今年秋から改定される「最低賃金」の目安が公表され、今後も最低賃金の上昇が予想されることがわかりました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で経営が厳しい中、さらなる“最低賃金の引き上げ”に企業はどう対応したらよいのでしょうか。他方で、“デジタル化に取り組んでいる企業は労働生産性が高い”ということもデータとして出てきています。今回は、コロナ禍を契機とした「企業が取り組むべきデジタル化」について考えてみました。
引き上げが続く「最低賃金」、デジタル化の推進が“労働生産性向上”の鍵となるか

「最低賃金」は今後も上昇し続ける傾向に

毎年夏になると、「地域別最低賃金額改定」の目安が公表されます。秋に最低賃金の改定が行われるためです。そして、今年も中央最低賃金審議会から、2021年の最低賃金の目安が答申されました。その内容は、「全ての都道府県において2020年の最低賃金から28円を目安として引き上げる」といったものでした。この金額は、1978年度に目安制度が始まって以降の最高額となり、引上げ率に換算すると3.1%です。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で経営が厳しい企業にとって、この最低賃金の引き上げは、企業経営に大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。

しかし、政府の骨太方針2021でも「(2020年は902円だった)最低賃⾦について、より早期に平均1,000円を⽬指す」と書かれているように、今後も最低賃金の上昇が予想されます。


地域別最低賃金(東京都と全国加重平均)

※「独立行政法 労働政策研究・研修機構:最低賃金(地域別最低賃金 全国加重平均額)」および「厚生労働:東京都最低賃金改正経過一覧」をもとに監修者が作成

最低賃金の引き上げで考えたい、「デジタル化の推進度合い」と「労働生産性向上」の関係性

このような状況で、企業として何をしていけばよいかを考えてみると、やはり“労働生産性を上げること”がポイントとなってきます。2018年のデータ「デジタル化における事業継続力強化への意識と労働生産性との関係」を見てみましょう。

労働生産性の平均値は、図の1番上にある「事業継続力の強化を意識して、デジタル化に取り組んでいる企業」の「6,692千円/人」が最も高いと分かります。次いで「事業継続力の強化を意識せず、デジタル化に取り組んでいる企業」は「5,552千円/人」、最も労働生産性が低い「デジタル化に取り組んでいない企業」は「4,994千円/人」となっています。したがって、「事業継続力の強化を意識してデジタル化に取り組んでいる企業」の労働生産性は、「デジタル化に取り組んでいない企業」のそれと比較して、134%(=6,692千円/人÷4,994千円/人×100)の水準となります。

企業文化やその他の要因も数々考えられるため、「デジタル化」だけが労働生産性を向上させているわけではないと思います。ですが、少なくとも「デジタル化」は、労働生産性を高める上での重要な要素のひとつだということが言えるでしょう。
労働生産性の水準(デジタル化における事業継続力の強化に対する意識別)

最低賃金の上昇をきっかけに取り組む「デジタル化の推進」、まずは自社がすぐに取り掛かれそうなことから

「『デジタル化』の重要性については十分理解しているものの、社内で推進するにしても何から始めたらよいのか分からない」という方も少なくないのではないかと思います。経済産業省の「DXレポート2 中間取りまとめ」に、“コロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきアクション”として、次の2つが挙げられています。

●コロナ禍でも従業員・顧客の安全を守りながら事業継続を可能とするにあたり、以下のようなカテゴリの市販製品・サービスの活用による対応を検討すべき

●こうしたツールの迅速かつ全社的な導入には経営トップのリーダーシップが重要。企業が経営のリーダーシップの下、企業文化を変革していくうえでのファーストステップとなる


上記について、具体的には以下4つのカテゴリに分けられており、人事などのバックオフィスで着手できるものも数多くあります。業種によって当てはまるもが異なるので、自社でできるところから取り掛かるのがよいでしょう。

1)業務環境のオンライン化

・テレワークシステムによる執務環境のリモートワーク対応
・オンライン会議システムによる社内外とのコミュニケーションのオンライン化

2)業務プロセスのデジタル化

・OCR製品を用いた紙書類の電子化
・クラウドストレージを用いたペーパレス化
・営業活動のデジタル化
・各種SaaSを用いた業務のデジタル化
・RPAを用いた定型業務の自動化
・オンラインバンキングツールの導入

3)従業員の安全・健康管理のデジタル化

・活動量計等を用いた現場作業員の安全・健康管理
・人流の可視化による安心・安全かつ効率的な労働環境の整備
・パルス調査ツールを用いた従業員の不調・異常の早期発見

4)顧客接点のデジタル化

・電子商取引プラットフォームによるECサイトの開設
・チャットボットなどによる電話応対業務の自動化・オンライン化


最近は様々なクラウドサービスが増えており、初期費用などのコストも少なく手軽に取り組めるものもよく目にします。また、RPAなど作業の自動化を導入する場合も、プログラミングのスキルがなくても取り組みやすいノーコードまたはローコードの製品も多くあります。自社の効率化を進めるために、できるところから「デジタル化」への取り組みを始めてはいかがでしょうか。


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