても、先の「労働者に文書で通知すべき事項1」の内容が記載され、労働者に交付されていれば、改めて労働契約通知書を発行する必要はありません。
親・学校の許可は必要か?
未成年者である高校生は、民法上、単独で完全な契約を結ぶことはできません。つまり、高校生をアルバイトとして雇う場合は、両親が同意したという事実が必要です。上で述べた労働契約書や雇用契約書を作る際は、両親の同意を証明する署名押印の欄を作っておきましょう。直筆であれば有効な意思表示になりますが、念のために実印で押印もしてもらうのが確実です。
とはいえ、本当に両親が書いたのかは書類上では確かめようがありません。後々のトラブルを避けるためにも、ごあいさつを兼ねて高校生の自宅に1本電話を入れてみてはいかがでしょうか。
一方、高校生のアルバイトに関する学校の許可は、労基では必要ないとされています。また、学校長には労働契約を解除する権利はありません。ただし、校則違反のまま働かせておくのは倫理的に問題です。学校がアルバイトを許可しているかどうかを事前に本人に確認するか、契約書の中に確認事項を盛り込むのもよいでしょう。
高校生がいかに手厚く法律で守られているか、すでにおわかりいただけたと思います。高校生だからといって、ずさんな管理に甘んじるのではなく、「高校生だからこそ労務管理を徹底する」という考え方で臨むことが大切です。
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