「クレド」とはラテン語で“信条”を表す言葉である。最近ではビジネス用語としても知られており、「企業の従業員の行動指針」という意味で使われている。このクレドは、企業が掲げることで、人材育成や従業員のモチベーションアップにつなげることが期待できる。そこで今回は、クレドが企業にもたらすメリット、導入するうえで起きやすい失敗例、そして混同されやすい「企業理念」との違いについても解説していく。
「クレド」の意味とは? カード配布だけになっているといった失敗例、ザ・リッツ・カールトンや楽天の企業事例などを解説

「クレド」の意味や経営理念との違いなどを解説

「クレド」とは、ビジネスシーンで“行動方針”という意味で使われる言葉である。従業員がどう行動すべきかを具体的に示したもので、業務を行う際の判断の参考にされるものである。

また、クレドは部署単位、プロジェクト単位で決められているものではなく、企業全体、つまり経営陣から従業員すべてを対象としている。

●「クレド」が重要視されている背景

「クレド」が重要視されるようになった背景には、“企業の不祥事”の多発がある。近年、企業の従業員の行動が、悪い意味でニュースを賑わせることがある。さらに、問題を起こしてしまった企業がネット上で話題となり、結果として消費者の「不買運動」や「抗議活動」へとつながる、といった事例もよく聞かれる。

このような事態が相次いだことにより、企業、そして全従業員の倫理観が従来にも増して重要視されるようになってきた。企業がこのクレドを策定して示すことによって、従業員が守るべき信条の浸透やモラルの向上、コンプライアンス遵守も期待される。

また、各企業を取り巻く環境も激しく変化しており、従業員はどう動くべきなのかが分かりにくくなっている。従業員全体に共通の価値観を持ってもらうためにクレドを策定する、という企業もある。

●経営理念や企業理念との違い

クレドと混同しがちな言葉として、「経営理念」や「企業理念」がある。これらの意味について解説しておく。

経営理念:経営者の信条を示すもの
企業理念:経営理念を元に企業の価値観を示したもの


クレドは、これらの理念を実践に落とし込めるような行動を具体的に示したものである。なお、経営理念は創業の時から変わらないものであるが、クレドは時代や社会の動きに応じて変化させていくものである、という違いもある。

参考までに、こちらも混同しやすい用語として「ミッション」と「ビジョン」がある。

ミッション:企業の目的、使命、任務
ビジョン:企業の目標、企業の方向性

「クレド」は企業や組織にどのようなメリットをもたらすのか

「クレド」を策定することで、企業・組織にどのようなメリットをもたらすのかを確認していこう。

●従業員の意識改革・一貫した行動の定着

「クレド」があることで、企業が従業員に持ってもらいたい価値観を示しているともいえる。従業員はどのように行動すべきか迷った時は、クレドに従って判断することができる。

●人材育成ができる

従業員研修などを行っても、日々の業務に追われ、いつの間にか忘れてしまうことも考えられる。しかし、従業員の行動指針を示すクレドを日頃から共有しておくことで、企業が進む道や価値観も自然と共有できる。クレドは、企業の価値観に沿った行動ができる従業員を育成する手段ともなるのだ。

●モチベーションアップにつながる

企業が「どう行動すべきか」を従業員にはっきり示すことで、従業員は自信を持って業務に取り組むことができる。従業員によって受け取り方が変わってくるような曖昧な表現ではなく、具体的な行動指針であるクレドを示す。そうすることで、積極的に業務にあたることができ、成果の向上にもつながる。成果が上がってくることで、従業員のモチベーションアップも期待できる。

●コンプライアンス遵守につながる

元々「クレド」は、企業や従業員のモラルの向上を目的として導入されたものだ。クレドを守ることで、従業員はモラルのある行動をとることができる。結果として、コンプライアンス違反をする従業員を減らす効果も期待できるだろう。

●他社との差別化ができる

「クレド」があることで、独自のサービスや事業を生み出しやすくなり、他社との差別化も図れる。また、クレドに従い、高いモチベーションを持って働く従業員がいることで、企業の競争力も強化される。競争力が高い企業になると、採用活動で優秀な人材が集まることも期待できる。

「クレド」を導入するうえで起きやすい失敗例を紹介

ここまで、人材育成や従業員のモチベーションアップなど、「クレド」導入のメリットを紹介したが、導入に失敗することもある。ここではクレドを導入するうえで起きやすい失敗例について解説する。

●経営陣のみで作ってしまう

経営陣のみでクレドを作ると、経営陣にとって都合のいいことばかりが盛り込まれたものが出来上がる可能性がある。従業員の理解が得られないと導入失敗に終わるだろう。

この失敗を防ぐためには、クレドを経営陣が中心になって策定するのではなく、従業員主体で作っていくことが望ましい。できれば作成の作業は従業員で行い、経営陣側はそれに対して運用許可を出すだけの立場でいる方が良い。経営陣側は、クレド作成メンバーから経営理念や方針を問われた時のために、しっかり回答できるよう事前準備を行っておくといいだろう。

●「クレド」の目的や成果が共有されない

「クレド」作成の目的をはっきりさせ、従業員全体に認知させることは重要だ。しかし、それだけではなく、その成果を適宜、経営陣と従業員側で共有することも必要となってくる。

クレド導入の成果が上がっていることが、経営陣や作成に関わらなかった従業員にまで周知されていないと、クレド導入に対し、十分な理解が得られないからだ。

●クレドカードの配布、朝礼での唱和だけになっている

「クレド」を浸透させるために、クレドカードの配布や朝礼での唱和を行う企業も多い。しかし、クレドの内容を知っているだけで、行動にまで落とし込めていない場合は失敗といえる。

クレドを単なる標語、目標にしないためにも、クレドを作成する時点で、「行動に移すことができる内容か?」、「業務に即した内容になっているか?」をよく考えることが重要だ。

また、クレドの目的が「ありがちな内容」、「曖昧な内容」になっていないかどうかにも注意を払っておきたい。従業員が行動をイメージしにくい内容の場合は浸透しにくく、クレドの存在が忘れられてしまう恐れがあるからだ。

「クレド」を取り入れている企業の事例とは

これから「クレド導入」を検討、改善する企業のために、すでに導入に成功している企業の例を紹介していく。

●ザ・リッツ・カールトン

ザ・リッツ・カールトンでは、以下の6つの企業理念「ゴールドスタンダード」を定めている。

・クレド
・モットー
・サービスの3ステップ
・サービスバリューズ
・第6のダイヤモンド
・従業員との約束


企業理念で記された「クレド」は以下のようなものだ。

「リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。

私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。

リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。」


そもそも、企業理念の「ゴールドスタンダード」が行動に移しやすいように作られているもので、クレドはそれをさらに具体化したものだといえる。また、クレドでは具体的な行動を示すだけではなく、企業の価値観についても、ベテラン従業員から新人にまで伝わりやすいように記載されているのが特徴だ。

●楽天グループ株式会社

楽天グループ株式会社では、企業理念を以下のように定めている。

「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」

この企業理念を受けて、次のようなブランドコンセプトを設けている。

・大義名分 -Empowerment-
・品性高潔 -気高く誇りを持つ-
・用意周到 -プロフェッショナル-
・信念不抜 -GET THINGS DONE-
・一致団結 -チームとして成功を掴む-


これらのブランドコンセプトの中に、具体的な行動についても記載されている。例えば、「品性高潔 -気高く誇りを持つ-」の中には『「気高さ」「誇り」「うそをつかない」「誠実」というスタンスが、楽天グループにおいて事業を行う上での大前提です』という文言があり、従業員の持つべき価値観や行動を分かりやすく示している。
ラテン語で「信条」という意味のある「クレド」は、「企業の従業員の行動指針」という意味で、ビジネスの上でも知られる言葉となっている。クレドは、企業の価値観だけでなく、具体的な行動まで示しており、従業員のコンプライアンス遵守の一助となっていることはもちろん、モチベーションの向上や従業員教育の面でも有益なものとなっている。

これからクレドを検討、改善していくならば、経営陣が自身の価値観を押し付けることがないよう、できれば従業員側が主体となって作成することが望ましい。また、従業員に浸透させるためにも、具体的な行動まで示した内容にすることも重要だ。クレドの内容や成果を共有するためにも、導入の成果を経営陣と従業員側で共有することも必要となってくる。

なお、クレドは経営理念とは違い、社会の動きや情勢に合わせて修正するものである。この点も頭に入れてクレドの取り組みを推進したい。
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